公立小学校教員 「超勤訴訟」を考える② 支援事務局の思い 労働基準法での勝負でつながりたい 教員の働き方 変える希望
埼玉県公立小学校教員の田中まさおさん(仮名)の超勤訴訟を支える事務局メンバーのうち、2人に思いを聞きました。(堤由紀子)
労働基準法での勝負でつながりたい
大学院生 佐野良介さん(24)
田中まさおさんとの出会いは2019年3月、埼玉大学でのイベントでした。その前年にできた教員を助ける団体「TeaCher Aide(ティーチャーエイド)」と出合い、教員をめざす学生や、高橋哲先生とも、奇跡のように集った。そこからの関わりです。相手を尊重して意見を言う対等平等の関係。共同するってこういうことなんだと感じています。
「怒り」の理由
あえて「画期的な判決」と“旗出し”したのは、「不当判決」と出してしまうと、意味のない裁判にされてしまうからです。なのに「不当判決」という報道が一人歩きしています。
判決を聞いた時、やはり最初はぼーっとしてしまいました。現状のまま変わらないと思う自分と、変えなきゃという2人の自分がいる。でも、ここであきらめたら、かけがえのない教員として頑張ろうとしている友達の思いが消えてしまう。その思いを知ってしまったことが、ある種のハングリーさにつながっているかもしれません。
怒りがあるというのは、まだ自分がこうありたいと思える状態です。そんな中で、声を出せない人の声をどう伝えるか。抜け落ちてしまう声もたくさんあります。
でも、「先生たちも声あげろよ」というのには反対します。“弱者”に声をあげうというのには、強者がどこまでも権力をふるっている形になるし、そういうことを求める自分たちが権力をもっていることになります。それが大嫌いなんです。
学生を媒介に
学生は、社会と教員の間に立つ媒介みたいな役割ができると思うんです。できないことの方が多いし、お金持っているわけでもない。ほぼ無力かもしれないけれど、1%ぐらいはできることがあるんじゃないかと。
公立学校教員の給与を定める「給特法」の是非を前面に出すと、せっかくつながれる人たちの中で分断が生まれないか心配です。そうではなくて「あくまでも労働基準法で勝負しているんだよ」と伝えて、つながりたいです。
判決後、「教員の働き方改革へ前進!」と掲げる五十嵐さん(右端)と、「画期的な判決」と掲げる佐野さん(右から3人目)=10月1日、さいたま地裁前(佐野さん提供)
教員の働き方 変える希望
大学生 五十嵐 悠真さん(22)
高校生の時、過労死の労災認定を求める裁判の傍聴に行きました。そこでのご遺族の表情が忘れられず、労災認定を求める裁判や、国や自治体を訴えるという労力のかかる構造に、問題を感じていました。
その後、Teacher Aideの活動の中で裁判を知り、支援事務局を立ち上げるという連絡を聞き、支援に関わろうと思いました。裁判の傍聴に行き、そこで田中先生にお会いしました。
悩ませる原因
若者の進路選択は基本的に18歳とか22歳の時。その時に知っている職業から選ぶとなると、全員が知っているのが教員。それなのに採用倍率が低くなっているのは、かなり不自然です。教員になるかどうか悩ませる原因として、労働問題があると思います。
僕たちが支えているという感覚ではなくて、むしろ田中先生が裁判を通じて「教員の働き方は変えられる」という希望をかなえるチャンスをくれた。感謝しかありません。
教員をめざす学生自身が思いを発信するのは、本当に難しいんです。裁判は起こせないし、署名活動といっても、教員になりたい人ほどめちゃめちゃ勉強していて忙しい。教員採用試験の倍率が低いと騒がれますが、たとえ1・1倍でも自分が落ちるかもしれないと必死です。いい教員になるための勉強もです。
前向きの判決
