事務職員へのこの1冊

市町村立小中学校事務職員のたえまない日常~ちょっとは仕事しろ。

「アキハバラ@DEEP」石田衣良著 文春文庫

2008-04-23 | デジタル・インターネット

Akihabaradeep 「現在サーチエンジンにはおおきく分けて二種類あります。まずひとつはヤフー!のようなディレクトリ型。登録依頼のあったホームページを人間の手で分類しているものです。専門のスタッフでも一日に数百の分類で手一杯だそうです。現在ホームページは数万単位で毎日増加していますし(略)ディレクトリという構造が人がなにかを探すときの考え方に似ているので誰でも直感的につかえるんです。」
「それでもうひとつのサーチエンジンはどんなやり方をしているの」
「インデックス型といいます(グーグルはこちら)。文字通りすべてのホームページから目的のキーワードを自動的に拾う方法です。ロボット型の検索プログラムが勝手に世界中のサイトをめぐって、ある言葉をふくむサイトをごっそりさらってきます。」

検索”というのがどうにもよくわからない。こんな説明をされたところで、あなた信じられますか?世界中に無限に広がるインターネットの世界で、キーワードをぶちこむとあんな短時間で数万、ヘタをすると数百万のサイトをピックアップしてくれるのだ。毎日ヤフー!やグーグルを使いながらも、わたしにとってコンピュータはいまだに一種のブラックボックスだが、その要因のひとつはこの検索というやつだな。だいたいあのヤフー!が、手作業で分類をしていると初めて聞いたのは数年前だけれど、先端を行くように見える情報産業の内情が、実は気が遠くなるような内職の世界だったなんて……

「アキハバラ@DEEP」は、石田衣良お得意のちょっとおしゃれなど根性商売物語。“IT版どてらいやつ男(やつ)”、というか。あるいは今回は、欠落の多いオタクたちが、お互いの長所と障害を武器に敵を攻略する、いわば“脆弱なサイボーグ009”とも形容できる。まあこういうキャッチコピーが次々にうかぶあたりが広告畑出身の石田の作品らしい。

 主人公のオタクたちがつくりあげた、AI内蔵サーチエンジンをめぐる争奪戦。敵のボスはどうみても孫正義。しかしどちらにも正義があるのが、この業界の面白いところなのだろう。情報小説としても、とにかく読ませる。池袋に続いて、石田は秋葉原も魅力的に描いた。「よい人生とは、よい検索だ」がキーワード。面白いっす。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

入学式 PART1

2008-04-23 | 受験・学校

入学金未払い・学費未納、悩む現場 退学勧告も
2008年04月16日

Aprayer 千葉県立八千代西高校(八千代市)で入学金を払っていない生徒2人が入学式に出られなかった。入学金未納や授業料滞納の増加は全国的な現象で、退学など厳しい処分を決めた教育委員会も少なくない。同じ問題に悩む全国の公立高校からは、「やむを得ない」「それでいいのか」という賛否両論が上がる。

◆総出で家庭訪問
千葉県西部の県立高校の校長は「条例がある以上同様の対応を取るだろう」と八千代西に理解を示す。
この校長は、前任の高校で授業料の滞納が相次ぎ、担任や事務職員総出で電話や家庭訪問を繰り返した。「卒業後になっても分割で頑張って払ってくれる家庭もある。払わずじまいでは不公平だ」

別の県立高校の教頭も「まず入学して、その後に入学金を納めるというのはあり得ない。勝手に条例を変えてしまうことになる」という。
【朝日新聞】

……これほど“典型”と呼びたくなる事例は珍しいだろうと思う。これまで「授業料取り立てマニュアル」「払いたくない」と未納問題を特集してきたが、こんな形で「学校側の」対応をマスコミが大きくとりあげたのは例がないのではないか。

