眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

スマホ戦争

2022-12-20 21:51:00 | 夢追い
 前方不注意主義者のスマホ男が、道を完全に人任せにして歩いてくる。俯く姿勢から無言の圧力を発しながら、ゆっくりとこちらの方へ。わかってるな。お前が変えろよ。俺は今この手の中の方でいっぱいだから。俺の進路をちゃんと読んで、お前が変えろよ。忙しい俺を煩わせるなよ。男は一瞬も視線を上げようとはしない。

 力に屈した日のことを思い出す。口の中に手を突っ込まれて、歯を全部抜かれてしまいそうになった日。抗うことのできない力で頭を捕まれて床に押しつけられた手。力がそんなに偉いのか。より強い力の前には簡単に屈するくせに。僕は手の中に収まる光の中から復讐の方法を探している。思い出すと怒りが腹の底からこみ上げてきて、すっかり見えなくなった。生憎夢中なのは、あんただけじゃないんだよ。僕の方が、ずっとずっと夢中なのだ。この街は命知らずな奴ばかりだ。全く酷い世の中になってしまった。スマホ男接近中。衝突はもはや避けられない。


 目から鱗が落ちたら女神さまに引き上げられてしまうから、何にも動じないように目を伏せて、余計なものを見ないようにして過ごしてきた。だけど、状況によって方法は変えなければならない。

「あいつら、教師を味方につけて俺たちを取り込むつもりらしいぜ」

 内に閉じていては僕の立場はどんどん弱くなるはずだ。ここらではっきりさせておかねば。僕は単身適地に乗り込んで相手を挑発した。

「おーい! 自分らが一番と思うなよ!」

「何だ転校生が!」

 挑発に乗って彼らはこちらの陣に入ってきた。9VS9だ! 彼らは皆手にスティックなようなものを持っていて、それは完全に想定外だった。(サッカー部じゃないのか)競り合いの後ろから飛び出すと僕は笹の葉の塊を奪った。引き技でかわすと1つのゴールであるコーナーへ向かった。フットサルで培った経験は十分に通用した。笹の葉を晒し、浮かして、敵を攪乱した。何度かコーナーをはみ出たところで審判が駆けてきた。

「まあ1点は認めよう」

 同時に注意も与えられた。なめたり出過ぎた真似は慎むように。僕のゴールによって僕らは勝利を手にした。自ら呼び込んだ戦いに勝って、僕はヒーローになったのだ。大丈夫。僕はここで生きられる。

「さあ、皆で笹の葉を回収して。お祈りの時間だ」

 人はどうして近道をしたがるのだろう。見えないところから突然現れる自転車に何度もぶつかりそうになる。はっとする顔。驚くのはこっちだというのに。砂利道を歩いている。川沿いを行く内にいつの間にか神社の中に入り込んでいた。人波に押し出されて戻れない。逆らえない流れに乗ってお参り。賽銭がまだのようです。お金なんて持ってない。スマホだけがすべてなのだ。
「あの男だ。逃げるぞ! お祈り泥棒!」


「気分はどう?」

「もう昼なのですか」

 記憶がまだ混乱していた。僕は死んだのか?

「大丈夫よ」

「ここは?」

「雲の上の家。ここだけが安全な場所」

「ここだけ?」

「そう。あの衝突で地球は滅んでしまったわ」

 窓の向こうに家が見えた。白と黒の家だ。

「絵に興味があるのね」

「絵とは」

「あの向こうには何もないの」

「そんなことは……」

 窓の外から光が射し込んでいる。

「私が引き上げてあげたの。安心して。ずっとここにいればいいわ」

 女は何か隠し事をしているに違いない。どうして僕が助かるのだ。風が吹いた。部屋の中の観葉植物が微かに揺れる。

「やっぱり」

「そういう絵なの」

 僕を騙してこの部屋の中に閉じ込めようとしているのかもしれない。光の角度が変わり、影が深く部屋の中に伸びた。白と黒の家の窓が開き、中から細い手がのぞく。

(助けて!)

「行かなきゃ」

「行っては駄目」

 思い出した。女は小学2年生の時の担任の先生ではないか。髪の色が違うのでわからなかった。

「ありがとう。助けてくれて」

 先生に別れを告げて窓から飛び出す。

「あなたが間違ってる。宇宙は内側にのみ存在するのよ」

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

家庭訪問美術館

2022-12-20 02:19:00 | ナノノベル
「繰り返し問題が起きたため50年先のnoteを表示しています」
 サイトに生じた度重なる問題のために先が見えた。
 未来の私は小説から離れてパラパラ漫画を熱心に描いている。新しい知らせが届く。ベルをタップすると問題が起きた。
 もう一度タップ。
 画面が真っ白になってサイトがリロードされる。
 私は次の漫画を投稿しようとしていた。熟成下書きのお題が受け付けられない。
「まだ熟成されていません」
 フォトギャラリーがクラッシュして、部屋の明かりが消えた。窓がガタガタと震えている。私の体が何にも触れられずに持ち上がった。
(運ばれる)
 私は美術館の中を歩いていた。
 順路を示す矢印がかすれてよく見えなかった。誰の足音も聞こえない。
 立ち止まったのは、虎の絵の前だった。

