三無主義

 ~ディスパレートな日々~   耶馬英彦

映画「金の国 水の国」

2023年01月29日 | 映画・舞台・コンサート
 映画「金の国 水の国」を観た。
絶賛公開中!映画『金の国 水の国』オフィシャルサイト。

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「このマンガがすごい!」史上初2作連続1位の作家原作!最高純度のやさしさに2023年初泣き!不器用な2人の<やさしい嘘>が国の未来を変える―

ワーナー・ブラザース映画

 ほのぼのとしたアニメ作品かと思いきや、なんと戦争か平和かという究極のテーマの物語が展開されていて、驚いてしまった。日本を含めた世界がきな臭くなっているこの時期に、本作品が公開されたことには、映画人の危機感が現われていると思う。
 日本のマスコミが岸田政権の軍拡を既定路線としてしまったために、論点が増税の是非にずらされ、肝心の軍拡の是非の議論が置いてきぼりにされている。このままだとタモリがいみじくも言ったように「新しい戦前」が始まってしまうのではないか、いや、すでに始まっているのではないか、そういう危機感だ。
 
 役者兼左大臣の若い男が「民のくらしに力を注ぐべきときに兵力増強とは、戦争でも始めるつもりですか?」という意味の質問を右大臣に投げかける。これはすべてのマスコミが岸田文雄に問いかけなければならない質問と同じである。ちゃんとした答えを得るまで、何度も何度も質問しなければならない筈だが、マスコミは増税の質問しかしない。
 
 本作品は、大本営発表と化したマスコミに代わって、現政権に対して「戦争するつもりか?」と質問を投げかけているのだ。軍拡は即ち、戦争をするつもりがあるということだ。戦争をするつもりがなければ軍拡の必要はない。国民のくらしに力を注ぐのが第一である。国民から預かった大事な税金を、勝手に兵器の購入に使うのは言語道断の話だが、軍拡が戦争に直結することを理解していない国民があまりにも多い。
 
 金の国に水が不足しているのは、ある意味で象徴的である。日本は食料自給率が極めて低い。食料の輸入ができなくなったら、戦争どころではない。軍事の安全保障よりも、食料の安全保障のほうがよほど急がれる懸案だ。岸田政権は明らかに何も理解していない。
 
 純情な恋物語と国家間のいがみ合いを一緒に描くのは、映画では割とありがちではあるが、全体とディテールが同時に表現できるから、有効な手法だ。本作品も成功している。それぞれの国の為政者の人となりまで、多少好意的すぎるところはあるが、ちゃんと描かれている。よくできた作品だと思う。

映画「アサシン・ハント エージェント:ゼロ」

2023年01月29日 | 映画・舞台・コンサート
 映画「アサシン・ハント エージェント:ゼロ」を観た。
アサシン・ハント エージェント:ゼロ : 作品情報 - 映画.com

アサシン・ハント エージェント:ゼロ : 作品情報 - 映画.com

アサシン・ハント エージェント:ゼロの作品情報。上映スケジュール、映画レビュー、予告動画。アンソニー・ホプキンスが殺し屋組織の謎めいたボスを怪演したアクションス...

映画.com

 殺し屋のモノローグで始まり、殺し屋のモノローグで終わる。しかし同じ殺し屋とは限らない。

 殺し屋稼業は楽ではない。政府や諜報機関の仕事は報酬は高くないが、情報と準備期間はたっぷりある。成功率が高く、危険は少ない。マフィアの仕事は報酬はたっぷりだが、情報と準備期間が少なく、とても危険だ。ときには命を狙われることもある。ハイリスク・ハイリターンとローリスク・ローリターンはどの業界でも一緒だ。

 アンソニー・ホプキンスが演じたマフィアのボスは、ナイーブなところがあるように見せかけて、実は非情でとてつもなく冷酷である。
 かつてベトナム戦争で一緒に戦った友人は、優しさを捨てきれなかった。それは兵士としては致命的な欠点だ。殺し屋にとっても同じで、彼の血を受け継いだ息子にも、似たような欠点がある。そこでボスは究極の試練を与えることにした。邦題の「アサシン・ハント・エージェント:ゼロ」は、ボスの考えた試練をそのまま表現している。

 田舎町の食堂。誰がターゲットなのかは分からない。見定めるために神経を研ぎ澄ませて観察する。即時に計画を立てて実行していくシーンは緊迫感の連続だ。
 直感は誤らない。誤るのは判断の方である。主人公はプロフェッショナルであることにこだわるあまり、直感よりも判断を信じてしまうというミスを犯す。殺し屋にミスは許されない。自分の死に直結するからだ。
 原題の「The Virtuoso」は名人、達人の意味だ。自分をVirtuosoと呼ぶ主人公は、いまだにVirtuosoたりえていなかったのである。

 画面は暗いが、決して見にくくはない。カメラワークが見事で、ひとつひとつのシーンに迫力があった。観応えのある佳作である。