給食費の未納問題や、モンスターペアレントが騒がれる前なら、八千代西高校は世論の集中砲火をあびていただろう。でも今回は
・新聞やテレビは高校の対応に懐疑的
・ネット上では親がクソミソ
こんな形だろうか。予想どおりかな。ま、あくまで大ざっぱな分け方ですけど。しかし高校に味方するか指弾するかの二元論だけではこの問題が解決するはずもないことは、日々未納に悩む公立小中学校事務職員として断言できる。時系列で経過を見てみると、この“事件”は、実は高校にも親にも問題ありありだったのだ。

PART2につづく。

画像は伊坂幸太郎「オーデュボンの祈り」。久しぶりに読み返してつくづく思う。伊坂はデビュー作から何も変わっていない。印象以上に政治的であることすら。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「バットマン ビギンズ」Batman Begins('05 ワーナー)

2008-04-22 | 洋画

Batmanbegins  結婚してからしばらく子どもができなかったわたしたち夫婦は、知人の薦めもあって医師の診断を受けることになった。山形大学医学部。一応何度か妊娠はしているのだし、男のわたしの方は付き添い程度の算段だったのに、いざ現場に行ったら看護婦に渡されたのはシャーレ。「とってきて」と言うのだ。何を(笑)。

 まあそれはともかく、気重な二人は時間ができたので映画でも観ようという話になる。それが、前シリーズ「バットマン」第一作。ティム・バートンが監督し、テーマソングはプリンス。悪役ジョーカーをジャック・ニコルソンが気持ちよさそうに演じた一種の祝祭のような映画だった。ここまでバカな映画があっていいのか(ほめ言葉)と驚き、そしてしあわせな気分になったことをおぼえている。憂鬱なヨーロッパ映画好きな妻でさえ、「面白かったわー」と喜んでいたぐらいだ。

 あのバットマンの、いわばアーリーデイズを映画化した今作は、当然ティム・バートンのものとは違うコンセプトで作られている。変なコスチュームを身にまとい、化け物のようなクルマでゴッサム・シティの悪に対峙するブルース・スウェインを、単なる金持ちの復讐鬼に感じさせない繊細さが脚本にあるのだ。おそらくは何人もの脚本家が知恵を絞ったのだろうが、これはこれで面白い。マイケル・ケインやモーガン・フリーマン、そして今回もいい人役ゲイリー・オールドマンなどキャストがちょっと驚くくらい豪華だし、鈍色が基調の画面も美しい。クリストファー・ノーランの演出はクールだし、主演のクリスチャン・ベールは“清潔”だ。ハリウッド大作のいい面が出ていてお得な一本。

 変な東洋人として登場するらしいので心配していた渡辺謙だったが、まともな扱いを受けていたのでホッとする。単に憎々しい悪役に過ぎなかったルトガー・ハウアー(ブレードランナーの、あのレプリカントです)より、はるかにマシなキャラだったし。だいたいさあ、日本の映画興行収入はアメリカに次いで世界第2位。フランスやイギリスの2倍はあろうかという大市場。言葉やルックスの壁があるとはいえ、もっと日本の俳優をハリウッドは起用すべきだろう。とりあえず「SAYURI」。日本には桃井かおりという核弾頭があることを知ってもらえてうれしい(笑)。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「半島を出よ」 村上龍著 幻冬舎文庫

2008-04-22 | 本と雑誌

Hantohwodeyo 北朝鮮のコマンド9人が開幕戦の福岡ドームを武力占拠し、2時間後、複葉輸送機で484人の特殊部隊が来襲、市中心部を制圧した。彼らは北朝鮮の「反乱軍」を名乗った。その後、北朝鮮中枢の策略により、12万人の反乱軍が福岡に迫る。財政破綻し、国際的孤立を深める近未来の日本に起こった奇蹟とは……。

かつて村上が激情を叩きつけるように書いた「コインロッカーベイビーズ」(傑作)「愛と幻想のファシズム」(大傑作)「五分後の世界」(それなりに読ませる)の系譜に属するポリティカルフィクション。このジャンルにおいて村上を超える作品を生み出すことはもう難しい。それは村上自身にとっても同様なはず。

