Jun日記(さと さとみの世界)

趣味の日記&作品のブログ

ダリアの花、94

2017-03-20 19:52:28 | 日記

 娘が母と交代すると、光君はまだぐっすりと眠っていました。

ふと見ると、奥の座敷は人の出入りがあるらしくバタバタしている様子です。住職さんが廊下に出たり入ったりしているのが見えます。

光君の母は久しぶりにゆっくりと親子水入らずの時を過ごせるので、座敷より我が子です。

何だかほっとして光君の頭を撫でたりします。ぼーっとして窓から入る風に吹かれています。

 『お父さん急に如何したのかしら。』

今話していた父の様子が気になって、娘は娘なりに兄が亡くなった当時のことを細かく思い出してみるのでした。

 父の留守に母子で海水浴に行った夏の日の出来事です。

兄は小学生でもう泳ぎもかなり達者になり、すいすいと海面を泳いでいました。

妹の方は未だ修学前でした。少し泳げるようになりましたが犬かき程度です。

ましてや広い海の事、安全策を取って浮き輪でのんびり泳いでいました。

 その日はうらうらと海面に照り返す日差しが気怠いくらいに海は凪いでいました。

彼女は浮き輪の穴から手や顔を出して泳ぐのにも飽きて来ました。

先日兄が教えてくれた浮き輪の使い方、背中に浮き輪を敷いて頭と腕、足を浮き輪から出すという、

亀をひっくり返したような乗り方に変えました。手でバシャバシャと水をかいて進みます。

こうして浮き輪に乗っかると、青い空と白い雲だけが目のはるか上空を漂って行きます。

普段とは違った別世界の視界が広がり、海に抱かれて揺れるととても気持ちがよくなります。

妹は今までとは趣向の違った海水浴の興に浸るのでした。

 目を閉じるとゆらゆら揺れる波の感覚が、揺り籠にいた少し昔を思い出すようです。

こうして目を閉じて揺られる内に彼女は何時しか寝てしまったのでした。

その内風が出て揺れる波も大きくなってきました。高低の感覚が大きくなりましたが、

彼女はそんな事には気付かずに仰向けのまま浮き輪の上ですっかり眠りこけていました。

そして、彼女の浮き輪に揺れの大きな波が襲い掛かりました。

浮き輪の船は見事にひっくり返って転覆し、彼女は海中に放り出されてしまいました。

 


