ジャガイモ畑の向こうの 麦畑のさらに向こうはるかに ビルケナウ強制収容所の監視塔が見えてきた
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シンフォニー 《無垢な人々の苦しみ》
= アウシュヴィッツ編 =
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前日に見たアウシュヴィッツのホロコースト博物館から バスで5分と離れていないところに
アウシュヴィッツの第二強制収容所がある
悪名高き 「ビルケナウ強制収容所」 だ
今は ユネスコの 「負の世界遺産」 として認定されている
その広大な敷地は 東京ドームの約37倍で 世界最大の 「絶滅収容所」 と呼ばれる
その正面の入り口に向かって 一本の引き込み線が今も真っ直ぐに延びている
収容所の構内に貨車でたどり着いた人々を待ち受けている運命については
前のアウシュビッツの記事の描写で十分すぎるほどだから 敢えて繰り返さない
ただ一つの違いは
その規模がそれよりさらに何倍も大きいということだろうか
その構内からふと外を見ると 何やらロックコンサートのステージのようなものが 設営の真最中だった
一口に野外ステージと言うが 横から見ても その大きさは半端ではない
巨大なスピーカーがパイプ枠の中に吊り上げられ 仮設トイレも万里の長城のように並べられていく
ステージの上では オーケストラが既にリハーサルの真最中だった
前年5月 ボストン ニューヨーク シカゴ とアメリカの東部をツアーで回った
あのキコお抱えの お馴染みのオーケストラだ
ステージからは ビルケナウ強制収容所の正面がすぐそばに見える
目を上げると お天気が怪しくなってきた 黒雲が空を覆い始め 風がステージのシートをばたつかせた
と思ったら バケツをひっくり返したような土砂降りの雨が 雷鳴と共に叩きつけてきた
ヴァイオリンも オーボエも ティンパニーも ハープも
ステージの中に容赦なく横殴りに吹き込む雨の前には なす術もない
みんな 楽器をかばいながら 周りの仮設のテントの中に 走り込んで遁れる他はなかったのだが
強制収容所の佇まいも雨に煙っていた
待つこと約1時間 嵐が通り抜けた後には 虹が立った
虹を背に ステージの赤い絨毯はびしょ濡れだったが もうあまり時間がない
ステージの前には リハーサルに並行して 手際よく椅子が並べられていった
雨上がりに 1万2000席が用意された ニューヨークやシカゴの時と規模が全然違う
各々の楽器に直接マイクロフォンが取り付けられ 一つ一つテストして
それをミキサーが集めて大スピーカーから流すという手法は
野外ロックコンサートなどと同じ原理だが クラシックの音楽の場合 はたしてどういう結果に終わるのか・・・
世界に生でオンエアーするテレビの中継車も画像と音響の調整に余念がない
そんな中 若いハンサムなスペイン人の指揮者 「パウ」 は 通し演奏の棒を振るのに余念がない
マイクの前に立つ コーラスを下支えするバスも 下腹に力が入っている
聖母マリアのパートのソロを天使のように澄み切った声で歌うソプラノは まだ20歳に満たない
さて 本番はどのような展開になるか それは次回のお楽しみ・・・
( つ づ く )