「鉛筆ならいいのか?」
「駄目だ」
「マドラーなら?」
「観念しろ」
「火ついてるか?」
「現行犯だ。わかってるな」
くわえ煙草の詩人が容赦なく拘束される。くわえた先の煙からどのような詩情があふれたのか。それが街の空気をどのようなものに変えるのか。何もわかっちゃいない。手錠をかけられ引きずられていく日常の光景。助けたい。だけど、仲間でもないので助ける理由がない。ちょっとした仕草で簡単に自由がなくなる。この街はどうかしている。
少しだけずれているマッチング・アプリ。いつも半分は壊れていて、アップデートの度にエラーが出る。ミネストローネはいいものだ。しゃきしゃき玉葱と豚バラ肉のコンソメスープも素晴らしいだろう。だけど、求めるものとは少し違う。体内に留まる時間が、ほんの少し短いのだ。ポタージュスープだけが、冷え切った体を温めることができる。
「への字じゃないか!」
コの字型を求めてようやく心地よい場所を見つけたと思ったのは、完全な思い違いだった。私はカウンターを叩きつけて店を飛び出した。心を洗いたい。取り戻したい。
「館内での撮影は一切お断りさせていただきます。なお、万一撮影行為が認められた場合、見つけ次第強制撤去とさせていただきます。以下、予めお断りしておきます。この映画には、暴力、肌の露出、喫煙、飲酒、殺人、ドラッグ、二重人格、遠距離恋愛、逮捕、脱獄、回想、記憶喪失、離婚、愛人の裏切り、左利き、生き別れ、囲碁将棋、替え玉対局、双子のトリック、タイムスリップ、夢オチ等の表現が含まれます。これらは……」
「楽しみを奪うのか!」
「後で厄介なことにならないように予め……」
「わかったことを言うな! 皆さんもそう思うでしょう?」
私は壇上に上がって訴えた。
「嫌なら帰れ!」
「帰れ、帰れ!」
「どうして誰もわからないんだ!」
私はビール瓶で劇場支配人を殴りつけた。彼は頭から血を流しながら、その場に崩れ落ちた。
「兄さん?」
「お前。本当に馬鹿だな……」
「兄さんかい?」
「動くな!」
いつの間にか舞台には警官隊が上がり、私を取り囲んでいた。私は両手を大きく広げて無実を訴えた。違う。人違いなんだ。その瞬間、肩に銃弾を受けた。痛みはまだ襲ってこない。
「違う! 何も撮ってない!」