映画「ブラック・サイト 危険区域」を観た。
トム・クランシーやロバート・ラドラムの小説を集中して読んだ時期がある。CIAのエージェント(代理店ではなく現場工作員)が活躍する物語が多かったが、トム・クランシーの方には、本部のアナリストのジャック・ライアンを主人公にしたシリーズがあり、ライアンはCIA長官から最終的には大統領にまで昇りつめる。
CIAは情報収集と分析によって外交政策や軍事戦略に大きな影響を及ぼす極めて政治的な組織なのである。だから方針は政治に左右されるし、その職員出身の政治家が出現するのも、ある意味で当然のことだろう。
公務員は本来国民のために働くのが義務だが、大方の公務員は権力者のために働いている。CIAのような組織は特にそうで、アメリカの富と権力者の地位保全のためには、法など無関係だ。世界各国に現場工作員を駐在させて、情報収集のために拉致したり拷問をしたりする。
戦後の日本でも、出来たばかりの組織だったCIAが暗躍し、岸信介を取り込んでアメリカの思うがままの政権を作った。その流れは現在も続いている。歴代の自民党の首相は悉くアメリカに尻尾を振ってきた。それはCIAに尻尾を振ってきたのと同じことだ。アメリカのポチは即ちCIAのポチなのである。
唯一アメリカに正面から反抗した総理大臣は鳩山由紀夫で、普天間基地の移転先を「最低でも県外」と主張してアメリカの逆鱗に触れ、母親から金をもらっていたという違法でもない行為であっという間に総理を降ろされた。CIAの恐ろしさを日本の政治家が改めて認識した瞬間でもあった。辺野古反対を正面から訴えた鳩山が宇宙人と呼ばれたのも無理からぬことだ。
本作品のタイトル「ブラック・サイト」はCIAが世界各地に持っている隠し施設である。そこでは、アメリカ国内では出来ない拉致や拷問などの違法行為が日常的に行なわれていることが、本作品を観ればわかる。責任者であるアビが「法に従って」と発言したのを職員の元軍人がせせら笑うのはそのせいだ。施設の存在そのものが違法なのに、中での行為を順法にしたところで何の意味もない。
導入からラストまで、プロットはよく出来ている。ハチェットが戦闘力と知識に長けた恐るべき存在であることが本作品が成立する条件で、演じたジェイソン・クラークの演技は大した迫力だった。知られていないはずの隠し施設の中を、ハチェットはどうして自由自在に動き回る事ができるのか、その理由がラストになって判明するのも面白い。
そしてラストシーンには、CIAという組織の本質を暴露する意味もある。ハッとした観客もいただろう。そして1947年の設立以来、CIAが何をしてきたかに思いを馳せた人もいると思う。日本も戦後から今日まで、CIAの影響を受けずにいられなかった。
三菱地所がニューヨークのロックフェラーセンターを買収したことがあったが、その直後に日本経済のバブルが崩壊し、すぐに手放すことになった。小泉竹中改革で市場原理主義が導入されて以降、日本経済は右肩下がりであり、研究開発費は削られて、世界経済のシーンで後れを取ることになってしまった。郵政民営化などはアメリカが提示した「年次改革要望書」に書かれてあることだった。
すべてがCIAの陰謀とは言わないが、情報収集と分析、的確な施策を実施することで、アメリカが日本経済を崩壊させたことは間違いない。鳩山由紀夫と小沢一郎はそのことを知っていたフシがある。そして失脚してしまった。
残念ながら現在の日本の政治家や官僚には、アメリカに異議を唱えるような器量のある人物はあまりいなそうである。今後もアメリカの「年次改革要望書」に従って、日本の技術と労働力をアメリカに差し出し続けるに違いない。その報酬が自分の政権の維持なのだから、日本国民はいつになっても浮かばれない。