「半島を出よ」(魅力的なタイトルだ)は、しかし北朝鮮という素材の奇矯さとあいまって、かなり読ませる。確かに欠点は多い。読者からはこんなメールも。

Mail03c 核となる主人公が不在の上、やたらと多い登場人物に感情移入しにくいことや、せっかくこれだけ取材・参考文献を収集したんだから全部作品に盛り込んだぞ、みたいな情報びっしり描写にはやや閉口ぎみ。

……当たってます。未消化であると同時に、危機管理がおざなりで、目前の破綻を意識しながらも改革できず、問題を先送りし続ける日本への糾弾も弱い。政治とは多数派のためだけのものなのか、という現実への怒りもどこか他人事だ。

 しかしわたしはこうも考える。北朝鮮軍部の【反乱】(こう名乗ることで日本は手も足も出なくなってしまう)に振り回され、政治的イニシアティブはいつものように米中に握られてしまい、この作品における内閣はほとんど何もできない。しかし、“それもまた日本なのだ”という一種の諦念すらうかがえるのだ。かつて「昭和歌謡大全集」で調布の街を吹っ飛ばしたイシハラ(映画では松田龍平が演じてます)たちの気狂いじみた行動によってこの事変はフロック的解決をみるわけだが、それが村上の皮肉である以上に、日本という国は、日本人は、そんなみっともない姿でこの世紀を生き延びてゆくのが運命なのではないかという……うーんこれは明らかにわたしの誤読なのかもしれない。あるいは、村上ではなくて、読者であるわたしの方が老いたのか。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「戦国自衛隊1549」を罵倒する!

2008-04-22 | 邦画

20070620032813  頭がクラクラしてきた。今オレの目の前で2時間以上も展開されたこれはいったい何だったのだ。久しぶりに言いたくなった。
「金返せーっ!」
あまりに腹が立ったのでネタにして少しでも元を取ろう。

「戦国自衛隊」をリメイクする、というアイデア自体は悪くないと思う。その原案を福井晴敏に書かせ、ゴジラシリーズでいいところを見せた手塚昌明に監督させるチョイスも正解だと思っていた。どうも評判が芳しくないらしいことは伝わっていたが、それは手塚が「やっとゴジラ以外の映画を撮れます」なんて不用意な発言をしたせいでオタクたちが反発しているせいだろうと好意的に解釈していたのだ。

ところが。

なーんじゃこれは!いったいどうやったらこんなつまらない映画にできるんだ?
現代の自衛隊が戦国時代にタイムスリップする、こんな魅力的だけれど荒唐無稽な設定を生かすためには、観客をねじふせるだけの歴史や火器に関する綿密な考証が必要なはず。それがほとんど感じられない上、命の危険もかえりみず戦国時代へ自衛隊が“飛ぶ”動機づけが弱い弱い。なにより、敵失でしか勝負がつかない展開は工夫がなさすぎる。

しかも、役者の演技がみんな学芸会並み。北村一輝以外はしどころもなく、腰元たちの所作にしてもまるでバカ殿のコントかと思った。Nakaok01

特にこいつ!→

このガキが出てくるたんびにドラマが一気に停滞するのだ。誰だこいつ。だいたいさー、平成と戦国に生きる人間たちの相克を描くなら、それなりのカルチャーギャップを(些細なことでいいから)挿入するだけでドラマに深みがでるはず。自衛隊がシニカルだったり、平成の平和に対して戦国人が疑義を呈したりでもいいじゃないか。でも登場人物たちはどちらものべつまくなしにギャーギャー騒ぎ立てるだけ。CMに使われた、戦闘ヘリが物見櫓に激突して炎上するシーンにしても、ドラマ的になんの意味もないため、はーそうですか、と思うしかないのだ。なにやってんだか。

福井はできあがった映画を観て、本音のところはどう思ったのだろう。おそらく彼はつくづく感じたと思う。平和ニッポンは、このタイプの映画でも韓国に大きく水をあけられてしまったなあと。スタッフロールにわたしはガンを飛ばしていた。責任者出てこい!

