「漱石山房の津田青楓」 新宿区立漱石山房記念館

新宿区立漱石山房記念館
「特別展 漱石山房の津田青楓」 
2021/1/26~3/21



新宿区立漱石山房記念館2階資料展示室で開催中の「特別展 漱石山房の津田青楓」を見てきました。

図案家であり、日本画家や洋画家としても活動した津田青楓は、30代にして夏目漱石と出会うと、絵を教えたり、連れ立って展覧会へ出向くなどして交遊を深めました。

そうした青楓の手がけた漱石本の装幀を中心に紹介するのが「漱石山房の津田青楓」展で、書籍、資料、さらには絵画や書簡が約90点弱ほど展示されていました。

はじまりは漱石と出会うまでの青楓の軌跡を辿っていて、文芸雑誌「ホトトギス」に投稿した雑誌資料などが並んでいました。今回の青楓展ではいわゆる描く仕事でなく、書く仕事に着目しているのも特徴で、青楓の知られざる文筆活動の一面を知ることができました。


漱石を青楓が訪ねたのは、フランスへの留学を終え、1911年に京都から東京に移り住んでからのことでした。きっかけは、青楓が「ホトトギス」へ投稿した作品に漱石門下の小宮豊隆が関心を寄せたからで、青楓は小宮の紹介によって漱石と会うことができました。いわば「ホトトギス」が青楓と漱石の縁を繋いだと言えるかもしれません。

青楓は漱石の主に晩年に作品に装幀を手がけていて、会場では「行人」や「道草」、それに「明暗」などの書籍が展示されていました。また装幀のための図案集や「フランス刺繍花と鳥」も興味深いのではないでしょうか。青楓はフランスから帰国すると、装飾風の日本画や工芸品を制作していて、一時は刺繍が中心を占めていました。



漱石山房と青楓に関した資料も見逃せませんでした。この漱石山房とは、まさに記念館の地に建っていた晩年の漱石が過ごした家で、毎週「木曜会」などのサロンが催されては、多くの若い文学者が集っていました。

ここでは山房を南画風に表した「漱石先生閑居読書之図」や「漱石山房図」などが並んでいて、漱石の愛した芭蕉が生茂る往時の山房を見ることができました。

1916年に漱石が世を去った際、青楓は葬列にて人目を憚らず泣きじゃくったと伝えられています。そして展示でも漱石と青楓の関係に着目していて、記念館2階の1室における小さなスペースながらも、密度の濃い内容だと言えるのではないでしょうか。ちょうど昨年、練馬区立美術館にて「画家 津田青楓とあゆむ明治・大正・昭和」と題した大規模な回顧展が行われましたが、それを補完するような展示だったかもしれません。



さて新宿区立漱石山房記念館は、漱石が生まれ育った早稲田南町の住宅街の中、かつて漱石山房の建っていた地に位置しています。



漱石の没後に夫人が土地を購入し、母屋の増改築などが行われるなどして長く残されてきましたが、戦争の空襲によって1945年に焼失し、戦後に跡地は東京都の所有となりました。1950年からは都営アパートの敷地として使用されていたそうです。



しかし1976年に一部が漱石公園と整備されると、アパートの移転に伴って、2017年に漱石の記念館である同館が建てられました。まだオープンしてから数年しか経過していないゆえか、建物の外観も真新しく見えました。



記念館は地下1階、地上2階建てで、1階に漱石の生涯などをパネルや映像で紹介する導入展示と、山房の書斎やベランダ式回廊を再現した展示室があり、2階に青楓展が行われている資料展示室が広がっていました。また地下には図書館や事務室がありました。



漱石山房は空襲で焼失したものの、遺品や写真類は疎開されていたため難を逃れ、後に神奈川県立近代文学館へと寄贈されました。また漱石の旧蔵書も、青楓を漱石に紹介した小宮豊隆の尽力によって東北大学へと譲渡されたため、戦禍を免れました。



山房の書斎の再現に際しては、神奈川県立近代文学館の協力を経て、調度品や複製資料などが作られました。紫檀文机や飾り棚などが見事に再現されていたのではないでしょうか。



記念館の裏手には漱石公園が広がっていて、かつての夏目邸の母屋の遺構や、同家で飼われた猫などの生き物を供養するための石塔が残されていました。なお石塔は空襲で損壊したものの、残欠を利用して再興されたもので、山房唯一の遺構でもあるそうです。



1階エントランスに面したカフェ・ソウセキにて、「吾輩は猫である」に登場する空也もなかのセットをいただきました。またブックカフェも併設されていて、漱石作品や関連の図書などを読みながらコーヒーを楽しむこともできました。



カフェ・ソウセキは当面の間、漱石山房記念館の休館日と火、水曜日が休業となるそうです。ご利用の際はご注意ください。



新型コロナウイルス感染症対策に伴い、入場時に検温と手指の消毒、また連絡先などを記入する必要があります。但し事前予約は不要です。



3月21日まで開催されています。

「特別展 漱石山房の津田青楓」 新宿区立漱石山房記念館 2階資料展示室
会期:2021年1月26日(火)~3月21日(日)
休館:月曜日。但し祝日の場合は開館し、翌平日が休館。
時間:10:00~18:00
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般500円、小・中学生100円。
 *土日祝日は小中学生が無料。
場所:新宿区早稲田南町7
交通:東京メトロ東西線早稲田駅1番出口より徒歩約10分。都営地下鉄大江戸線牛込柳町東口より徒歩約15分。
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