電車が通過することだけを待つ時間。針の上を歩いて行く時間。勝ちを読み切ろうと前傾姿勢を取っている時間。それらは同じ時間だろうか? 1分ずつ正確に削り取られていく時間に、私はずっと追われている。詰めば終わりの世界を、私は生き延びるために必死だ。優勢にみえても未知の要素が消え去らない限り、恐怖もまたなくならない。それは欲望にも等しかった。守りたい。大事にしたい。生き延びたい。最善手は? 答えを探し始めた時から、時間は永遠に足りないものになった。どうでもよければ、きっと何も思わないのに。
自陣から敵陣、中盤から終盤、読み筋は幾重にも交錯して路上にまで広がる。スマホ男。暴走自転車。くわえ煙草男。野放しの猛獣。さまよえる詩人。悪徳警官。悪徳商法勧誘男。居眠り占い師。人食い植物。ポイ捨て男。路上の脅威に晒されて序盤にまで遡る。研究ノートの競合。5分前、5分前、5分前……。編集を継続しながら更新を維持することができない不具合によって、誤った結論が上書きされてしまう恐れ。検証は目先の利だけに囚われてはならない。すべての陣は寄せへとたどる運命にある。ワインの横にナイフ。月の横に美濃。神さまの横にチョコ。ルビーの横に消しゴム。コーヒーの横に馬。落ち葉の横に猫を……。何でもいいと君は言うかもしれないが、考えずにいられるものか。閃いたかと思った次の瞬間には闇に覆われる。広がった刹那、底にまで沈む。焦燥がかけたゼロと無限の橋の間に、私は郵便ポストのように立ち尽くしていた。
「戻りなさい。澄み切った部屋へ」
肩にとまった雀がささやく。一編の詩が繰り返しあなたを救うでしょう。
「ここは?」
「駒犬の間です」
私は盤上に復帰した。
「50秒……、55秒……、残り7分です」
「な、7分!」
「このまま続けますか?」
「2時間追加でお願いします」
私は正座になると一瞬の長考に入った。