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「宇宙戦争」War of the World

2008-04-22 | 洋画

Waroftheworld 「で、どうだったんですか?『宇宙戦争』。」前日に観てきたことを知っている事務補助はお昼時にきいてくる。
「うーん」答えるのがこれほど難しい映画もめずらしい。
「面白くなかったんですか?」
「そんなことはないよ。面白いことは面白いんだ。でも……」

ただひとつ確実に言えるのは、この映画、子どもにはあまりお薦めできないな、と。人類よりもはるかに知能がまさっている生命体が、ある事情(これが子どもに見せたくない理由のトップ)のために地球に侵略してくる……どう戦っても勝てない戦争であることを考えると要するにこれは天災。で、その天災を、こうまで金をかけて徹底的にリアルに描くと、どうしても救いのない暗ぁい話になってしまうのである。またしてもイヤミなくらいうまいダコタ・ファニング(もう彼女を子役と呼ぶのはやめよう)が、恐怖のためにパニくるシーンなど、小学生ぐらいだと同調して息苦しく感じられるのではないか。

 スティーブン・スピルバーグが『世界でいちばん面白い映画をつくる監督』であることに異論がある人は少ないだろう。それどころか「シンドラーのリスト」や「カラーパープル」で文句なく巨匠扱い。それなのに、いまだに「不在の父親に対するコンプレックス」で作品を解読されているのは、あまりにも若くしてスター監督になったからだろうか。まあ、今回はトム・クルーズの意向もあってか「そこまでやるかー!」ってぐらい父権をテーマにしていましたが。

 スピルバーグの“異常さ”を倍加しているのが、いつものヤヌス・カミンスキーの画像であることに異を唱える人はいないだろう。今回は、あの美しさが効果的にはたらいている。

 宇宙人を撃退できた(でもないんだが)理由はオリジナルの方が意外性があってよかった気がする。ちょっとネタバレになるけど、今回はダコタ・ファニングの手にくいこんだ“”がヒントになっているのでお見逃しなきよう。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「日暮らし」宮部みゆき著 講談社刊

2008-04-21 | 本と雑誌

Higurashi 宮部みゆきは、「進化」する。
早くも「著者時代小説の最高傑作」と言われる長編、登場!
まさに格別の味わい。『ぼんくら』に続く、待望の下町時代小説!

本当のことなんて、どこにあるんだよ?
江戸町民のまっとうな日暮らしを翻弄する、大店の「お家の事情」。ぼんくら同心・井筒平四郎と、超美形少年・弓之助が、「封印された因縁」を、いよいよ解きほぐす。(講談社紹介文より)

 むかし椎名誠が「どんな人にもおすすめできる小説」としてアーサー・ヘイリーの「ホテル」(今も新潮文庫に入っているかな?)をあげていた。老若男女、とにかく誰にすすめても感謝されるというのだ。わたしも同意。特に、主人公のホテルマンが語るひとつのエピソードが泣かせる。

 全米を旅するしがないサラリーマン。孤独で、係累も存在しない。しかし彼は、一度も会ったことのない主人公の学費を送金し続けてくれていた。彼が旅先で亡くなったとき、そのセールスマンの墓前には、四人の同じような若者が佇んでいた……

宮部みゆきが嫌いな人はめったにいないだろう。一時期は「売れる小説は宮部とハリポタだけ」と総括されたぐらいのベストセラー作家。ミステリとして完成度が高く、読後に温かい気持ちになれることも保証されている。どんな人にもおすすめできる小説日本版は宮部で決まりだ。

