ナスの煮浸しの上に、すりおろした新生姜をたっぷりのせて、飾り切りの向きにそって実を分ける。それでもなかなか小さくならないので、ナスの方に顔を近づけて食べながら妻に、今日あった不思議なワゴン販売の店の話をした。
「すごい、欲しいものが目の前に現れるんだ。」
「いや、まあそうなんだけど、それがタダで手に入るというわけではないから微妙だよね。だから、これがすごいことなのかどうかは僕にはわからないよ。もちろん、これがタダだったら、君がアプリで連絡してくれたらなんでも手に入るから、ばんばんしてくれたらいいんだけど。」
「例えば、車とか?」
「どうしていきなりそんな話になるの?だいたい、駅のコンコースからどうやって車を出したらいいの。というか、どうやってワゴン販売できるの?まあ、子供のお土産用のミニカーならありかもしれないけど。」
これまた、すりおろした生姜をたっぷりのせた冷奴をつまみにすると、ビールが余計に美味く感じる。
「そうね、じゃあ、なにがいいだろう」
「そんなに大きなものでなくて、でもどうしても欲しいもの、とかが出てくるんじゃない?」
「ディオールのファンデーションとか。」
「だからタダじゃないんだよ。新生姜だって三百円したし、油揚げも二百円。ビールもコンビニで買うのと同じような値段だったから。ダイヤの指輪のワゴンが出現しても、僕にはとうてい買えないから意味がない。」
「なんだ、つまらない。でもいいわ、また何か必要なものがあったらアプリで連絡するね。でも、健ちゃんに食事のお買い物させるなんて申し訳ないから、なるべくそんなことにはならないようにするわ。」
「それにしても、エキナカには色々な店がどんどんできているよね。前はキオスクとせいぜい本屋ぐらいだったのに、もう、商店街が入り込んでいる。というか元々あった商店街は気の毒なぐらいだね。」
少し冷ました油揚げと豆腐の味噌汁を飲みながら妻に話すと。
「そうよね、なんでもあるわよね。化粧品だって安いのだったらいくらでもあるし。そのうち空港とかのショップと同じようになるんじゃない?」
「もう、それに近いのはあるよ。外国人観光客相手っぽいお店をこの間見たよ。」
「そうよね、これだけ外国からの人が増えたら、それで十分よね。」
と、話は他の方にいってしまい、その不思議というか偶然のアプリでの連絡の話はいつの間にか終わってしまった。
次にそのワゴンが出現したのは、エキナカで生姜と油揚げとビールを買った3ヶ月後のことだった。
『ワンコたちのオヤツがないの、どこかで買ってきてくれない?』
そんな連絡が妻から入ってきた。
犬のエサは、いつもネットで買うのだけど、オヤツはスーパーに行った時についでに買う。
明日は犬たちに留守番をさせて朝から出かけるので、オヤツをコングの中に詰めて遊ばせておかなくてはいけない。その中につめるためのオヤツがないということで、これは大変だ。
「弱ったな、犬のオヤツだなんて・・・。これから帰って、10時か。駅前のスーパーはまだ開いているかな。それとも、ここで一旦(駅の)外に出て売っているお店を探そうか。」
帰宅を急ぐ人たちが横を通り過ぎていく中、しばし立ち止まって考えながら歩いていたら、ちょっと先に犬用のオヤツを売っているワゴンがあった。
「犬の・・・オヤツ」
ラインで妻からの連絡を受けたら、偶然にもその商品を売っているワゴンが出現したなんてことを忘れかけ始めていたところだった。その偶然に改めて驚いた。
ただ、ワゴンに乗っていた「犬のおやつ」はやっぱり無料で配っているのではなかった。それも、近所のスーパーで売っているような一袋450円なんてものではなく、”添加物一切なし、ヴィーガンドッグも大喜びのベジタブルスナック”とかで、一袋(200g)1200円もする。その横に置いてある、”馬のアキレス腱”1本1000円というのも、美味しそうだけど私たちが出かけてものの5分で食べ終わってしまうことを考えると、やはりヴィーガンドッグ向けのベジタブルスナック、ポテトサラダ味、を一袋だけ買った。
間違えて、食べちゃいそう
お願いします