映画「マイホームヒーロー」を観た。
面白かった。法律にはあまり詳しくないが、罪と罰について、改めて考える機会にもなった。
刑法では、違法性阻却事由が規定されていて、正当防衛や緊急避難に相当すると判断されれば、たとえその行為が、責任を問える人間の行為であり、刑法の条文に該当する行為であるとしても、違法性は阻却される。つまり無罪だ。
とはいっても、正当防衛は、急迫不正の違法行為から自分または他人の生命や身体を守ることに限定されていて、やり過ぎは過剰防衛となり、暴行や傷害、または殺人の罪に問われる場合がある。緊急避難は違法行為に対処する訳ではないので、更に判断が難しい。
たとえば、密閉された空間に複数の人間が閉じ込められた場合、自分の酸素を確保するために他の人間を殺害したとして、その行為が緊急避難として認められるかは微妙だ。酸素が不足することは予見はされるが、急迫した危機と認められないことがある。
しかし、たとえば脇見運転の自転車が子供にぶつかりそうになったときに、その自転車に体当たりして子供の危険を回避する行為は、体当たりの程度が必要最低限であれば、緊急避難として認められ、違法性が阻却される場合がある。
本作品の鳥栖哲雄の行為は、果たしてどうだろうか。違法性阻却事由に該当するかどうか。追及している間にも、物語はどんどん進んで、刑法どころの話ではなくなってくる。一般人が遭遇することの少ない凶悪犯罪が、もし自分の身に降り掛かったらどうするか。対処というよりも、生き方が問われることなのかもしれない。
舞台は極めて日常的であり、凶悪犯罪の影も見えないが、逆にリアリティがある。誰にでも起こり得るように思えるのだ。だから主人公に感情移入し、一緒になって緊迫感と恐怖を味わう。映画の醍醐味だ。
佐々木蔵之介は素晴らしい。今年の米アカデミー賞視覚効果賞を受賞し、日本アカデミー賞で作品賞を受賞した「ゴジラ-1.0」では、豪快で且つ繊細な元軍人を上手に演じていた。本作品では、聡明で誠実で覚悟を決めた一般人という難しい役を見事に演じている。ありそうもない話をリアルな日常に繋ぎ留めたのは、この人の演技の賜物だと思う。