160pxhailey_hotel でもその分、どうしてももの足りない感触は残る。登場人物たちの善人ぶりがどうにも……と。しかし一種のコスチュームプレイである時代小説ならそんなあざとさとも無縁。「日暮らし」の前シリーズ「ぼんくら」を特集したときにふれたように、役人であることにへきえきしているぼんくら同心平四郎と、事件の闇におののいておねしょをしてしまいながらも、結局は謎を解く名探偵役の弓之助の造形はおみごと。上下巻で三千円を超す出費に見合う満足度。「ホテル」級の泣かせるエピソードてんこ盛り。アメリカにアーサー・ヘイリーがいるように、日本には宮部みゆきがいる。どなたにも、喜んでいただけるのではないでしょうか。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

グリーンハウス再建計画 ページ18~MOVIE ONやまがた

2008-04-21 | 映画

ページ17「目を覚ませ東映」はこちら。

Movieonyamaagta シネコン:山形市・嶋地区に「MOVIE ON やまがた」 総座席1424 /山形

 山形市の映画興行会社「MOVIE ON」(吉村和文社長)は13日、同市郊外にある嶋地区に東北最大級のシネマコンプレックス「MOVIE ON やまがた」を、来年4月中旬に開館させると発表した。大手書店「八文字屋」も施設内に出店し、村山地方の文化施設の核になることを目指す。
 嶋地区は市の土地区画整理事業により、新興住宅街と大型店舗の出店が相次ぎ、新たな商圏を形成。同社によると、周辺市町村を含めた30分以内の圏内人口は約55万人いるといい、初年度は31万4000人、3年目には50万人の集客を見込んでいる。
 施設は、鉄筋3階建ての延べ床面積約7140平方メートルで、約400台の無料駐車場も用意する。スクリーン数は、東北では「MOVIX利府」(宮城県利府町)の12に次ぐ10で、総座席数は1424席。シアター1のスクリーンサイズは、横17メートル、縦6.9メートルで東北最大になる。
 内外装は世界的工業デザイナーで山形カロッツェリア研究会代表の奥山清行氏が手掛ける。山形ならではの文化を織り込もうと、モダンなデザインのロビーに蔵の古材などを活用する。映画以外にも楽しめるテーマパーク
を想定し、カフェなども充実させる。【大久保渉】
毎日新聞 2007年10月14日

……どうやらたいした施設になりそうだ。ただ、4月21日現在ムービーオンのホームページ上では何の動きもなし。4月26日オープンなのにだいじょうぶなんだろうか。かろうじて映画「山桜」の記者会見が行われ、オープニングの“売り”はこの地元作品になることが察せられるぐらい。シネコンの利点であり、同時に欠点でもあるのは「観客動員によって上映回数が変化すること」なので、毎週上映時刻は変動する。だからインターネットによる告知は必要不可欠なのである。それなのに……。

 シネコンの運営には、1サイトあたり数十名のスタッフが必要だと言われている。しかし正規雇用者は多くの場合数名程度。残りはアルバイトやパートでまかなっている。したがって作品の選択などの重要な部分は、それぞれの『本部』が一括して行っている。イオンシネマ三川の上映作品の惨状はそこに由来するのだろう。山形フォーラムの場合は代表が実際にその作品を鑑賞し、山形で上映するかを決定する。つまりソラリス、フォーラムは昔ながらの興行主のセンスがまだ息づいているわけ。往時のグリーンハウスの伝統はここに健在。はたして新シネコン「MOVIE ONやまがた」はどんな作品選択を行うのか、要注目。

ページ19につづきます。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「ビッグ・フィッシュ」Big Fish('03 SONY)

2008-04-21 | 洋画

Bigfish 監督 ティム・バートン 主演 ユアン・マクレガー、アルバート・フィニー

大きな魚の伝説、洞窟の巨人、桃源郷に住む桂冠詩人、ベトナム生まれの美人のシャム双子、妻となる女性との出会い……。子供の頃に聞かされた父エドワードの脈絡のない英雄譚を、成人した息子ウィルは信じてはいなかった。しかし父の病状悪化の知らせを受け、ウィルは妊娠中の妻を伴って勤務地のパリからアメリカ南部の実家へと急ぐ。そこでウィルは母親と妻の協力を得て、ベトナム戦争時代に青春を送った父の人生の全容を、ジクソーパズルを解くようにつかんでいく……

