事務職員へのこの1冊

市町村立小中学校事務職員のたえまない日常~ちょっとは仕事しろ。

史劇を愉しむ 第2章~「日本海大海戦」

2008-04-24 | うんちく・小ネタ

第1章「トロイ」はこちら。

昭和44年 東宝 監督 丸山誠治 脚本 八住利雄
主演 三船敏郎(東郷平八郎)
    笠智衆(乃木希典)

Nihonnkaidaikaisenn 史劇、というには近代すぎるような気もするけれど、今回は日露戦争のお話。この戦争については東映の「二百三高地」や、嵐寛寿郎が明治天皇を演じたその名も「明治天皇と日露大戦争」(新東宝)があって、いずれも大ヒットしている。何と言っても勝ち戦はやはり気持ちがいいしね。「日本海大海戦」も、その年の興行成績第2位。でも製作費がとてつもなかったので東宝としては複雑な思いだったらしい。

’69年といえば、70年安保で世間が騒然としていた頃なのに、この映画の古色蒼然ぶりは気が遠くなるほど。軍歌で有名な広瀬中佐(加山雄三)の♪杉野はいずこ~♪や、ロシア革命を背後から支援した明石元二郎(仲代達矢)、敵前大回頭(東郷ターンね)や、バルチック艦隊を見つけた宮古島の島民が石垣島まで全力で向かった「久松五勇士」とか、むかーしの教科書に載っていたようなエピソードが全部出てくる。しかしこの“全部出てくる”ところが問題で、いかにも東宝の大作らしくコクのない仕上がりになってしまっている。

 われわれの世代にとって、日露戦争の評価はどうしたって司馬遼太郎「坂の上の雲」を無視できない。“無能な”乃木と、司令官となった最大の理由が“運の良さ”(笑)だった東郷という対比は、司馬の作品よりも東宝紙芝居映画の方が露骨だったかも。この二人が軍神となっていく過程にこそ、日本の不幸があったわけだ。

10000764 バルチック艦隊が対馬海峡を通るか太平洋を経由して津軽海峡に向かうかで悩み抜き、戦後、精神を病んでしまった「坂の~」の主人公、秋山真之参謀(天気晴朗なれども浪高し、はこの人の起草)は、土屋嘉男が演じてチラッとこの映画にも出てくる。この希代の戦略家と格闘して死を選んだ脚本家の野沢尚のためにも、NHKは腰をすえて大河ドラマ「坂の上の雲」を完成させるべきだ。いかにもなオヤジ経営者が「プロジェクトX」ノリで喜ぶようなサクセスストーリーにしたら、野沢は化けて出るぞー!

第3章はまたしても日露戦争を。

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史劇を愉しむ 第1章~「トロイ」

2008-04-24 | うんちく・小ネタ

Troy_poster_sm はじまりは「トロイ」だった。

とんでもない製作費を使い、演出するのはこけおどしが得意な(けなしているわけではない)ウォルフガング・ペーターゼン。いかにもCGでございと数千隻の帆船を浮かべた画像で売りまくる、いわゆるハリウッド大作になぜブラット・ピットが出演を承諾したかはよくわからない。まあ、いつもの娯楽映画方程式にのっとった大作なのだから、めちゃめちゃ面白くもないだろうが退屈もしないはず、という予想で(だからDVDで観るにはうってつけと思い)借りてみた。

どっこいこれが面白いのだった。トロイで連想するのはシュリーマンだの木馬だのでしかないわたしにとって、神話の変奏曲でしかないはずの「イーリアス」をたっぷし堪能できたのは望外の喜び。アキレス(ブラピ)がトロイ戦争の登場人物なのも初めて知ったし、アガメムノンやオデッセウスなど、名前しか知らない歴史上の人物が次々に出てくるのはまるでNHKの大河ドラマみたいでうれしかった。「~のちの○○××である」ってあれね。世界史をきちんとお勉強した覚えがないわたしにとって、こういう史劇は何よりのプレゼントだ。アキレスと言えば「かかと」だよなあと思ったらちゃんとラストでは期待通りのシーンが。まあ「トロイ」は思いっきり脚色されているのでホメロスの叙事詩はこうだったんだと知ったかぶりはできないらしいのだが。

それにしてもこの映画のブラット・ピットはいい。はっきり言ってこの俳優を美男だと思ったことなど一度もないが、筋肉の上にうっすらと脂をのせた彼の身体には、ホモでもないのにうっとりとさせられる。半神半人であるアキレスが「生きて帰れない」と予言される戦争になぜ参加したかの理由は説得力あり。この戦争の発端が「スパルタの王妃をトロイの王子(オーランド・ブルームが情けなくていい)が寝取ったため」という理不尽さなのも現代に生きるわたしたちにとってはむしろわかりやすい。ギリシャの大軍に蹴散らされ、滅びゆくトロイの残党が、後にローマ帝国をつくることになるエピソードを強引に加えてあるあたり、史劇の面白さ爆発。もうとまらない。世界史を映画でお勉強する「史劇を愉しむ」シリーズ開始。でも、おかげでテストで間違っちゃったじゃないかって言われても責任はとりませーん!

