映画「変な家」を観た。
「原作はホラーじゃなかったよね」と、終映後の観客が話していた。相手も頷いていたから、おそらく原作はホラーではないのだろう。オカルト小説といったところだろうか。ジャンプスケアが殆どなかったから、製作側もホラー映画を作るつもりはなかったのかもしれないが、それにしては不気味でジワジワとした怖さがあって、それなりに楽しめた。
お面には不思議な恐ろしさがあるものだなと、改めて思った。本作品で登場するお面は、能面のようなタイプで、ほぼ無表情だ。そもそも能面という言葉そのものに、無表情という意味がある。能は、シテの動きで無表情の能面に表情を纏わせる。観客が能面から感情を受けとめると言ってもいい。
本作品で、お面を被った人に恐怖を感じるとすれば、それは観客が自分の心に恐怖を生み出しているということだ。人間は未知のもの、理解できないものには自動的に恐怖を覚える。オカルト作品のメカニズムは、そのあたりに秘密があると思う。
恐怖の根源には不条理がある。究極は死だ。人が死ぬことは周知の事実だが、自分の死は、受け入れがたい不条理である。死は介在的にしか理解できないものだから、自分の死と他人の死は決定的に異なる。
理不尽な理由で死に追いやられることには、特に恐怖を感じる。戦争や災害はリアルな恐怖で、シリアスにならざるを得ない。一方でオカルトには、そこはかとない滑稽さがあって、本作品でも思わず失笑してしまいそうになったシーンがいくつかあった。あくまでエンタテインメントなのだ。
俳優陣はなべて好演。間宮祥太朗は上手い。川栄李奈も達者だ。佐藤二朗がおふざけの演技をしなかったのがよかった。オカルトの滑稽さと佐藤二朗のおふざけが相容れないことは、本人も監督も知っているのだろう。