事務職員へのこの1冊

市町村立小中学校事務職員のたえまない日常~ちょっとは仕事しろ。

史劇を愉しむ 第8章~シルミド

2008-04-26 | うんちく・小ネタ

「MUSA-武士-」&「殺人の追憶」はこちら。

シルミド」(’03 韓国)
原題「実尾島(シルミド)」 監督:カン・ウソク 出演:ソル・ギョング

Silmido 1968年、インチョン沖の無人島シルミドに、犯罪歴を持つ31人の男たちが極秘裏に集められた。彼らに下された命令は、「北に潜入して、金日成の首を取ること」。男たちは、「任務を果たせば犯罪者から英雄になって故郷へ帰れる」という教官の言葉を信じ、過酷な訓練に耐えてゆく。だが、国を取り巻く情勢が変化し、政府が彼らの存在を闇に葬り去ろうとしたとき、男たちは自らの名誉と誇りを取り戻す戦いへと立ち上がった。

……これも実話。汗くさ~いお話。イケメン好きにはおすすめできません。みんなおっさんだから。それにしてもこんな事件があったのか。国の恥であることは確実なのに、そのことを露悪的ではなく描けるまでに韓国の政治状況は成熟したわけだ。北朝鮮が身内の恥をさらせるまでに、あとどれぐらいかかるだろう。それにしても、38度線って、わりと簡単に突破できるんだなあ。

北朝鮮の連中はこの映画をどう観たんだろう☆☆☆★★

次章は「大統領の理髪師」を。

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史劇を愉しむ 第7章~韓流

2008-04-26 | うんちく・小ネタ

キリスト復活劇「パッション」はこちら。

Img10394373834  今回は「史劇を愉しむ」韓流篇。もっとも近い国でありながら、どうも朝鮮の歴史についてわたしはほとんど理解していない。李氏朝鮮とか高句麗とか、単語は思い浮かぶんだけどこれが有機的につながっていないっちゅうか(T_T)

MUSA -武士-」(’01 韓国=中国)
監督:キム・ソンス 音楽:鷺巣詩郎 出演:チョン・ウソン、チャン・ツィイー

1375年、高麗は明朝と友好関係を築くため、南京城へ使節団を遣わす。しかし、城に辿り着いた使節団はスパイ容疑をかけられ、広大な砂漠地帯へ流刑される。ところが一行は、砂漠へ向かう途中、明を目の敵にする元軍の襲撃に遭い、使節団を連行していた明の兵士が全滅してしまう。図らずも解放された形となった使節団のチェ・ジョン将軍は、わずかな水と食料にも故郷・高麗へと向かう決死の行軍を決断する……(作品紹介より)

……隣に中国という圧倒的な存在があったために、朝鮮の外交がずいぶんときわどい綱渡りをやらざるをえない状況はよくわかった。かなり屈辱的な扱いも受けたのだろう。日本は朝鮮という緩衝材があったことで島国根性をかかえこんでぬくぬく生き延びて来れたのでは?九州と朝鮮が地続きだったら、あるいは司馬遼太郎が仮定したように、日本の東の海上に、日本と同じぐらいの大きさをもった島国が存在したら……歴史は大きく変わっていたはずなのだ。

不良主婦の知り合い、サイトーさんがベストに選んだだけあってすばらしい映画。考え抜かれた脚本。意志をもつカメラワーク。ぜひ。

                               韓流イケメン好きの方々もぜひ☆☆☆☆

殺人の追憶」(’03 韓国)
監督:ポン・ジュノ 音楽:岩代太郎 出演:ソン・ガンホ キム・サンギョン

861106379 1986年-1991年、韓国のある農村で10人の女性が殺された。3000人の容疑者が取り調べを受け、180万人の警官が動員されたが、たった1人の犯人はまだ捕まっていない…

 前にもふれたけれどこれは傑作。犯罪の何ものも描かないのに、時代だけはゴリゴリに描写。すごい。病んだ現代を、こんな形で語れるとは韓流おそるべし。

                 

一瞬だけ見える犯人が怖い。実話だってのもなお怖い☆☆☆☆

※次章も韓流「シルミド」を。 

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史劇を愉しむ 第6章~「パッション」

2008-04-26 | うんちく・小ネタ

第5章「太平洋の嵐」はこちら。

Mpw9435 わたしはキリスト者ではないし、イエス・キリストの受難(パッション)がどのような意味合いをもっているのか今ひとつ理解していない。それどころか彼の生涯のアウトラインにしても、例によって単語でしか知らないのだ。マグダラのマリアって、具体的にどんな女性だったかあなた知ってます?

 メル・ギブソンが私財を投じ、登場人物にすべて古語を話させ、反ユダヤ主義を増長させかねないと論議を呼んだキリスト最後の12時間を描く映画。こいつはキリスト教の知識がなければ理解不能だろうと、事前に「キング・オブ・キングス」「クォ・ヴァディス」、そしてイタリアのテレビ映画でピーター・オトゥールがアウグストゥスを演じた「ローマン・エンパイア」なんて珍品まで観て予習。この根性が実生活にもあれば。

 キリストの生涯の頂点は、おそらく山上の垂訓の場面だろう。不謹慎な言い方になるが、“奇跡を起こすと評判の男の説教に、いつのまにか多くの人間が集まってしまう”経緯は、まるで野外ロック・フェスみたい(だから「ジーザス・クライスト・スーパースター」も観ておきたかったのに酒田のビデオ屋には無し)。当時としては超・新興宗教の教祖だったキリストの存在が、ユダヤ教やローマ帝国にとってどれほどの脅威だったかまではよくわからない。でも、ひとつだけ納得できたのは、キリスト教は他の宗教と同じように「弟子によって彩られた物語」であることだ。彼につきしたがう無学な男たちの布教によってイエスの教えは一大メジャー宗教と化すが、これらは弟子の言葉というフィルターを通して行われたことに勘どころがあるように思えた。いかようにも解釈ができ、そしていかようにも思い入れを許せるようにと。キリストの真実の姿を描く、とされる映画が、常に批判と中傷にまみれるのはそのせいもあるだろうか。

わたしは最後までキリストのことはわからなかったが、ユダについては少し感じとれた。「パッション」では世評どおり金にころんだように描かれているが、実際には「キング・オブ・キングス」にあるように、ひいきの引き倒し(「主よ、奇跡を起こしてください!」)がこの悲劇を呼び起こした……こう考えた方が事実に近いのではないだろうか。カリスマにとって、最大の敵は信奉者だという教訓。史劇は、やはりお勉強になる。

次章は韓流篇です。

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史劇を愉しむ 第5章~「太平洋の嵐」

2008-04-26 | うんちく・小ネタ

第4章「ハワイ・マレー沖海戦」はこちら。

10000763 「太平洋の嵐」(’60 東宝)
監督:松林宗恵 脚本:橋本忍 主演:夏木陽介、鶴田浩二、藤田進(山本五十六)

 ユニバーサルのはりぼて大作「ミッドウェイ」が特撮シーンを流用したのはこの映画から。主人公夏木陽介はせっかくミッドウェイ海戦から生還したのに、海軍のドジぶりと敗戦の事実を知られたくないために病院に押し込められ、祖国に背を向けて死の戦場に飛び立っていく……

「ハワイ~」と違って負け戦も描いているのでラストは苦い苦い。反戦のメッセージと戦争映画のおもしろさの同居はかなり複雑な問題。イーストウッドがつくった硫黄島二部作は、そのあたりをうまくクリアしていたが。

この映画で引退した上原美佐がひたすらかわいいですっ☆☆☆★

次回はキリスト復活劇「パッション」を。

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史劇を愉しむ 第4章~「ハワイ・マレー沖海戦」

2008-04-25 | うんちく・小ネタ

第3章「日露戦争」篇はこちら。

10000762 「ハワイ・マレー沖海戦」(’42 東宝)
監督:山本嘉次郎 特殊技術:円谷英二 主演:大河内伝次郎 原節子

「史劇を愉しむ」シリーズ太平洋戦争篇ということでいきましょう。この映画は開戦一周年を記念してつくられた大作。題名どおり真珠湾攻撃とマレー沖海戦という日本海軍の大勝利を描いたもの。なんといっても円谷英二の特撮がすごい。ハワイの山を回りこんで爆撃する戦闘機の姿など、戦中でこのレベルならもうちょっと戦後は進歩していてもよさそうなものじゃないかと思うぐらいだ。実際、戦後の東宝戦争映画ではこの映画の特撮シーンがさんざん使い回されている。まあ、ハリウッドにしたって大作だったはずの「ミッドウェイ」あたりは円谷特撮をそのまんま流用していたんだけど。

 この映画は戦闘の連続だけではなくて、予科練の生活が地味ぃに描かれたりもしている。しかしこれがもうなんちゅうか“不健康なまでに健康”で、ちょっと怖い。乱暴な言い方をすれば、戦前の日本と現代の北朝鮮の相似を思ったりもする。国策戦意高揚映画だから仕方ないとはいえ、戦後、監督の山本は東宝争議(戦闘機以外は全部来た、と有名なストライキ及びGHQによる排除事件)の際に自己批判させられたりしている。でも、この映画が生み出した技術によって、戦後の特撮天国ニッポンが支えられていたのは事実なのだった。

