眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

【コラム・エッセイ】金はあるほどよい?

2022-12-16 23:41:00 | 詰めチャレ反省記
 味方がボールを持てばフォローに行くのが当然だ。フォローは多いほどよい? フォローは近いほどよい? 実はそんなことはなく、時にはまるでフォローしない方がよい。例えば、三苫さんがドリブルで持ち上がった時は、下手に寄っていかない方がよい。そうすることで三苫さんの使うスペースが失われてしまうからだ。場合によっては離れていくような動きが正解となる。三苫さんが縦に突破して、クロスを上げられるというタイミングでゴール前に飛び込む。三苫さんが中に切れ込んで、シュートも打てるよというタイミングで裏に抜ける。そうした動きが有効になる。前線に数が集まるほど攻撃力は増すようだが、決してそんなことはない。むしろ味方同士が重なることによってスペースを潰し、上手く攻撃が機能しないことが多い。攻撃というのは、数と同様に効率がとても大事なのである。

 例えば、32竜と一間竜の王手に42桂と合駒された局面で、普通の数の攻めは41銀だろう。しかし、それには51玉! と銀の腹に逃げ込まれ、以下52香と追っても、61玉とするすると逃げられてしまう。その時に、注目すべきは41銀の存在(配置)であり、打った銀が陰になってそれ以上竜を活用することができない。言い換えるなら、手厚く行った41銀がむしろ邪魔をして、三苫さんがドリブルをするスペースを消してしまっているのだ。もしも、41の銀がいなければ……。その発想に思い至れば解決したも同然だ。似た王手でもあえて逆サイドから61銀! とただのところに打つのだ。同玉(または51玉 52香 61玉)ですぐに銀は消えてしまうが、それでいい。今度は銀のいないスペースに41竜と再度の一間竜を実現させて詰み筋に入る。物量に物を言わせるだけでは駄目で、効率を重視すべくあえてただのところに捨てた方が正解というのが、詰将棋の面白いところだ。

「やはり一間竜は偉大だ!」

 金はあるほどによい。そう思っている人は人生の学習が十分ではないと言えるだろう。多すぎてはスペースが失われてしまうことはもはや疑いようもなくなった。

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【コラム・エッセイ】コーヒーとキャッチ・ボール

2022-12-16 12:40:00 | フェイク・コラム
「店内で」

「テイクアウトで?」

「いいえ、店内で」

「店内で」

「ブレンド・コーヒー」

 ジャズが大きいせいもあって、上手く伝わらなかった。40分かけて歩いてきたのはここでコーヒーを飲むためだ。けれども、世界は思うほど自分のことを知らない。今日はファースト・コンタクトに失敗したと思った。
 コミュニケーションは常に難しい。
 自分から行きすぎず、聞かれたら答えるくらいがいいのかもしれない。
(はい、いいえ、コマンド式だ)

 一気に皆まで言うのが明快?
 礼儀正しい?
 逆に混乱することはない?

「こちらはFBIのジョーカーと申しますけど、昨年のクリスマスに桜川3丁目に訪れたサンタクロースが連れていたトナカイが所持する鞄の中からあなた宛の手紙が見つかり、切手から暗黒物質が検出されましたので、今から直接お会いしたいと思いまして、船場でコーヒーでもいかがですか?」

 次から次へあることないことを言って考える余地を埋めようとするのは、人騙しのやり口でもあるので気をつけておいた方がよい。

「いらっしゃいませ」

「文房具はありますか?」

「例えば何でしょう?」

「油性マーカー」

「はい。それでしたらあちらの方に」

 このように問題を少しずつゴールへ近づけていくという方が、明快であることも多いのではないか。
 最初の「文房具は」というのも、無駄と言えば無駄に当たる。但し、突然「油性マーカー」と切り出すことに多少のリスクがないわけではない。「油性マーカー」という言葉は、どれだけメジャーだろうか。日常的に馴染みがあるだろうか。「うぜいばーか」等のように間違って伝わってしまうリスクも決してゼロではない。
「文房具の油性マーカーはありますか」と言うのも普通と言えば普通かもしれないが、やや情報過多で重くも感じられる。油断している店員等に当たった場合は、受け止め切れない可能性も高い。
「文房具」から切り出して、キャッチ・ボールを始める。まずは肩慣らしというわけだ。相手がどういう球を投げてくるか。ちゃんと投げ返してきたら、改めて自分のリクエストを遠くへ飛ばす。一旦、「文房具」を通しておけば、「油性マーカー」はより確実に届くはずだ。一球一球確実に。最初は近く、軽く。そして、徐々に強く遠くへ。それがキャッチ・ボールの呼吸と言えるだろう。

 話を考えていた。
 神社で迷子になる話。犬がワンと鳴いてガンマンが腕を競う話。ラーメンが部屋中を埋めて困った人の話。色々と考えるが何もまとまらない。何が面白いのかわからなくなる。

 訪れたばかりの余裕。たっぷりのコーヒー。まだ温かい。適度な喧噪。いつまでも続かないことはわかっている。

 昨日のこと、いつかのこと、寝かせてある話、とってある話、とっておきの話、課題のテーマ。解決不可能な問題。今起きたこと、今思いついたこと。思いつくのはよいことのはずだけど……。
 今思うことを優先すると、過去がどんどん置き去りになっていく。過去にあるものを大事にしようとすると、今だけにある鮮度を捕らえるチャンスを手放さねばならない。
 掘り下げないと楽しめない。掘り下げすぎると時間が足りなくなる。いったいどこから始めればいいのか。

(とても手に負えない)

 あせる。
 あきらめる? 
 あがいてみる?