ダリアの花、93

2017-03-20 09:25:54 | 日記

 「もう1度兄さんが亡くなった時の事を思い出してみてくれないかい。」

父は落ち着いて、お前にとっても嫌な事だろうけれど、としんみりと訴えます。

「思い出すと言ったって、私は幼かったし、母さんに聞けばいいのに。」

私より当時大人だった母さんの方が、物の判断はきちんと出来るでしょうに。そう娘は父に言って、

早々と父の元を去り母を呼びに行く気配です。父はその娘を急いで引き止めました。

 「母さんの方じゃなく、お前の方に聞きたいんだよ。」

当時お前は兄さんの事をどう思ったんだい。どう思っていたでもいいんだが、そう聞いて、

父は娘の表情の変化を一つも見落とすまいと、確りと娘の挙動を見つめるのでした。

 父のこの真剣な表情と重々しい口調に、娘は今までにない父の真剣な気持ちを汲み取るのでした。

「お父さん、何だか変よ。」

今更そんな話、今日がお盆だから、亡くなったお兄さんの事を思い出したんでしょうけれど、

私にしても当時のあの事は思い出したくない事件なんだから。と、彼女は足元に目を落とすのでした。

 「私が自分で泳げたらこんな事にはならなかったんでしょうけれど…。」

娘も兄の死には何かしらの責任を感じる事件ではありました。

「でも、兄さんも悪いのよ、あんな事するから。」

彼女は急にムッとした表情になりました。

当時の事を思いだしたのです。彼女の目は三角になり、瞳には怒りの炎が窺えます。

そして、一瞬瞼を閉じると、しんみりとした表情になり、肩の力は抜けて

「それはそれでよかったんだけど…知らなかったから。」

と、目はうるうるとして涙が浮かび、彼女は手で口元に触れると、

当時はそんな事知らなかったものだからと蚊の鳴くような声で呟くのでした。

  お父さん、お兄さんは全然悪くないのよ、当時の私はそんな救助法なんか全然知らなかったものだから、誤解したのよ。

今から思えばお兄さんに悪いことをしたわ。意地悪な兄だと思ったの。お母さんもそうなのかも。

「母さんの事は後で母さんに聞くから。」そう父は娘の言葉を遮ると、

「今はお前の話なんだ、お前の思った気持を聞いているんだよ。当時のね。」

そう注意するのでした。

 兄さんが亡くなって直ぐに如何思ったんだい、お間の素直な気持ちを聞いているんだ。

父の言葉に娘はスンと鼻を啜ると、しゃんと背筋を伸ばしてして、思い切ったように

「嫌な兄、意地悪な事ばかりして、あんな兄亡くなってせいせいしたわ。」

確かにそう思ったわね、ちっとも悲しいと思わなかったわ。それに最後まで意地悪であんな事までしてと思ったのよ。

 やっぱりそうか、と父は合点します。

「よく正直に言ってくれたね、次は母さんと変わってくれないか。」

父の言葉に、娘はそれ以上何を話す事も無く、言われた通りその場を離れるとすぐに母を呼びに行ったのでした。


ダラアの花、92

2017-03-20 08:55:40 | 日記

 さて、お寺の来客用座敷で蛍さん一家の憑依、除霊の一件が持ち上がっていた頃、 

光君一家の祖父と母は、本堂の墓所に面した廊下でじっくりと話し込んでいました。

その2人を遠目に見ながら、本堂のご本尊の裏手で祖母と光君が休んでいました。

光君は頭を冷やしながら祖母の膝枕などで寛いでいます。

座敷の蛍さんの様子が気になっていましたが、祖母がゆっくり休んで体調が落ち着くまではと彼を離してくれませんでした。

 「ねぇ、あの子は大丈夫だったかしら?」

自分がこんな調子なのですから、同じように頭を打った蛍さんも似たような感じなのではないかと光君は推量したのでした。

「あちらはちゃんとあちらのご家族が見ておいでだから大丈夫よ。」

そう祖母は言って、自分の事だけ面倒を見ていなさいと、それがあの子にも早く会う近道だと教えます。

具合の悪い時には無理をしてはいけない。そう孫を諭すのでした。開け放たれた障子戸の窓から、祖母と孫に心地よい風が吹いてきます。

そうだねお祖母ちゃん、少し寝る事にするよ。そう言って聞き分けよく光君はすやすやと眠りに入って行きました。

 「そうなんだよ。」

父は娘に話します。丁度窓下の墓所には誰もいなくなり、父娘が打ち明け話をするには好都合な状態になりました。

「兄さんは、その事が気になって成仏できなかったというんだよ。」

「そんな事、亡くなった兄さんが言うなんて、お父さんの気の迷いじゃないの。」

娘は端から信じられないという風に、父の言葉には批判的な態度でいました。口調もややきつめです。