「子の虎をここから出してください」
 絵の中の虎が口を開いた。テクノロジーを使えば、出すというのは難しいことではない。問題は倫理の方だった。
「外の世界を見せてあげたいの」
 子を思う親虎の主張はわからなくもない。
「出すのはいいけど、そのあとは……」
 計画性があるようにはみえなかった。
「私のようになってほしくないの」
「癒しを与えてるじゃないですか。みんないいと言ってますよ」
 親虎は自分たちのことを、どれほどわかっているのだろうか。
「この額縁の中では成長できないのです」
「世間がどんなとこかわかっているのですか?」
「いいえ。でもここよりわるくはないはず」
「どうしてそう思うのです?」
 親虎は答えなかった。

「期待だけでは上手くはいきませんよ」
 子虎はまだ一切口を開いていなかった。
「あなたはここに居続けたことがないからよ」
 親虎はつぶやくように言ってから目を逸らした。
「いなくなったとわかったらきっと問題になる。僕だってその時はどうなるかわからないんだ」
「どうせ手を貸す気なんてないのでしょう」
「決めつけないでくれ!」
 親虎の姿勢に少し腹が立った。

「みんな通り過ぎるだけなんだから……」
「また来週会いに来ます」
「もう結構よ」
「あなたにじゃない」
 子虎はじっと私の方をみつめていた。
 今度は君の声が聞きたい。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

モーニング・サービス

2022-12-20 01:21:00 | 夢追い
 宿題をすべて片づけて、安心して眠りたいと思う。けれども、片づいたと思ったら現れる。片づけるほどに散らかっていく。根本的には、何が宿題なのかがわかっていない。問題がわからないのだから、解決困難だ。物心ついてから、ずっと仮眠しか取れていないように思える。本当に安らかに眠れるのは、死んだ後かもしれない。眠りと死は、似ているようで真逆だとも思う。決して死を望んでいるわけでもないし、憧れるものでもない。死は生きているものにとって、あまりにも未知だ。


 自転車を置くスペースがないと到着してから気がついた。細い道で人とすれ違うのに時間を取られすぎた。発車の時刻まであと5分しかなかった。さよならを言ったのだ。今更戻るわけにはいかない。落ち着け。自転車は案外小さくて軽いじゃないか。ポケットに入るじゃないか。ぱっと開けた空もすぐに曇る。ポケットに入るのは鍵の方だった。駐車場の隅に置く? タクシーがバックしてきて押しつぶされる。定食屋の前に置く? メニューの書かれた看板の邪魔になり撤去される。無惨なイメージばかりが湧いては消えた。

「駐輪か?」
 突然、くわえ煙草の男が声をかけた。ずっとこちらの様子を観察していたのだろうか。

「あるで」
 思わぬ助け船だろうか。

「西の方や。あるいはもっと東か。九州か東京の方やな」

 聞くだけ無駄だった。僕はふっと笑うしかなかった。もう時間がない! その時はその時だ。歩道の端、ガードレールに押しつけるように自転車を置いた。自転車の運命よりも自分の旅を選んだのだ。鍵をポケットに入れて走り出した。

「悪くない」
 煙草の男が僕の選択を支持した。

「ありがとう!」
 改札を飛び越えて階段を駆け上がる。2番ホームへ渡るとベルの鳴り響く列車に飛び乗った。

「切符をください!」
 ちょうど乗り込んだ車両に車掌が歩いてきた。

「どちらまで?」
「東京まで。朝食付きで」
「かしこまりました」

 車掌がポーチの奥に手を入れて切符の準備する間に、僕は呼吸を整えた。扉が閉まる。ゆっくりと列車が動き出す。

「やっぱり朝食は明日で」
 家で食べてきたことを思い出した。

「ああ、やっぱり今日だけの切符で。朝食はなしで」
 色々と慌てたせいで頭の中が少し混乱していた。車掌は黙々と切符を作る作業に集中していた。

「Jカードをお持ちですか?」
「はい」
 僕は財布の中からゴールドJカードを差し出した。

「朝食もお付けしましょう」
 特別なサービスなのか、既にできてしまったからそうしたのかはわからなかった。少し気持ちが高揚していた。走ったせいで少しお腹も空いてきた。サンドウィッチくらいなら。僕は甘えることにした。

「ありがとうございます!」
 新しい扉が開きそうな予感がした。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする