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桜前線=いまバチカン通過中
-付録に秘話あり-
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バチカンの庭園には世界各国から寄贈された様々な樹木が植えられている
日本からは2004年に香川県の東かがわ市からソメイヨシノと徳島産の蜂須賀桜が寄贈された
私の知る限り日本からはこれが最初で唯一のはずだ
日本初のカトリック教区立神学校が同市に出来たこと、同市がそれを誘致したことを記念して
当時の教皇ヨハネパウロ2世に寄贈されたものだ
苗木は植えられた時は私の親指ほどの太さだった
それがどうだ、8年で二の腕ほどの太さになった
実は去年はもっと咲いた、今年は上の写真のようにこじんまりと咲いた
枝はあと2メートル以上は長かったはずなのに、なぜか?
バチカンの庭師がこともあろうに枝先を容赦なく剪定してしまったのだ 無知は恐ろしい
日本には
「サクラ切る馬鹿、ウメ切らぬ馬鹿」
と言う言葉がある 切り口から黴菌が入って枝が腐らなければいいのだが・・・
切らなければ今年はそろそろ桜の枝が交錯してトンネル状になるはずだったのに・・・
ここは、昼下がりに教皇様が護衛もつけず自由に散歩されるバチカンの奥の奥の庭なのだ
始めは、一般の巡礼に開かれたサン・ピエトロ広場から見上げられるジャニコロの丘に植えられる計画だった
ところが、ジャニコロの丘はバチカンとイタリア政府の両方の権限が交錯する複雑な土地柄で
バチカンの意向だけでは自由に処分できないという事情が浮上した
それでこんな奥まったところになった
しかし、サン・ピエトロ寺院の丸天井のドームのてっぺんまで上った人たちは、上からこの花盛りを眺めることができるのだ
サクラ並木の側にはライオンの噴水がある
その側で、今年の桜の花見パーティーの参加者は月桂冠の日本酒で乾杯!
(メンバーの紹介は省略する)
今年のお弁当はざっとこんなもの、これで3人前
この日、庭園の主人、ベネディクト16世教皇はキューバに外遊中
猫の居ぬ間にネズミは踊る、のことわざよろしく、日本酒と日本料理で宴は盛り上がり
上野公園ほどではないが、サクラ、サクラの合唱まで飛び出した
サンピエトロのクーポラの上から丸見えであることも忘れて・・・
パパラッチに望遠レンズで撮られてイタリアの週刊誌にでも売られたらオオゴトだった!
最初の予定では4日前の土曜のはずだったが、福島の被災地の支援の催しでこの顔ぶれが全部そろわないことになった
今日はもう花の盛りをすぎようとしていた、そよ風にハラハラと花びらが舞い始めて・・・
セルフタイマーでハイ、パチリ!
私のしわだらけの指がなければもっとよかったのだが・・・
(なお、1年前の花見は 「花見でいっぱい -バチカンの桜-」 をご覧ください。)
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さて、ここからはサクラ植樹の裏に秘められた苦労話です
話は1997年春かその少し前に遡る。高松の神学校の建物の定礎式にわざわざローマから祝いに駆けつけた当時の福音宣教省長官のトムコ枢機卿を、地元の町会議長さんや商工会の代表がジャニコロの丘の上の枢機卿私邸に表敬訪問した時のこと。町会議長の長町さんが庭からサンピエトロ広場を見下ろしながらふとつぶやいた。「この丘に日本の国花の桜を植えたら、向こうのバチカン宮殿の窓から教皇さんが毎年花見をすることになる。そして、広場に集まる日に何万人もの巡礼も日本の花を見ることができる」と。
さあ、それから5年越しの粘り強い交渉が始まった。
キリスト降誕2000年を祝う「聖年」のお祭りの混雑に備え、ジャニコロの丘の地下に大駐車場の建設が始まった。そのあおりで桜植樹の話は棚上げにされた。2000年を越えて、福音宣教省の長官はセペ枢機卿に替わり、交渉は振り出しに戻った。そして、場所も今のバチカン庭園に変更になった。植樹事業が正式に決定したのを受けて、私は徳島の植木農場に苗木を見に行った。予備も含めて30本余りを選んで根の土を洗い、消毒し、ミズ苔で捲いて神戸税関の香川の出張所に輸出申請を出した。そしたら、「許可できませんね。」 「どうして?」 「EC加盟国は日本の桜の木の輸入を禁止していますから」とピシャリとやられて、万事休す。青くなってバチカンにその旨を伝えた。5年越しの交渉をして、やっとバチカンの同意を取り付けたのに、お願いした我々が、実は出来ない話を持ちかけていた、とあっては面目丸つぶれではないか。
バチカン側も、勿体付けて許諾したのに、話が空中分解では絵にならないと言うものだ。案の定、バチカンからはすぐに返事が返ってきた。いわく、「バチカンは独立主権国家である。バチカンはECには加盟していない。したがって、日本の検疫当局は許可を出すべきものと考える」とあった。
「ばんざーい!やったー!どんなもんだい」、と得意になって出張所に係官にその話を伝えた。そしたらどうだ、「いいえ、やっぱり許可できません!」ときた。喧嘩っ早い私は頭にきた。「相手がいいって言うんだから、文句はないだろう!」すると、あくまでも冷静な構えで、「ではお聞きしますが、バチカンには国際空港があるのですか?」いや、これには参った、というか、呆気にとられましたね、さすがの私も。広さ0.44平方キロ、人口458人、ビリから2番目のツバル(人口9,929人)の20分の1にも満たない、押しも押されもしないどん尻の195位につける世界最小国の話だ(Wikipedia)。1.32Kmのウイングを持つ関西空港のターミナルビルが収まりかねるゴミみたいに小さな独立国にどうやってジェット機の降りられる滑走路を造れというのだ。ご無体な!(しかし、バチカンには鉄道の駅だって、飛行場―ただし教皇緊急脱出用のヘリが飛びたてるヘリポートにすぎないが・・・-も、ガソリンスタンドだって、スーパーマーケットだってなんだってあるのだが・・・)曰く、「ローマ空港に着いたらイタリア国内を通ってバチカンに運ぶのでしょう?イタリアはECに加盟していませんか?」なるほど、理屈は通っている。
しかし、ここで引っ込んでは男が廃るというか、面子が立たない。ここまで言われては、バチカンだって後に引けまい。そこで、鳩首相談と相成った。そして、「これでどうだ!」という決め球を考案した。
再度出張所の職員に面会を求めた。「確かにバチカンには国際空港なんかありません。しかし、ローマ空港にはバチカン市国の保税倉庫があります。ここはECの管轄外です。そこへ、バチカンの税関のトラックが着き、桜の苗木を積んでバチカン国内に運びます。確かにイタリアの道路の上を走りますが、トラックの内部は治外法権です。いかがなものでしょうか?」今度は出張所の検疫官がグッと詰まって、沈黙する番となった。奥に引っ込んで、上司とヒソヒソすることしばし。そして、やおら口を開いた。
「よろしい、そこまで言われるなら、勝手にしてください。その代り、現地でトラブっても、本官らは一切それに関して責任を負いかねますから、ご承知おきを。」
こういう秘話の上に、今の桜は咲き誇っているのでありました。
(おしまい)