宮部みゆきは、「進化」する。
早くも「著者時代小説の最高傑作」と言われる長編、登場!
まさに格別の味わい。『ぼんくら』に続く、待望の下町時代小説!
本当のことなんて、どこにあるんだよ?
江戸町民のまっとうな日暮らしを翻弄する、大店の「お家の事情」。ぼんくら同心・井筒平四郎と、超美形少年・弓之助が、「封印された因縁」を、いよいよ解きほぐす。(講談社紹介文より)
むかし椎名誠が「どんな人にもおすすめできる小説」としてアーサー・ヘイリーの「ホテル」(今も新潮文庫に入っているかな?)をあげていた。老若男女、とにかく誰にすすめても感謝されるというのだ。わたしも同意。特に、主人公のホテルマンが語るひとつのエピソードが泣かせる。
全米を旅するしがないサラリーマン。孤独で、係累も存在しない。しかし彼は、一度も会ったことのない主人公の学費を送金し続けてくれていた。彼が旅先で亡くなったとき、そのセールスマンの墓前には、四人の同じような若者が佇んでいた……
宮部みゆきが嫌いな人はめったにいないだろう。一時期は「売れる小説は宮部とハリポタだけ」と総括されたぐらいのベストセラー作家。ミステリとして完成度が高く、読後に温かい気持ちになれることも保証されている。どんな人にもおすすめできる小説日本版は宮部で決まりだ。
でもその分、どうしてももの足りない感触は残る。登場人物たちの善人ぶりがどうにも……と。しかし一種のコスチュームプレイである時代小説ならそんなあざとさとも無縁。「日暮らし」の前シリーズ「ぼんくら」を特集したときにふれたように、役人であることにへきえきしているぼんくら同心平四郎と、事件の闇におののいておねしょをしてしまいながらも、結局は謎を解く名探偵役の弓之助の造形はおみごと。上下巻で三千円を超す出費に見合う満足度。「ホテル」級の泣かせるエピソードてんこ盛り。アメリカにアーサー・ヘイリーがいるように、日本には宮部みゆきがいる。どなたにも、喜んでいただけるのではないでしょうか。