三無主義

 ~ディスパレートな日々~   耶馬英彦

アメリカのゴリ押し

2006年08月29日 | 政治・社会・会社

神奈川県のミツトヨという非上場の測定機器メーカーの社長が逮捕されました。日本でも海外でも大きなシェアを占める企業だそうですが、商品が地味なのでその存在を知らなかった人も多いと思います。私もそのひとりで、今回の逮捕理由についても、よくわかりません。

 企業は常に増収増益を図っていて、まあ、そういう努力をしないとジリ貧になってしまうので当然のことなんですが、努力の方向が違っていたり、時流に合わなかったり運が悪かったりすると、頑張っても頑張っても駄目になっていく場合があります。ミツトヨもどうやらそういう状況に陥っていたようで、この際だから売れるものは何でも売っていこうということで、輸出を禁じられているものも検査をすり抜ければ大丈夫だろうと、そこまで追いつめられていました。企業というのは、ゴーイングコンサーンなんて言い方をしますが、とにかく資金繰りを凌いで何とか倒産しないで継続していくことが第一とされています。公認会計士の会計監査も、企業が今後健全な経営を続けていくことができるかを判断するものです。ミツトヨも例に漏れず、収益を図りたい一心で「ご禁制」のものまで輸出しちゃったわけです。

 と、そこまでは新聞やテレビを見るとわかります。それに、売ってしまった3次元測定機というのが核兵器の開発に役立つものだから、「一定以上の精度」を持つ測定機の輸出には経済産業省の許可が必要だった、しかしなんとしても売りたかったので「一定以上の精度」を持っていないように見せかけて、許可なく売ってしまった、というところまでは何とか理解できました。しかしわからない点もあります。それは大まかに言うと、

 経済産業省はどのような基準で許可を出すのか
 そもそもこのような決まりを作ったのはなぜか

の2点です。

 これから先は憶測ですが、すでにみんなが知っている「憶測」になるかもしれません。
 まず、アメリカは世界の国々に先立って、核兵器を開発し、しかもそれを実戦で使用しました。湾岸戦争やイラク戦争ではもっと最新の兵器をまるで人体実験のように実戦使用したという情報もあります。軍事に関しては他国よりも10歩も20歩も進んでいる国ですね。しかも世界最大の軍需産業が政界のバック、はっきり言えば議会と大統領の両方のバックボーンになっています。世界中に兵器を輸出している死の商人たちです。もちろんイスラエルにもたくさんの兵器を売っていて、その兵器によってたくさんの人が殺されましたし、いまも殺されています。
 さて、ちょっと前、ベルリンの壁が崩壊する前まではココムという取り決めがありました。共産主義の国に武器とか武器の製造機とか、または製造機の製造に役立つ機械だとかを売っちゃいかんよ、というものです。東芝がこれに違反して摘発されたことがありましたよね。
 ところが共産主義諸国の経済破綻や、折りよく登場したゴルバチョフの活躍なんかがありまして、冷戦状態が解消されてしまった。これは実は軍需産業にとっては一大事です。NATO軍もあまり武器を必要としなくなってしまった。ではどうするかというと、新たに敵をつくりだす必要があります。アメリカの敵。アメリカに限らずどの国の国民も、敵と味方がいて勧善懲悪のドラマがあってと、そういう図式が大好きですから、どこかを敵国としなければならない。アメリカとしては、イスラエルはアメリカの軍需産業の味方だったり、場合によっては身内だったりしますし、その敵というとアラブゲリラだとかそれを応援しているイスラム諸国だとかリビアだとかになりますから、当然のように、これらの国を敵国として指名しました。といっても名指しで非難したのは頭の悪いブッシュくらいですけれども。
 そしてそういった国々に対しては経済制裁を発動して苛めたり、IAEAを使って核査察をさせて、そういう国が核兵器を開発できないようにしたりしました。普通に考えれば、今回のミツトヨの事件はその流れの上で起きたといえます。反アメリカの国に核兵器を開発されたくない、だからそれを手伝うような最新機器も反アメリカ諸国に輸出してはいけないし、親アメリカ諸国も例外なく輸出してはいけない、というのがアメリカの論理で、日本はこれに従わざるを得ない。そうしないとひどい目に合わすぞと脅しているのがアメリカだからですね。
 おそらくですが、経済産業省の許可基準は、輸出相手国が反アメリカか親アメリカかの一点だと思われます。反アメリカ諸国なら、3次元測定機は核兵器の開発に使われるから輸出は許可しないが、親アメリカ諸国は3次元測定機を平和利用するものであるから許可すると、そういうことでしょう。経済産業省に問い詰めれば、役人はいろいろな言葉を浪費してごまかそうとするでしょうが、本当のところはアメリカの言いなりになっているだけの話です。風が吹けば桶屋が儲かるではありませんが、ミツトヨはアメリカの犠牲になって、現在は会社存亡の危機を迎えてしまいました。
 アメリカの政策の基準になっているのは、アメリカの企業の論理です。単純化してしまうと、アメリカという大きな企業があって、農業から軍需産業に至るまでありとあらゆる産業部門を抱え込んでいます。しかも国としてゴーイングコンサーンが求められるから、どうにか資金繰りをして、もちろん収益も利益も上げなければなりません。「勝ち組」をめざす理論です。それでなくてもアメリカはもう十分「勝ち組」だと思いますが、それでも、もしこれまで「負け組」だった国が頭をもたげてきたら、それはアメリカに対する脅威となりますから、「負け組」はずっと「負け組」でいてほしいのがアメリカの本音なんです。だから実を言えば、日本が経済発展したこと自体も、アメリカにとってはきわめて不愉快な出来事なんですね。もちろん誰もそんなことは表立って言いません。むしろ、経済発展した日本を何とかアメリカの利益になるように利用しようとします。これはアメリカを一企業として考えたら当然のことですよね。増収増益のためには努力を惜しまない、それが巨大企業です。本当は巨大企業になると社会的道義的な責任も背負ってくるんですが、アメリカも日本の大企業経営者と同様、そんな意識は微塵もありません。利益のためにリストラも行ないますが、おもに末端の労働者を切り捨てます。そういう人々がスラムを形成すると、取り締まったり弾圧したりします。かなりムチャクチャです。
 そういうムチャクチャな巨大企業があって、あとは中小企業ばかり、というのが単純化した世界の様子です。こうなるとなんでもありで、アメリカの不利益など考えられないし、ましてや倒産なんてとんでもない話というか、アメリカが倒産したら世界中が連鎖倒産してしまうぞと、そんな脅しさえ現実的であるかのように聞こえてしまいます。
 アメリカにスラム街が形成されたように、世界各国にスラム街が増加していますし、アメリカにとっては国そのものがスラム街であるかのような国も存在します。そういう場所では縄張り争いや仲間割れ、そして強盗や殺人なども日常的です。一部の人が「勝ち組」になるためには必ずたくさんの「負け組」が生まれます。もちろん誰もが幸せな社会なんて幻想に過ぎませんが、強大になりすぎたお山の大将に頭を押さえつけられながら、ずっと我慢し続けているというのも、なんとも情けない話です。日本はいつになったら「NO!」と言えるんでしょうかね。