眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

アウトサイド・レストラン(キツネ・ドリーム)

2022-12-30 21:38:00 | 夢の語り手
 よい時には何も考えずに決めることができた。カレーライス? オムライス? 何でもこい! あふれ出るケチャップのように、とめどなくゴールを量産することができた。夢を見ている時でさえ、寝返りとともに反転してゴールすることができた。例えばこんな夢を見ている最中にも……。

 くわえ煙草のキツネが吐いたため息に巻かれて、僕はグランドにいた。キツネ色の友情とキツネ目の少年が交錯している間に、ボールは冬の夜のキツネのようにグラブを通過した。落球かと思えた瞬間、スローモーションとなってボールを回収する。キツネの先生と師匠が集まっておやつを食べるけれど、キツネ腹を責めるには理由が欠けている。ランナーはセカンドベースを回ったところでアウトとなる。流石はウッチーだ。レフトに飛んできませんように。平凡な外野フライを捕球できない自信があった。サードを強襲した打球が高く跳ね上がってキツネ・フライのようになって飛んできた。追いかけている内にショートの青年とぶつかってそのまま一心同体となってしまう。本を運ぶ書店員を呼び止めて頼む。台車で割って入って2人をキツネ分解してほしいのだ。これは行き先被りの呪い。

「あっ、離れた! 逃げろ!」

 キツネ返しに叫ぶ。
 階段の上でトモミは物まねをしてキツネ式に人を集めていた。外国人ピッチャーが片言の日本語でキツネ早に質問をあびせてバッターを打ち取る場面は、後ろから本人が現れて爆笑となった。やっぱりキツネ世界では才能がある。帽子を取ったトモミはキツネの芸術家のように見えた。

「ブルーのリクエストはすぐに取ってください」
 アナウンスがキツネ的に階段を流れる。何もできない間にブラウンのリクエストに切り替わっている。ログイン不可。単にマップが拡大されるだけ、これではキツネのお礼参りだ。
 タワマンよりも高く飛んでいたはずだったが、いつの間にか私語が聞こえるほどに僕の浮遊高度は下がっていた。体力が追いついていかないのだ。キツネの影が壁に現れて影踏みをしている。キツネパンチ、キツネキック、キツネスマッシュ! 校舎に入って部員の助けを求めるが認証には遠い。13時30分。教室には戻らない。途中から来る者がいれば、途中で帰る者がいてもいい。キツネがラッパ飲みしても何も問題はない。

「後悔してない?」
 持ち出したせいでこうなったこと。
「いや。何もしなくてもつつく奴はいる。痛みも必要な経験かもしれないし」

 CDジャケットが晒されている。向上中のプレイヤーが発表される。いつになっても僕の名は挙がらない。革靴に顔を埋めて時が過ぎ去るのを待つしかなかった。夕暮れはキツネを分散させる時間だ。真相が闇に隠れ込む企みを、生真面目な初恋はキツネ地蔵をジグソーパズルに落とし込み、霧雨のキツネがキツネ耳を立てながらキツネ方程式を選考の手段に当てようとしていた。
 
 寝転がりながら闇雲に振った足が攻撃を跳ね返す。そればかりかシュートとなって敵に脅威を与えさえした。もしやと光が見えれば活発になれる時がある。バスが路線を行く。戎町、戎宮町。その間は目と鼻の先。ここぞばかりに力を込めてシュートを放つ。柔い時だけに牙を剥くのだ。
 ピンボールサッカーの終わり、個々のエアコンのフィルターを訪ねてまわる。エースのフィルターの中には箱があり、中を見るとチョコとスティックシュガーが詰まっている。ストイックさにかけてはキツネ仕込みといっても過言ではない。


「何だ今の?」

 自分でも自分の選択を理解できない。基本に忠実にやれば難なく枠に入れることができただろう。なぜ? 今、アウトサイドだったのか……。それしかないという場合、それでなければならないという場面がある。ただ、今ではなかった。よい時には、どこに当たっていても入る。自分の意図に関係なく決まるのだ。悪い時には、何をやっても裏目に出る。そして、それは自分では選べないのだ。
 シュートはゴール・マウスを外れて火星にまで打ち上がった。虚しいばかりの残像を、僕は昨日の夢のように追い続けていた。

「何しましょう?」
 見知らぬ女が、問いかけている。
 決められないよ。
 今日は何も決まらないのだ。

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ロング・ファイト(2000ラウンド)

