映画「ドリーム・ホース」を観た。
競馬に詳しくなくても楽しめる作品だが、ある程度競馬を知っている人なら、かなり興奮すると思う。当方はときどき馬券を買うので、お蔭様でとても楽しめた。
グレートブリテン島はイングランドとスコットランド、ウェールズの3地域に区分されていて、それぞれに歴史的、文化的な特色がある。昨年(2022年)亡くなったエリザベス二世の夫はエディンバラ公であり、スコットランドの都市に因んでいる。
ウェールズは公用語が英語とウェールズ語であり、民族は言語と切り離せないから、文化的、風俗的にイングランドやスコットランドとは一線を画している。
現在の競馬先進国のレースでは、ゲートスタートが一般的だが、一昔前までは本作品のレースのようなバリアスタートが行なわれていた。スタートラインの後方に適当に集まり、位置や姿勢が揃ったところで旗を振ってジョッキーたちに合図し、ロープを跳ね上げる。
ゲートのストレスはないが、スタートの有利不利が大きかった。そのために初期の競馬はスタートの不利を挽回できる長距離レースが多かったのではないかと、当方は考えている。本作品のレースも2マイルから3マイル強で争われている。3200メートルから5000メートルだ。
馬の走り方は歩様といって、ダク(歩く)トロット(ちょっと走る)キャンター(ジョギングくらい)ギャロップ(全力疾走)みたいな分け方をする。西部劇でカウボーイが乗っている馬の走り方はせいぜいキャンターである。ギャロップは競走馬の走り方だ。
馬はギャロップではあまり長い距離を走ることができない。長距離レースといっても最大が3マイル程度である。ちなみに日本の中央競馬で再長距離のレースはステイヤーズステークス(中山競馬場の3600メートル=2マイルと2ハロン)である。ある程度以上のスピードで40キロ超の距離を走れるのは人間だけらしい。
馬主は会社経営や医者、芸能人、スポーツ選手といったイメージだが、一口馬主といって、シンジケートに入れば馬主になることができるシステムがある。本作品は自分たちでシンジケートを作って、町の人々に馬主になってもらい、一緒にその馬を応援するというほのぼのした物語である。ただし、馬主が儲かることは殆どない。
一頭の馬の活躍がうらぶれた町の人々に希望や活力を与えるという素直な展開だが、郷土愛という下地があってこその応援であり、夢である。国の代表のスポーツ選手を応援するのと似ているが、自分たちですべてのお金を出して仔馬を誕生させて育てるところに、国のやっていることにただ乗っかるだけの国家主義者たちとの大きな違いがある。
馬は国を背負ったスポーツ選手ではない。自分たちの夢を乗せて走るのだ。ある意味で家族である。だからまず願うのは、勝利よりも怪我をせずに無事に回ってくることだ。母親のような愛情である。そこに無条件の感動がある。田舎町を差別しすぎない競馬の実況や、素人馬主集団をあたたかく見守る新聞記事が、イギリス人らしくてよかった。よくできたエンタテインメント作品だと思う。