照る日曇る日 第1081回
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プロバンス地方の荒廃の山野に、毎年倦まずたゆまず3万個のドングリの実を植え続け、ついに豊穣なる緑の王国に変えてしまったつましい農夫の「奇跡」の物語です。
どうやら著者のジオノの父親がモデルになっているようですが、この物語の主人公のエルゼアール・ブフィエは実在しなかった。
しかし実在しなかったにもかかわらず、それは実在の人物以上の存在感で読む者の心に迫ってきて、1人のブフィエは実在しなくても、まったく同じようなことをする何百、何千、何万のブフィエの分身が、フランスのみならず全世界に存在し、いまも活躍し続けているような気がしてくる。
そしてどこかにたった一人のブフィエさんが存在しているのなら、この虚飾に満ちた世界も存在する意味がある、と思わせてくれる、そんな不可思議な感慨に襲われる小さな、小さな1冊の本です。
最近はトンビをとんと見なくなったかの憎っくき台湾リスにやられたか 蝶人