第2章は日本海大海戦

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「妖怪大戦争」('05 松竹)

2008-04-24 | 邦画

Great20yokai20war_1  この映画のリーフレットを映画館でもらったのは('05年)春のこと。それ以来、(当時)小5の娘は「うー、はやく見たいな『妖怪大戦争』!」とことあるごとに絶叫。荒俣宏の原作など、ハードカバーの長篇なのに四時間で読み切ったぐらいである。おかげで初日の一回目に連れて行かなければならなくなった。いったい何が彼女をこうまで夢中にさせたのだろう。妖怪の魅力って、なんだ?

 わたしが水木しげるに最初にふれたのは、少年マガジンに連載されていた「墓場の鬼太郎」時代の『大海獣』のエピソード。ネットで検索すると’68の作品だから、小学校の低学年の頃だったのか。やはり娘と同じように夢中になったので、妖怪は日本の子どもにとって一種の通過儀礼なんだろう。「ゲゲゲの鬼太郎」が時代をこえて四回もアニメ化されているのがその証拠。

 おそらくは三池崇史にとって最大の予算を与えられた「妖怪大戦争」は、なぜ妖怪が少年少女を魅了するのかに、いかにも三池らしい回答を用意している。【性の目覚め】これだ。成長するにつれ、身の回りから少しずつ“不思議”は消えていく。その消えゆく怪しさを惜しむ気持ちと、新たに生まれてくる異性を求める心、この二つが結びついた地点こそ、妖怪という淫靡な存在が棲む場所ではないだろうか。雨上がり決死隊の宮迫が、川姫に助けられて妖怪に魅せられるエピソードなど、子どもにこんなの見せてだいじょうぶか、と思うくらいセックスの匂いがぷんぷんするのだ(笑)。こりゃあ、たまらんわな。

 キャストは大笑い。鳥刺し妖女役の栗山千明は、「キル・ビル」のゴーゴー夕張役に続いて異常さ爆発。この人、もう普通の役はできましぇん。河童は阿部サダヲの天職。近藤正臣も猩々役が気持ちよさそうだ。意外な配役は数々あれど、もっとも子どもたちに大うけするはずの小豆あらいが“あの人”なのは娘も気づいてなくてかわいそうでした。主演の神木隆之介は、「ハウルと動く城」のマルクルの声でおわかりのように、まちがいなく天才。この年齢でなければ演じられない不安定さがかわいい。美形だしね。

 まるで文士劇のように水木しげるをはじめとした作家連中がたくさん出ていて、いちばん生き生きとしていたのは「みなさん、本を読まないとろくなオトナになれませんよ!」と生徒にクギをさす宮部みゆきセンセイでした(笑)。SFXがもうちょっとかな、という部分もあるけれど、夏休みムービーとして、子ども時代に帰れる一本。妖怪に会えるのはうれしいが、120万匹ってのは多すぎないかしかし(^_^;)。

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「クライマーズ・ハイ」横山秀夫著 文藝春秋刊

2008-04-24 | ミステリ

Climershigh 北関東新聞の記者・悠木は、同僚の安西と谷川岳衝立岩に登る予定だったが、御巣鷹山の日航機墜落事故発生で約束を果たせなくなる。

一方、一人で山に向かったはずの安西は、なぜか歓楽街でクモ膜下出血で倒れ、病院でも意識は戻らぬままであった。地方新聞を直撃した未曾有の大事故の中、全権デスクとなった悠木は上司と後輩記者の間で翻弄されながら、安西が何をしていたのかを知る――。


実際に事故を取材した記者時代の体験を生かし、濃密な数日間を描き切った、著者の新境地とも言うべき力作。

地方新聞、という存在がよくわからない。特に若い頃がそうだった。山形県では三大紙を圧倒して山形新聞の購読者が多く、母親の葬儀の際に載せ(させられ)た死亡告知の関係で聞いた話では、庄内地方では【山形新聞7:3その他】なのではないかということだった。しかしそれだけのシェアの差があるにしては、あまりにもしょぼい。共同通信におんぶにだっこな紙面で、記者のプライドはどこにあるんだろう。

ところが、ひとたび選挙だの汚職だのになるとがぜん他紙をひきはなすディープな取材ぶり。そんな話どこで集めてきた?!というネタが一気に放出される。地方新聞記者の、陰鬱な日常がうかがい知れようというものではないか。

ご存知のように、作者の横山は群馬県の地方紙である上毛新聞の記者だった。彼の作品の多くを通底しているのが、男のプライド=身もふたもない言い方をすれば嫉妬、ヤキモチ。その甘さ苦さを、おそらく記者時代に辟易するほど味わってきたのだろう。

福田赳夫、中曽根康弘、小渕恵三の地元であるがゆえに、会社の派閥がそのまま政治に直結するあたり、どこの地方でもありうる話だ。有能な記者が三大紙に引き抜かれていく状況も渋い。しかしこの作品ではその他に家族のサイド・ストーリーが効いていて、「半落ち」ほど露骨ではないものの、最後にグッとくる仕掛けがある。うまいなあ。

ところが、文藝春秋では、例の林真理子発言のせいでこの作品を直木賞候補にもあげることができず、おわびに週刊文春ミステリーベストワンを進呈したというわけだ。こちらの業界も、きわめて政治的である。やれやれ。

テレビ版の特集はこちら

映画版の特集はこちら

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