映画「ペナルティループ」を観た。
ストックホルム症候群という言葉をご存知だろうか。ストックホルムの銀行に立て籠った強盗犯たちに人質にされた人々の話だ。犯人たちと長時間を一緒に過ごすうちに人質たちは愛着みたいな感情を抱いたらしい。病気ではなく、一時的な精神状態のことをいう。身動きさえ禁じられた状態から、トイレに行かせてもらったり、食事を与えられたりして、犯人たちに対する感謝の念も生じたようで、そういう気持ちになる可能性は想像できる。
本作品では、伊勢谷友介の殺される側と、若葉竜也の殺す側が、何度も殺したり殺されたりするうちに、なんとなく心が通い合ったような錯覚に陥る。ストックホルム症候群によく似ている。
殺した翌日のはずが、殺した日と同じ日の朝を迎えてしまう。しかし主人公にはそれほどの驚きがない。この違和感はラスト近くになって明かされる真相によって、ある程度は解消される。しかし登場人物それぞれの正体や背景についての疑問は残ったままだ。
本作品のテーマは、設定のネタバラシよりも、殺す側の気持ちの変化にあるようだ。何度も殺すうちに、主人公には憎悪以外の感情が湧いてくる。相手のことを知りたいと思う気持ちである。どうしてあんなことをしたのか。砂原唯は、どうして殺されなければならなかったのか。
自分に事情があるように、人にはそれぞれの事情がある。怒りや憎悪は単純な感情だが、人の事情は単純ではない。事情があるということは人間だということだ。つまり他人の事情を認めるということは、その人間性を認めている訳である。すると、怒りや憎悪だけでは割り切れなくなる。
罪を憎んで人を憎まずという諺がある。なかなか理解し難い言葉だが、本作品を観て、この諺の真意が薄っすらと分かるような気がした。人を許すのは難しいことだが、今の世界に必要なのは、まさに他人を許すことだ。もしかしたら、とても深い作品かもしれない。