高校時代のある日、となりのクラスに行くと「よう、社交的な人!」と声をかけられた。どうやらそのクラスで教えていたわたしの担任がこうかましたらしいのだ。

「いますね、社交的な人って。ほら、ホリヒロシとか」

大きなお世話である。一種の自己防衛策としてプリテンドしていただけだったのに。

「ビッグ・フィッシュ」は予想どおり、いや予想以上にすばらしい作品だった。映画というメディアは、このようなストーリーを描くために存在するのではないかとすら。

設定がとにかく気が利いている。アメリカ人の特質ともいうべきホラ話を披瀝し、常に主人公となってしまう社交的な父親と、そのことへの嫌悪のために傍観者的態度しかとれなくなっている息子。父と息子の関係は、常にこんな形でねじれていく宿命にある。父親はどうあっても反面教師なのだ。それでいて、最後の最後に父親の血が継承されていくラストは感動的。異形のフリークスたちが勢ぞろいする葬儀のシーンなど、涙なくしては観られない。

ティム・バートンのフィルモグラフィーのなかでは「ナイトメア・ビフォー・クリスマス」が最高だと思っていたけれど、マニアックさが影をひそめた今作はあれを超えた。「ビートルジュース」や「シザーハンズ」の異様さもないけどね。このいきおいで次作「チョコレート工場の秘密」(ロアルド・ダール原作でジョニー・デップが主演!)もよろしく。

……で、「チャーリーとチョコレート工場(チョコレート工場の秘密)」も「スィーニー・トッド」も傑作だったわけだ。バートンはすでに巨匠あつかいか。往時のジョン・フォード&ジョン・ウェインとか黒澤&三船って感じで。この作品はデップ主演でも成立したろうか。ダメかな。デップとアルバート・フィニーじゃ親子には見えないもんな。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「失踪日記」吾妻ひでお著 イーストプレス刊

2008-04-20 | アニメ・コミック・ゲーム

Shissohnikki 人間誰しも、何もかも投げ捨てて消えてしまいたいと思ったことが一度はあったはず。一般化はまずいか。少なくともわたしは何度かありました。

これが十代の少年なら単なる家出ですむ。しかし妻子や仕事に背を向けるとなると、失うものの大きさにおびえ、しかしそれゆえに失踪の誘惑もまた強い……これが日本の中年像というものではないだろうか。あ、またしても一般化はまずいですか。

吾妻ひでおといえば、わたしの世代にとっては少年チャンピオンに連載された「ふたりと5人」。今でこそ不条理ギャグの走りともてはやされているが、性根のところがどうにも病んでいて……好きだった(笑)。

その後、彼はオタクたちによって神格化されるわけだが、SFファンではないわたしには無縁の話だった。失踪癖があるとの噂は聞いていたけれど、この「失踪日記」で描かれた内情は壮絶のひとことに尽きる。アルコール依存症による譫妄状態、ホームレスとなり、腐ったりんごで暖をとったり、天ぷら油で痔の治療(笑)したりする毎日。

しかし何よりおそろしいのは、これらが吾妻特有の乾いたギャグマンガとして描かれていることなのだ。かわいいキャラで、とにかく笑える本なのだけれど、実際には家族との関係など、きつい部分も大きかったことがすけて見える。何より途中で配管工として就職してしまうあたりのリアルさがおかしく、そして哀しい。芸術家としての業というか、社内報にマンガを投稿して掲載されてしまうなど、つげ義春の諸作とは別の種類の絶望と諧謔がここにある。

あとがきとしてとり・みきとの対談が載っていて、これも泣かせる。少年チャンピオン編集部との確執など、当時の読者として涙なくしては読めない。でも同時に、人間ってここまで壊れてもいいんだ、と教えてくれる悪魔の書でもある。あっぶねー。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする