三無主義

 ~ディスパレートな日々~   耶馬英彦

映画「ヒトラーのための虐殺会議」

2023年01月26日 | 映画・舞台・コンサート
 映画「ヒトラーのための虐殺会議」を観た。
映画『ヒトラーのための虐殺会議』オフィシャルサイト

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2023年1月20日(金)より 新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町、 YEBISU GARDEN CINEMAほか全国公開|1,100万ものユダヤ人絶滅政策を決定した史上最も恐ろしい...

映画『ヒトラーのための虐殺会議』オフィシャルサイト

 前日にセルゲイ・ロズニツァ監督の映画「新生ロシア1991」を観たばかりである。同監督には「バビ・ヤール」という、ナチスドイツによるキエフ近くでのユダヤ人大虐殺を描いた作品がある。2022年10月に今回と同じ映画館で鑑賞した。バビ・ヤール大量虐殺は1941年の事件で、本作品はその翌年に開かれた会議の話だ。
 バビ・ヤールが大変だったから、次はもっと効率的なやり方を考えなければならない、というのが会議のテーマのひとつである。大人の男たちが大量に人を殺すやり方について大真面目に議論している。信じられないが、実際にあったことだ。

 アイヒマンが際立って優秀な役人であったことは、本作品を観ればよく分かる。実は本当に恐ろしいのは、こういう事務的に職務を遂行する役人たちだ。アイヒマンが淡々と説明する内容は、常人の神経では聞いていられない凄惨なものである。
 ユダヤ人をひとりひとり射殺していくのは、手間がかかる上に、殺す兵士が精神的に病んでしまうことがある。アウシュビッツのような強制収容所にユダヤ人を集めて、列車の到着と同時にガス室に送り、死体の処理をユダヤ人にやらせればいい。短時間で大量の人間を殺すことが出来る。殺す人間と殺さない人間が直接的に接触しなくて済むし、作業を分業化しやすい。
 アイヒマンの説明を聞いたナチの高官たちは素晴らしいと拍手をする。こちらも並の神経ではない。ユダヤ人が先にドイツに被害を与えた訳で、今後の被害を防ぐためにユダヤ人を根絶やしにするのは当然だ、人道主義など一顧だにしないことが大事だと、ナチの思想の最も恐ろしい部分を平気で口にする。

 個人個人は別の考え方を持っているかもしれない。しかし全体主義の社会では、反体制的な思想を一片でも見せてしまうと粛清されてしまう。それは政府高官も例外ではない。誰もが唯々諾々と反ユダヤ主義に従うしかないのだ。戦前の日本の「お国のため、天皇陛下のため」という思想と寸分たがわない。

 岸田文雄は日本の軍事費を2倍にするという。この時代にあって、軍拡が戦争の抑止になると本気で考えているようだ。精神性の根幹は金正恩と同じだ。そして日本の役人たちはアイヒマンと同じように淡々と軍拡を進めようとしている。かつて辿った道、侵略戦争への一本道だ。そこが何より恐ろしい。