秋の病理学会に参加した(2日目だけ)。
委員会の会合があったので、行ったようなものだったのだが、昼休みの開催だったので、ついでに前後のA演説とシンポジウムを聴講した。
2日目のシンポジウムのテーマは「分子標的治療時代における病理診断の対応」
個別医療化が鮮明となり、病理もその診断に無縁ではいられなくなってきた。
これに、TPPがかかわる。
「これまでは研究レベルだったけど、これからは診療」
これまでの病理診断は、”腫瘍がみつかり、手術で切除”
これを病理医が診断する。
この腫瘍は良性か悪性か。悪性腫瘍としてどのような性格のものか?すごく悪いのか、ちょっとだけ悪いのか。追加の治療が必要かどうか、などをこの辺りの情報で決定していた。
ところが、免疫染色を応用した遺伝子診断が重要な役割を担うようになってきた。
この腫瘍はどんな腫瘍か?というのを遺伝子レベルで診断するようになる。
そして、その遺伝子に特異的な治療を行う・・・分子標的治療。
効果のない分子標的治療を行うことを避けるには、これを確実に診断しなくてはいけない。
さて、ここまでは、病理医の仕事が増える、ということなのだが、TPPが導入されたらどうなるか。
腫瘍の遺伝子診断がすべての人に行えるか?ということになる。
遺伝子診断のほとんどは研究レベルで行われてきたが、今後は定められたキットを使ったきちんとした診療行為となる。
TPPに参加したら、『これは研究です』といっては特許をたくさん取っているアメリカは黙っている訳が無い。
これまで特許を無視しての行為も鷹揚に見逃してきたアメリカが、これからは外国からもきちんととろう、と、アメリカの真意はこういうことかもしれない。
さて、その正式な診断には数十万のお金が必要になる。お金に余裕のある人は自分の腫瘍の質的診断に加え、遺伝子診断を行い、より適切な治療を行うことができるようになる。不要な治療も減って、副作用も最小限に食い止めることができる。だが、このような検査を行うことができない人は、質的診断まではこれまでの公的保険で行うことができるが、遺伝子診断は・・・?
混合診療の問題は病理診断の領域にも及んでいるということだ。
世間ではTPPに関する議論がかまびすしいが、私たち病理医もどういうスタンスをとっていくべきか。一人一人、しっかり考えなければいけない。
”症例集めのための、善意の診断”というのは難しくなるに違いない。