次回は「太平洋の嵐」を。

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史劇を愉しむ 第3章~日露戦争

2008-04-25 | うんちく・小ネタ

第2章「日本海大海戦」はこちら。

4988102759315 またしても日露戦争。今回は二本立て。かの有名な山中峯太郎原作の「敵中横断三百里」(’57大映)と、東宝とシナノ企画(創価学会の一部門)が総力を結集した「八甲田山」(’77)。こちらの原作は新田次郎。どちらもほぼ実録。

日露戦争については、勝ち戦だったことも手伝って、さまざまなドラマが喧伝され、「知ってる知ってるこのエピソード!」がてんこ盛り。小さな事実を派手に仕立て上げることで、幕藩政治の気風を一掃し、国民意識を植えつけるのにこれほど有効な手段(戦争も、美談化も)はなかったろう。今でも(2005年ネタですみません)ナベツネあたりは堀内を擁護するのに『日露戦争のさなかに東郷司令官を批判するようなもの』なーんてアナクロなレトリックを使うほどだ。

「敵中~」の脚本はなんと黒澤明。おかげで田舎のビデオ屋にもDVDが入荷していて楽しむことができる。「日本海大海戦」などの東宝の空疎な大作と違い、職人監督森一生が端正に物語っていて好感がもてる。旅順陥落後、日本にはもう余裕がないから最後の一発勝負の戦場がどこになるのか、建川中尉(菅原謙二)が騎兵隊を組織して探り出す顛末。「最大の敵は雪だ」と馬賊(この存在は檀一雄の「夕日と拳銃」参照)が警告するくだりがあるが、北海道で長期ロケを敢行したわりにはその恐怖は感じとれない。

その点、高校時代以来ひさしぶりに再見した「八甲田山」はすごい。観ているだけでさっむー。高倉健をはじめとした超豪華キャストが、よくこんな過酷なロケに耐えたものだと思う。

Hakkoudasan この映画の成功には、その雪の恐怖を描ききったことの他に、ちょっとひねった配役も貢献している。主役二人が、メイン→八甲田山踏破成功組高倉健、サブ→天はわれらを見放しちゃって失敗組北大路欣也、こんな構図(アムンゼンとスコットですな)なのだけれど、北大路の奥さんが栗原小巻、高倉の奥さんが加賀まりこなのである。これ、普通逆でしょう?高校生だったわたしですらそう思い、しかしそのためにこの大作が、ただ製作費がでかいだけの代物ではないことを感じとれたのだった。何よりも、やくざ映画のスターだった高倉健を主役にもってきたあたりが最大の成功要因だったわけだろうが。高倉隊を案内する若い主婦を演じた秋吉久美子(これも意表をついたキャスト)がひたすら可憐。

二作とも、一見の価値あり。それにしても、日露戦争の勝利って、ほーんときわどいところだったんだねえ。それなのに何を誤解したんだか……(太平洋戦争篇へつづく)

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史劇を愉しむ 第2章~「日本海大海戦」

2008-04-24 | うんちく・小ネタ

第1章「トロイ」はこちら。

昭和44年 東宝 監督 丸山誠治 脚本 八住利雄
主演 三船敏郎(東郷平八郎)
    笠智衆(乃木希典)

Nihonnkaidaikaisenn 史劇、というには近代すぎるような気もするけれど、今回は日露戦争のお話。この戦争については東映の「二百三高地」や、嵐寛寿郎が明治天皇を演じたその名も「明治天皇と日露大戦争」(新東宝)があって、いずれも大ヒットしている。何と言っても勝ち戦はやはり気持ちがいいしね。「日本海大海戦」も、その年の興行成績第2位。でも製作費がとてつもなかったので東宝としては複雑な思いだったらしい。

’69年といえば、70年安保で世間が騒然としていた頃なのに、この映画の古色蒼然ぶりは気が遠くなるほど。軍歌で有名な広瀬中佐(加山雄三)の♪杉野はいずこ~♪や、ロシア革命を背後から支援した明石元二郎(仲代達矢)、敵前大回頭(東郷ターンね)や、バルチック艦隊を見つけた宮古島の島民が石垣島まで全力で向かった「久松五勇士」とか、むかーしの教科書に載っていたようなエピソードが全部出てくる。しかしこの“全部出てくる”ところが問題で、いかにも東宝の大作らしくコクのない仕上がりになってしまっている。

 われわれの世代にとって、日露戦争の評価はどうしたって司馬遼太郎「坂の上の雲」を無視できない。“無能な”乃木と、司令官となった最大の理由が“運の良さ”(笑)だった東郷という対比は、司馬の作品よりも東宝紙芝居映画の方が露骨だったかも。この二人が軍神となっていく過程にこそ、日本の不幸があったわけだ。

10000764 バルチック艦隊が対馬海峡を通るか太平洋を経由して津軽海峡に向かうかで悩み抜き、戦後、精神を病んでしまった「坂の~」の主人公、秋山真之参謀(天気晴朗なれども浪高し、はこの人の起草)は、土屋嘉男が演じてチラッとこの映画にも出てくる。この希代の戦略家と格闘して死を選んだ脚本家の野沢尚のためにも、NHKは腰をすえて大河ドラマ「坂の上の雲」を完成させるべきだ。いかにもなオヤジ経営者が「プロジェクトX」ノリで喜ぶようなサクセスストーリーにしたら、野沢は化けて出るぞー!

第3章はまたしても日露戦争を。

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史劇を愉しむ 第1章~「トロイ」

2008-04-24 | うんちく・小ネタ

Troy_poster_sm はじまりは「トロイ」だった。

とんでもない製作費を使い、演出するのはこけおどしが得意な(けなしているわけではない)ウォルフガング・ペーターゼン。いかにもCGでございと数千隻の帆船を浮かべた画像で売りまくる、いわゆるハリウッド大作になぜブラット・ピットが出演を承諾したかはよくわからない。まあ、いつもの娯楽映画方程式にのっとった大作なのだから、めちゃめちゃ面白くもないだろうが退屈もしないはず、という予想で(だからDVDで観るにはうってつけと思い)借りてみた。

どっこいこれが面白いのだった。トロイで連想するのはシュリーマンだの木馬だのでしかないわたしにとって、神話の変奏曲でしかないはずの「イーリアス」をたっぷし堪能できたのは望外の喜び。アキレス(ブラピ)がトロイ戦争の登場人物なのも初めて知ったし、アガメムノンやオデッセウスなど、名前しか知らない歴史上の人物が次々に出てくるのはまるでNHKの大河ドラマみたいでうれしかった。「~のちの○○××である」ってあれね。世界史をきちんとお勉強した覚えがないわたしにとって、こういう史劇は何よりのプレゼントだ。アキレスと言えば「かかと」だよなあと思ったらちゃんとラストでは期待通りのシーンが。まあ「トロイ」は思いっきり脚色されているのでホメロスの叙事詩はこうだったんだと知ったかぶりはできないらしいのだが。

それにしてもこの映画のブラット・ピットはいい。はっきり言ってこの俳優を美男だと思ったことなど一度もないが、筋肉の上にうっすらと脂をのせた彼の身体には、ホモでもないのにうっとりとさせられる。半神半人であるアキレスが「生きて帰れない」と予言される戦争になぜ参加したかの理由は説得力あり。この戦争の発端が「スパルタの王妃をトロイの王子(オーランド・ブルームが情けなくていい)が寝取ったため」という理不尽さなのも現代に生きるわたしたちにとってはむしろわかりやすい。ギリシャの大軍に蹴散らされ、滅びゆくトロイの残党が、後にローマ帝国をつくることになるエピソードを強引に加えてあるあたり、史劇の面白さ爆発。もうとまらない。世界史を映画でお勉強する「史劇を愉しむ」シリーズ開始。でも、おかげでテストで間違っちゃったじゃないかって言われても責任はとりませーん!

第2章は日本海大海戦

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「妖怪大戦争」('05 松竹)

2008-04-24 | 邦画

Great20yokai20war_1  この映画のリーフレットを映画館でもらったのは('05年)春のこと。それ以来、(当時)小5の娘は「うー、はやく見たいな『妖怪大戦争』!」とことあるごとに絶叫。荒俣宏の原作など、ハードカバーの長篇なのに四時間で読み切ったぐらいである。おかげで初日の一回目に連れて行かなければならなくなった。いったい何が彼女をこうまで夢中にさせたのだろう。妖怪の魅力って、なんだ?

