結婚してからしばらく子どもができなかったわたしたち夫婦は、知人の薦めもあって医師の診断を受けることになった。山形大学医学部。一応何度か妊娠はしているのだし、男のわたしの方は付き添い程度の算段だったのに、いざ現場に行ったら看護婦に渡されたのはシャーレ。「とってきて」と言うのだ。何を(笑)。
まあそれはともかく、気重な二人は時間ができたので映画でも観ようという話になる。それが、前シリーズ「バットマン」第一作。ティム・バートンが監督し、テーマソングはプリンス。悪役ジョーカーをジャック・ニコルソンが気持ちよさそうに演じた一種の祝祭のような映画だった。ここまでバカな映画があっていいのか(ほめ言葉)と驚き、そしてしあわせな気分になったことをおぼえている。憂鬱なヨーロッパ映画好きな妻でさえ、「面白かったわー」と喜んでいたぐらいだ。
あのバットマンの、いわばアーリーデイズを映画化した今作は、当然ティム・バートンのものとは違うコンセプトで作られている。変なコスチュームを身にまとい、化け物のようなクルマでゴッサム・シティの悪に対峙するブルース・スウェインを、単なる金持ちの復讐鬼に感じさせない繊細さが脚本にあるのだ。おそらくは何人もの脚本家が知恵を絞ったのだろうが、これはこれで面白い。マイケル・ケインやモーガン・フリーマン、そして今回もいい人役ゲイリー・オールドマンなどキャストがちょっと驚くくらい豪華だし、鈍色が基調の画面も美しい。クリストファー・ノーランの演出はクールだし、主演のクリスチャン・ベールは“清潔”だ。ハリウッド大作のいい面が出ていてお得な一本。
変な東洋人として登場するらしいので心配していた渡辺謙だったが、まともな扱いを受けていたのでホッとする。単に憎々しい悪役に過ぎなかったルトガー・ハウアー(ブレードランナーの、あのレプリカントです)より、はるかにマシなキャラだったし。だいたいさあ、日本の映画興行収入はアメリカに次いで世界第2位。フランスやイギリスの2倍はあろうかという大市場。言葉やルックスの壁があるとはいえ、もっと日本の俳優をハリウッドは起用すべきだろう。とりあえず「SAYURI」。日本には桃井かおりという核弾頭があることを知ってもらえてうれしい(笑)。