(放り投げてしまおうか?)

 突然、弱気になる。
 投げやりな気分になる。
 忘れた方が楽なのかもしれないと思う。

 今日だけでは足りない。今日をいくら寄せ集めたところで、やっぱり今日だけでは足りない。今日を追い越して行かなければ、明日には手が届かない。果たしてそれは可能か?

 表の看板が取り込まれ、加速をつけて片づけが進められていく。すっかり冷めてしまったコーヒー。口をつければ少し苦い。やっぱり、これもコーヒーだ。見渡せばまだ多くの人がくつろいでいるように見えるのに、本当に終わってしまうのだろうか。店員に接触してキャッチ・ボールを始める意欲は湧かなかった。
「21時までですか?」
「はい」
 平然と短く返ってくるか。
「21時までですか?」
「……」
 あるいは、申し訳なさげな顔の頷きが返ってくるくらいだろう。

 思いついたところから、いいと思ったところから、手をつけていくしかないのか。

(虚無よりはよほどいい)

 今日を生きた証明に僕はせめて日記を間に合わせたかった。
 時間が足りないのはかなしいことだけど、時間が足りないと思えることはうれしいことかもしれない。ひねり出した答えが、自身を少しだけ勇気づける。

「ごめんなさい」

 何も知らず今頃になって訪れた客に、店員が閉店時間を告げている。ああ、やっぱり終わりなんだな。間接的なキャッチ・ボールから結論を受け取ると僕は最後の一口を飲み切って pomera を閉じた。

「そうなんですね」

「はい。ごめんなさい」

「それは残念……」

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街中華の味方

2022-12-16 05:54:00 | ナノノベル
「お好きな席へどうぞ」

 言われる前におじいさんは席に着いてメニューを開いていた。カンカンと鍋が鳴る中で火をつけたショートホープをくゆらせると、たちまち煙は不愉快な輪となりカウンターに広がって、取り込み中の箸を拘束してしまう。餃子を食べる客の手が、チャンポンを食べる客の手が、冷やし中華を食べる客の手が、ニラレバ炒めを食べる客の手が、天津飯を食べる客の手が、フライ麺を食べる客の手が、すべて止まって、衰えをみせない煙は忌まわしい猫となって料理人の冠にとりついて右脳を支配し始めた。優雅にまわっていた鍋は完全に運動をやめて、じりじりとチャーハンが焦げ付いていく。ただ一人銀のリングを持つ男だけが煙の影響から逃れ、頃はよしと立ち上がった。

「街中華営業妨害の現行犯で逮捕する!」

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念仏は馬の耳に

2022-12-16 03:31:00 | ナノノベル
「馬が念仏を求めて来ております」
「馬が? どんな馬だ」
「追い返しますか?」
「いや。奇特な馬だ。少し聞かせてやれ」
「わかりました。では、私が」

チャカチャンチャンチャン♪

「和尚、また来ました」
「何また馬が来ただと?」
「追い返します」
「ばかもん! お前は気が短い」
「すみません。あの馬がうるさいもんで」
「聞かせてやれ」
「はあ」
「聞きたがってるんだろ。聞かせてやれよ」
「では私が」
「それも修行じゃ」

チャカチャンチャンチャン♪

「またあいつが来ました!」
「ほほ、よほどここが気に入ったようじゃ」
「追い返してきます」
「ばかもんめが! 来るもの拒まず」
「はい」
「修行が足りぬわ!」
「肝に銘じます」
「それにしても読めぬ時代だ」
「確かに」
「我々は動物園を回ることになるやも」
「はははっ」
「何をしておる。早く馬に聞かせてやれ」
「では私が」
「そうじゃ。お前以外に誰がおるか」

チャカチャンチャンチャン♪

「和尚、馬鹿馬が来ました! 追い返します!」
「ばかもん! いい加減に成長せい」
「すみません。つい馬が急かすもんで」
「念仏は馬の耳に。格言は進化しておるぞ」
「心得ました」
「それにしても、あの馬は何か悩んでおるのか」
「先日レースで優勝したとか」
「なんと! それは本当か?」
「なかなか成長しているようです」
「私も行くぞ!」
「では、私も」
「お布施をがっぽり弾んでもらうぞ!」
「はははっ」
「うっひっひっ」
「流石は和尚!」

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