6冊目「フォーカス&フライデー」はこちら。
(県教組酒田)支部長時代、文部官僚にして映画評論家でもある寺脇研を特集したときに「三十数年読み続けている雑誌」とふれたのがキネマ旬報。略してキネ旬。毎月5日と20日に発売。昔は月に3回出ていたので旬報の名があるようだ。
わたしが初めてこの雑誌を買ったのは高校一年のとき。それまで「スクリーン」や、創刊したばかりの「ロードショー」などのファン雑誌の読者だったのだけれど、その内容にはもの足りなさを感じてもいたのだ。いや、なかには今考えても有益だったなあという連載もあった。双葉十三郎氏(もう90才を超しているはず)が今でも続けている「ぼくの採点表」は“名画だけが映画ではない”ことを教えてくれたし、字幕の神様・故高瀬鎮夫氏のセリフ解読はどんな英文法テキストよりもためになった。グラビアも(特にスクリーンは近代映画社らしく)エッチで結構でした(笑)。
でも、わたしが知りたかったのは、ファン雑誌では片隅に追いやられている製作状況や興行成績の方だったのだ。思えばその頃から業界っぽいことが好きだったわけね。キネ旬はその意味でわたしには最高の雑誌だった。高校時代に通っていた書店の老主人に「あのぉ、ここでキネマ旬報っていう雑誌は買えますか?」おずおずとたずねると「もちろん。映画雑誌としては日本でいちばんですよ」諭すように教えてくれた。
田舎は都会よりも雑誌の発売日は一日遅れることが多い。これは今でもそうなのだが、当時はとにかく不確定で「今日は、キネ旬入りました?」何度もその書店を訪れては訊いていた。そのたびに老主人は申し訳なさそうに「まだなんですよ」とか細い声で答えた。
「春から東京に行くことになったんで、定期購読はこの号が最後ということでお願いします。」18才のわたしを、主人は静かに激励してくれた。その後まもなく、彼は病のために亡くなり、店は奥さんが切り盛りすることになった。今でもその店は、エロ本専門店に姿を変えて営業を続けている。
次回ももう一回「キネマ旬報」の特集を。下旬号ってことで。