(どんなにうれしくても素直に返さないこと)
「好きです。僕と一緒に行きましょう」
私もずっと好きだった。今すぐに想いを打ち明けて真っ直ぐに飛び込んでいきたい。どうして素直になってはいけないのか。
(待ちなさい。辛抱なさい)
恋愛マスターが私の行動を制御している。彼女の言葉に従えば恋愛は正しく進み、誤ったルートは回避できるのだ。だけど、どうしてこんなにも苦しいの。
「ずっと好きでした」
その言葉にも瞳にも偽りはなさそうに思える。爆発しそうな答えを私は胸の内に引き留めている。まだなのだ。すぐに答えを出してはならないのだ。寝かせるのだ。耐えるのだ。3日間待たねばならないのだ。
「あなただけを愛します」
そう。私も。早く答えたい。近づきたい。そばに行って触れたい。好きなんだから。私の方こそもっと好きなんだから。
(待ちなさい。静観しなさい)
「あなただけを愛し続けます」
1日が過ぎ、2日が過ぎても、彼は少しも変わらない。
あと少し、あと少し、頑張って……。愛を信じて。
(約束の時間です。まもなく答えが出ます)
「誰か他にいるの?」
疑いの言葉を置いて彼は歩き始めた。
「行かないで!」
0時をまわったらすべて上手くいくから。答えられるのだから。
(待ちなさい! 追いかけないこと)
「待って! 私を置いて行かないで!」
(いいえ。彼を行かせるのです)
「好きです。ずっと好きでした」
逃げて行く好きが、もう一度聞こえた。
(ほらみなさい。彼はもうあっちの子にいったわ)
私だけを好きな時間は終わったのだ。
マスターの声に従って危険なルートは回避することができた。あまりに正しすぎて私は涙が止まらない。
(これでいいの。もっと辛い目にあうところでした)