映画「青春ジャック止められるか、俺たちを」を観た。
白石和彌監督の一作目を鑑賞したのは2018年の10月である。若松孝二という圧倒的なバイタリティに引きずられるようにして生きる若者たちの、青春群像を描いた佳作だった。門脇麦が演じた助監督のめぐみが主人公で、彼女の死から衝撃を受けはするものの、その後も若松組は続いていった。
一作目の脚本を書いた井上淳一が本作品の監督を務めている。舞台は一作目から15年が経過した1984年で、若い頃の井上監督自身が登場する。若松孝二の門を叩いた井上淳一は、予備校を出て大学に合格したばかりの19歳。若松監督の洗礼を受け、映画の世界が甘くないことを思い知る。
若松監督は相変わらずバイタリティに溢れ、理屈よりも感性で映画を撮る。生き方も、理屈よりも感性だ。反体制的であり、権力が嫌いなところは相変わらずである。演じた井浦新が一作目とほとんど同じ演技なのは、白石監督に対するオマージュだろう。変えない方がいいのは勿論だが、映画をたくさん作って名声を博しても、若松孝二の生き方が少しもブレなかったところを見せたかったのもあると思う。若松監督への変わらぬ尊敬の念が感じられた。
東出昌大が凄くいい演技をしていたことに、少なからず驚いた。完全に一皮むけた印象だ。映画好きの支配人として若松監督相手に一歩も引かない役を好演。映研の女子大生を演じた芋生悠も、2020年の映画「ソワレ」のときよりも存在感を増している。
若松孝二を取り巻く人々の人間模様を描いた点は一作目と同じだが、一作目ほど突き放してはいない。悪意のある人間が登場しないのだ。ベトナム戦争の真っ最中で、企業の殆どがブラックという、日本社会自体が不穏だった一作目とは、状況がかなり異なる。経済的に成長して、まもなくバブルの絶頂期を迎えようとする時代だ。衣食足りて礼節を知る。若松監督にも焼肉を奢る余裕がある。どことなく態度も穏やかだ。このあたりの微妙な違いを、井浦新は見事に演じ分けてみせた。
若松孝二は同じ人だが、周囲は一作目とは違った青春時代を過ごす。反骨で自由な精神性のそばにいることは、若者の日常のありようとして、とてもいい環境だ。ヒリヒリする毎日が、思い返せば愛しい日々であったということになる。「青春ジャック」というタイトルの通り、若き日の自分たちを優しく包み込むような作品だ。ほのぼのと温かい気持ちになる。