娘の方は、里帰りしてから息子の態度や母の言動に可なり腹立たしさを募らせていましたから、

父に対してもつい八つ当たり気味な態度を取ってしまいます。

 「亡くなった兄さんが浮かばれないでさ迷っているなんて、非現実的よ。この科学の時代に。」

常識的な話じゃないわと娘は父の妄想には付き合わないという風に、父まで私の事を邪魔にして、自分の機嫌の悪くなるような、

自分を実家から遠ざけるような策を弄するのかと、夫婦で見え見えの手法を取るつもりなのねと、冷静さを保ちつつ、

ヒステリックに逆上する1歩手前の状態で父に詰め寄るしまつです。

 「まぁ、お前がそうなる心情も分からないじゃないが。」

と父は穏やかに、激高する娘に話しを続けます。


春夏の区別がつかないのですが

2017-03-20 08:37:32 | 日記

何しろ、記憶の中では春夏の区別無しで見ている物ですから、どちらかというと夏の甲子園の方が印象に残っている感じです。

甲子園自体、よく見るようになったのは成人前後でした。だからその頃からの印象に残っているものです。

沖縄の栽監督率いる高校とか、生きているアニメで話題になった、牛島、香川バッテリーの浪商高校とか。

勝負というより高校名をよく覚えています。早稲田実業、東北高校、駒大苫小牧 高校、横浜、PL、比叡山、○○育英など。

どれも名勝負と言えるし、毎年話題の選手が出てくるし、野球は好きでよく見る方ですね。

どれが如何と言えませんが、松井秀喜選手がいた星稜高校もこちらでは話題ですね。


ダリアの花、91

2017-03-19 11:39:04 | 日記

 静かになった境内の1室、住職さんの声が響きます。

「では皆さん、これから除霊を行います。」

部屋に集った一同は皆一様に緊張します。2、3人残った親戚と子供達は後ろの方へ。

伯父夫婦は丁度真ん中の位置、中心から庭に面した方向に向かって並んで座ります。伯母は渋い顔をして庭の方を向き、

うつむき加減で夫の顔を見るのも遠慮がちです。夫に声をかけられると微笑んで夫を見上げますが、苦笑としか見えない笑顔です。

夫の方は大変興に乗った様子です。朗らかに胸をわくわくと躍らせている事が、闊達な声の調子で誰の目にも明らかなのでした。

そんな息子の様子を尻目に、蛍さんの祖父は前の方で、玄関側の位置に腰を下ろしました。座敷の入り口近くです。

先程より、庭側に座る息子とはやや距離を置いた感じです。

時折しり目に斜め後ろの息子を見てはふかふかと腰を浮かし準備します。いざとなったらその場から、

跳んで逃げ出すタイミングを計り、邪気から機敏に逃げ出す気配です。

 前にいる息子の方は如何したかと、父親が目を前方に移すと、これが何時の間にか居なくなっています。

おやと、父は前の襖の開いた場所迄立ち上がって歩いて行ってみると、

そちらの息子の方は次の間を過ぎて廊下に迄出て行ってしまい、様子を見に出て来た父と目と目が合うと、

嫌々をして俺は嫌だからと口にする始末です。

 「座敷に居たくないんだ。この前怖かったろ。」と、相当怖気付いている気配です。祖父の方は、

「お前の子の話だと言うのに。そんな調子で、誰の子の話だと思っているんだ。」

と、おいおいと廊下の息子に声をかけて、手を大きく振ってこちらへ来いと招きます。

しかし、全く息子が動じないので、到頭廊下まで息子を迎えに行きました。

父1人では動かせそうもないので、困り果てた彼は座敷にいるもう一人の息子を呼びに戻って来ました。

除霊前なので、父も室内の方の息子は未だ安心だろうと微笑んで語り掛けます。

 「おい、あれがな、廊下で怖気付いていてな、動かないんだ、」

お前何とか言ってくれないかと頼みます。

「困ったやつだなぁ。こんな面白いものを。」

この前は、あいつも居たはずなのに、何を怖がっているんだ。変な奴だなぁと、父と共に弟を呼びに行きます。

 廊下でドタバタと、3人で揉めている雰囲気です。しかし、やって来た兄のこら!の一声と、確りせんかいの父の声で、

弟の方は不承不承ながらも2人に追い立てられて、座敷に押し戻されるように帰って来ました。

文句を言っても駄目だという感じです。弟は仕方なく無言で座敷の入り口に佇みました。

 「あんちゃん(兄さん)、おわ(俺)嫌なんだけど。」

除霊の場所に居たくないんだ、と、諦めきれずに弟は兄に一緒に帰ろうと誘います。が、兄の方は、おまえ何言ってるんだ、

「これがどんなに面白いか、お前だってこの前の時に、可笑しい可笑しいと散々笑い転げていたじゃあないか。」

何を言ってるんだとばかりに弟の誘いに全然のってくれない兄なのでした。