帆山亭のなつかしい暖簾
まさに秋深し、雪になるまえに阿蘇山へ、
そして、黒川温泉っへ行ってみたいなぁ・・・
ちいさな声でつぶやいていたら、「うん、いってみょうか」と
じいやがちゃ~んと聞いていた。
思えば16年前に、次女が結婚直前に独身最後の親孝行で、
親子3人でここ黒川温泉へ。
その頃は、ひなびた山奥の温泉といったような感じがあったが・・・。
「帆山亭」 見覚えのあるグリーン色、少し色あせた暖簾が
ひんやりとした風にゆらゆらとゆれていた。
食事何処入り口では、なつかしい鉄瓶にお湯がしゅんしゅんと湯気をたててお出迎え。
「あ~、来たね・・・なつかしいねぇ・・・」
16年の歳月はずいぶんと様変わりしたように思えたが、しっとりとした宿の風情は変わらないままに。
庭が広くなり、みどりの木々はすっかり大きくなっていて、清よく澄んだ池のほとりにも
青々とした苔や水草が繁り、宿の部屋数もたいそう増えていた。
「ほう、やはり繁盛したのね」「来てよかったね」としばし眺めていた・・・。
部屋は1戸建てなので、静かで落ち着いた2階のある部屋に案内された。
一階は応接間風で古いピアノが置いてあり、ちいさな山水風の庭仕立てと、
ゆるやかな階段の白木がさらに和風をひきたてていた。
食事何処は別棟に、各々宿の下駄をはいて飛び石をチョンチョンととんで暖簾をくぐる。
夕食、ほんの一部から
掘り炬燵風の座卓には、仲居さんがつぎつぎと料理をはこんで来る。
総勢で約30人位だろうか、老若それぞれ二人連れ、男性ばかりのグループもありにぎやかだ。
スマートな外国人カップルもあり、宿の繁盛ぶりがよくわかる。
ひと風呂もふた風呂も満喫したじいやは、満腹状態で さっそく横になっていてトロトロ・・・
私はそっと階段を下りた。ピアノを弾いてみょうかなぁ・・・
子どもの頃を思い出しながら・・・ゆっくりと鍵盤に指をおいてみた。
~静かなしずかな 里の秋~ ♫~♫~
よく朝、 朝食もおなじところで、ゆっくりといただいた。
仲居さんが
『昨夜、奥さまが・・・』と・・・ 夫が「ハ~イ」と答えていた。
さっきのハ~イはなんだった?
『・・・ 奥さまがピアノを弾いていられましたね』
といわしたったい。
じいやは、いびきをかきながら、聞いていたのね・・・
あと3年足らずで、金婚式をむかえられるはず・・・
元気でいたい・・・。