2022-12-30 20:58:00 | ナノノベル
 ノックアウトの予感を越えて、私は50ラウンドのリングに立っている。激しいパンチを交えながら、試合の中でさえも成長する。私は自分ののびしろに驚かされる。そんな私を前にガードを固め、フットワークを駆使しながら向かってくる相手も大したものだ。倒れない限り、ファイトは続く。ゴングとゴングの間に注がれるお湯。一息つく間、私は青コーナーでたぬきを食べた。ちょうどいい補給。そして、また立ち上がる。

 眠っているのか。100ラウンド辺りの私は半分夢の中にいるようだった。ダメージはかなり蓄積されている。時に相手のパンチがスローモーションのように見える。私は余裕で避けてカウンターを繰り出す。しかし、ダメージは与えられない。時は巡り、相手は赤コーナーできつねを食べている。向こうの方も美味そうだ。七味を注ぐ余裕も見えた。

 魔の時間帯を越えた。150ラウンドにさしかかるとパンチの質に明らかな変化が見てとれた。もう風を切るような鋭さはない。私たちのパンチは、互いに傷つけ合うことはなく、むしろ励まし合っていた。よくやったね。よくきたね。痛くないね。何ともないね。鈍くなったね。流石にね。もういいね。あと少しね。

 まだまだやれる。180ラウンドに入って少し手数は減ったものの、足腰に限界は見えなかった。それでも、私たちはもう決めていた。
 軽くグローブを合わせると次の瞬間、審判に話を持ちかけた。

「少し休みたい」
 先は長い。決着をつけるのは今ではないと共感したのだ。

「これより冬休みに入ります!」
 審判の宣言に客席からは盛大な拍手が沸き起こり、いつまでも終わりなく続いた。
 再開のゴングは今から3週間後だ。

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プライド旋回

2022-12-30 19:29:00 | ナノノベル
「リクエストを申請して着陸許可を待て」
「こちら機長。飯の友は辛子明太子。リクエストが通り次第着陸態勢に入る」
 551機の機長は迷わず晩ご飯の飯の友申請を終えた。既に空腹のピークを過ぎて半ば痛いほどだった。しかし、フライトは最後の最後まで気を抜くことが許されない。それは誰よりも機長自身が知っておかねばならぬことだった。

「こちら管制塔。申請中の辛子明太子は売り切れ。繰り返す。辛子明太子は売り切れ。リクエストを却下する。至急代案を立て再度申請せよ」
 機長は操縦桿を持ったまま顔をしかめた。

「却下は認められない。飯の友は辛子明太子。代案はない。以上」
「こちら管制塔。状況を報告せよ。こちら申請待ち」
「こちら機長。既に申請済み。対処願う。以上」
「こちら管制塔。辛子明太子は現在売り切れ。繰り返す。辛子明太子は現在売り切れ。代案リクエストを検討せよ」
「こちら機長。飯の友は辛子明太子。リクエストが通り次第着陸態勢に入る。繰り返す。飯の友は辛子明太子。入手ルートの開拓を検討せよ」
 緊張のやりとりが続く。互いの主張は平行線のままだ。速やかな解決が求められる。

「こちら管制塔。飯の友に関してコントロールできる範囲で緊急提案がまとまった。以下の提案を検討せよ。明石海苔、紀州梅干、シーチキンファンシー等を取り揃えて機長の飯の友とする。速やかに提案を快諾して着陸態勢に入れ」
「こちら機長。飯の友は辛子明太子。リクエストが通り次第着陸態勢に入る。繰り返す。飯の友は辛子明太子。それ以外の提案は受け付けない。以上」
 機長の断固とした態度。そこにあるのは20時間分もの思い。操縦桿を握り重大な責任を果たす者としてのプライドがあった。それは常人には理解されないであろう高い高いプライドだ。

「こちら管制塔。明石海苔、紀州梅干、シーチキンファンシー他を取り揃えた飯の友の配置が完了した。機長の柔軟な思考と名誉ある決断を願う」


「ご案内申し上げます。ただいまエンジン系統のトラブルにより当機は着陸を見合わせております。お急ぎのところ誠に恐れ入ります」

「機長! 乗客がざわつき始めています。これ以上は無理では……」

「くそーっ! 下界の奴らめ! 私の空腹も限界だぞ」

「こちら管制塔。応答せよ。551便応答せよ」

「こちら機長。リクエストを繰り返す。飯の友は辛子明太子。リクエストを繰り返す。飯の友は辛子明太子……」

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