映画「雪の花 ともに在りて」を観た。
独自の空気感がある作品で、それだけで、そこはかとない感動がある。登場人物がみんな真っ直ぐという、歪みまくっている現在の社会からは考えられない人々で、台詞のひとつひとつに真剣味と重味がある。人間関係はとてもダイナミックだ。
志の高い人がいて、そういう人はエネルギッシュだから周囲を巻き込んでいくが、現状を維持して自分の利益を守りたい人々とは対立関係になる。時代劇の典型的な構図だ。相手が強大なほど、判官贔屓の観客は盛り上がる。
本作品もそうだったが、殿様が名君だったおかげで、水戸黄門みたいな収束になっている。水戸黄門が人気だったのは、観終わったら晴れやかな気持ちになるからで、本作品も同じように晴れやかな気持ちになる。
松坂桃李は好演だったが、見事だったのは芳根京子である。2018年の映画「累 かさね」では、共演した土屋太鳳に演技力で押されていたが、その後どんどん上手くなって、本作品では、才長けて見目麗しく情ある妻を、演出のケレン味も含めて、上手に演じ切った。
ピアノとチェロとフルートだけのシンプルな劇伴が味を出していて、上田正治のカメラワークと合わせて、作品の上質な空気感を演出している。はつを演じたミュージカル女優の三木理紗子が上手な職人歌を披露していて、職人医を目指す笠原の心境にシンクロする。このあたりの演出もとてもいい。
最近の映画にはない独特な空気感は、性善説に基づく人間愛であったり、未成熟の社会に暮らす人々の向上心であったりして、人間関係が濃密な社会が持つ、ある種の希望に由来するのかもしれない。いい映画だった。