 わたしが水木しげるに最初にふれたのは、少年マガジンに連載されていた「墓場の鬼太郎」時代の『大海獣』のエピソード。ネットで検索すると’68の作品だから、小学校の低学年の頃だったのか。やはり娘と同じように夢中になったので、妖怪は日本の子どもにとって一種の通過儀礼なんだろう。「ゲゲゲの鬼太郎」が時代をこえて四回もアニメ化されているのがその証拠。

 おそらくは三池崇史にとって最大の予算を与えられた「妖怪大戦争」は、なぜ妖怪が少年少女を魅了するのかに、いかにも三池らしい回答を用意している。【性の目覚め】これだ。成長するにつれ、身の回りから少しずつ“不思議”は消えていく。その消えゆく怪しさを惜しむ気持ちと、新たに生まれてくる異性を求める心、この二つが結びついた地点こそ、妖怪という淫靡な存在が棲む場所ではないだろうか。雨上がり決死隊の宮迫が、川姫に助けられて妖怪に魅せられるエピソードなど、子どもにこんなの見せてだいじょうぶか、と思うくらいセックスの匂いがぷんぷんするのだ(笑)。こりゃあ、たまらんわな。

 キャストは大笑い。鳥刺し妖女役の栗山千明は、「キル・ビル」のゴーゴー夕張役に続いて異常さ爆発。この人、もう普通の役はできましぇん。河童は阿部サダヲの天職。近藤正臣も猩々役が気持ちよさそうだ。意外な配役は数々あれど、もっとも子どもたちに大うけするはずの小豆あらいが“あの人”なのは娘も気づいてなくてかわいそうでした。主演の神木隆之介は、「ハウルと動く城」のマルクルの声でおわかりのように、まちがいなく天才。この年齢でなければ演じられない不安定さがかわいい。美形だしね。

 まるで文士劇のように水木しげるをはじめとした作家連中がたくさん出ていて、いちばん生き生きとしていたのは「みなさん、本を読まないとろくなオトナになれませんよ!」と生徒にクギをさす宮部みゆきセンセイでした(笑)。SFXがもうちょっとかな、という部分もあるけれど、夏休みムービーとして、子ども時代に帰れる一本。妖怪に会えるのはうれしいが、120万匹ってのは多すぎないかしかし(^_^;)。

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「クライマーズ・ハイ」横山秀夫著 文藝春秋刊

2008-04-24 | ミステリ

Climershigh 北関東新聞の記者・悠木は、同僚の安西と谷川岳衝立岩に登る予定だったが、御巣鷹山の日航機墜落事故発生で約束を果たせなくなる。

一方、一人で山に向かったはずの安西は、なぜか歓楽街でクモ膜下出血で倒れ、病院でも意識は戻らぬままであった。地方新聞を直撃した未曾有の大事故の中、全権デスクとなった悠木は上司と後輩記者の間で翻弄されながら、安西が何をしていたのかを知る――。


実際に事故を取材した記者時代の体験を生かし、濃密な数日間を描き切った、著者の新境地とも言うべき力作。

地方新聞、という存在がよくわからない。特に若い頃がそうだった。山形県では三大紙を圧倒して山形新聞の購読者が多く、母親の葬儀の際に載せ(させられ)た死亡告知の関係で聞いた話では、庄内地方では【山形新聞7:3その他】なのではないかということだった。しかしそれだけのシェアの差があるにしては、あまりにもしょぼい。共同通信におんぶにだっこな紙面で、記者のプライドはどこにあるんだろう。

ところが、ひとたび選挙だの汚職だのになるとがぜん他紙をひきはなすディープな取材ぶり。そんな話どこで集めてきた?!というネタが一気に放出される。地方新聞記者の、陰鬱な日常がうかがい知れようというものではないか。

ご存知のように、作者の横山は群馬県の地方紙である上毛新聞の記者だった。彼の作品の多くを通底しているのが、男のプライド=身もふたもない言い方をすれば嫉妬、ヤキモチ。その甘さ苦さを、おそらく記者時代に辟易するほど味わってきたのだろう。

福田赳夫、中曽根康弘、小渕恵三の地元であるがゆえに、会社の派閥がそのまま政治に直結するあたり、どこの地方でもありうる話だ。有能な記者が三大紙に引き抜かれていく状況も渋い。しかしこの作品ではその他に家族のサイド・ストーリーが効いていて、「半落ち」ほど露骨ではないものの、最後にグッとくる仕掛けがある。うまいなあ。

ところが、文藝春秋では、例の林真理子発言のせいでこの作品を直木賞候補にもあげることができず、おわびに週刊文春ミステリーベストワンを進呈したというわけだ。こちらの業界も、きわめて政治的である。やれやれ。

テレビ版の特集はこちら

映画版の特集はこちら

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