(第9話からの続き)
すべてのワゴン販売が駅ナカから消えたというわけではなかった。「献立アプリ」で”連絡を取りさえすれば”出現してた、私と妻にとって”便利な”というか”使い勝手の良かった”ワゴンだけが消えただけだった。というのも、もともと常設店のような感じで店を開いていたカバン屋とか本屋、アクセサリー屋のワゴンは、事件後の現場検証が終わった前後からまた店を開いていたからだ。ではなぜ、食材(およびペットの餌)の店だけが消えたのだろうか。
あの店は、なにか特別な店だったのか。もちろん、いつもいつも都合よくわが家の食材を準備してくれていたのだから特別に決まっているのだが、では、どうしてそんな特別なことができたのか。
私たち夫婦の少なくともどちらかが食べたいと思ったものを予測することなどはたして可能なのだろうか。それにペットの餌。そもそも私たちがペットを飼っていることなどどうしてわかるのだろうか。疑問は大きくなるばかりで、いっこうに答えらしきものは見つからない。
でも、あのワゴンが、私たちの夕食のことを知った上で用意されていた、すなわちもう、私がキムチを買うとわかっていて、その私を待ち受けていたとすれば答えは簡単だ。
あの日の晩にキムチを食べる予定だった人が居合わせていたのだとしたら、そのことが証明される。そうだ、あの場所にいた人に、その日の晩のメニューを聞けばその謎が解けるかもしれない。
私は、警察の事情聴取を待つ間、何かあった時のためにと連絡先を知らせ合った何人かの人に連絡を取ることにした。しかし、6人の人と連絡先を知らせ合っていたのだが、その誰とも連絡を取ることができなかった。
一体どういうことか。メールアドレスと、電話番号を交換していたのだが、そのいずれもが3日経っても通じない。警察に被害者の方と連絡を取りたいと言ったのだが、個人情報だからそんなことは無理だと、けんもほろろに断られてしまった。
SNSを使って、それなりに呼びかけてもみたが、上手くいかなかった。もちろん、みんな犯罪被害者な訳だからそんなに簡単に返事をしてくることなどない。1ヶ月ほどあれこれやってみたが、誰からも返事はなかった。
どこへ?
第11話に続く