「不当判決」という報道で、絶望を感じた教員が多くいます。でも一番伝えたいのは、今まで認められなかった時間外労働が労働時間として認められた、本当に前向きで希望ある判決だということです。署名も4万4000筆ほど集まっています。行政府にも働きかけながら「おかしい」という声をもっと広げて、裁判官も認めざるを得ないような世論形成ができれば、大きく変わる可能性があります。
田中先生はお金がほしいわけじゃありません。労働時間を認めてもらうには裁判しかなかったし、若い世代のためにたたかっている。僕もこんな60歳になりたいです。
「しんぶん赤旗」日刊紙 2021年12月18日付掲載
教員を目指している学生や大学院生が、教員の働き方やまともな労働条件を確立していくことに関わるって素敵です。
若者の進路選択は基本的に18歳とか22歳の時。その時に知っている職業から選ぶとなると、全員が知っているのが教員。それなのに採用倍率が低くなっているのは、かなり不自然です。教員になるかどうか悩ませる原因として、労働問題がある。
埼玉県公立小学校教員の田中まさおさん(仮名)の超勤訴訟を支える事務局メンバーのうち、2人に思いを聞きました。(堤由紀子)
労働基準法での勝負でつながりたい
大学院生 佐野良介さん(24)
田中まさおさんとの出会いは2019年3月、埼玉大学でのイベントでした。その前年にできた教員を助ける団体「TeaCher Aide(ティーチャーエイド)」と出合い、教員をめざす学生や、高橋哲先生とも、奇跡のように集った。そこからの関わりです。相手を尊重して意見を言う対等平等の関係。共同するってこういうことなんだと感じています。
「怒り」の理由
あえて「画期的な判決」と“旗出し”したのは、「不当判決」と出してしまうと、意味のない裁判にされてしまうからです。なのに「不当判決」という報道が一人歩きしています。
判決を聞いた時、やはり最初はぼーっとしてしまいました。現状のまま変わらないと思う自分と、変えなきゃという2人の自分がいる。でも、ここであきらめたら、かけがえのない教員として頑張ろうとしている友達の思いが消えてしまう。その思いを知ってしまったことが、ある種のハングリーさにつながっているかもしれません。
怒りがあるというのは、まだ自分がこうありたいと思える状態です。そんな中で、声を出せない人の声をどう伝えるか。抜け落ちてしまう声もたくさんあります。
でも、「先生たちも声あげろよ」というのには反対します。“弱者”に声をあげうというのには、強者がどこまでも権力をふるっている形になるし、そういうことを求める自分たちが権力をもっていることになります。それが大嫌いなんです。
学生を媒介に
学生は、社会と教員の間に立つ媒介みたいな役割ができると思うんです。できないことの方が多いし、お金持っているわけでもない。ほぼ無力かもしれないけれど、1%ぐらいはできることがあるんじゃないかと。
公立学校教員の給与を定める「給特法」の是非を前面に出すと、せっかくつながれる人たちの中で分断が生まれないか心配です。そうではなくて「あくまでも労働基準法で勝負しているんだよ」と伝えて、つながりたいです。
判決後、「教員の働き方改革へ前進!」と掲げる五十嵐さん(右端)と、「画期的な判決」と掲げる佐野さん(右から3人目)=10月1日、さいたま地裁前(佐野さん提供)
教員の働き方 変える希望
大学生 五十嵐 悠真さん(22)
高校生の時、過労死の労災認定を求める裁判の傍聴に行きました。そこでのご遺族の表情が忘れられず、労災認定を求める裁判や、国や自治体を訴えるという労力のかかる構造に、問題を感じていました。
その後、Teacher Aideの活動の中で裁判を知り、支援事務局を立ち上げるという連絡を聞き、支援に関わろうと思いました。裁判の傍聴に行き、そこで田中先生にお会いしました。
悩ませる原因
若者の進路選択は基本的に18歳とか22歳の時。その時に知っている職業から選ぶとなると、全員が知っているのが教員。それなのに採用倍率が低くなっているのは、かなり不自然です。教員になるかどうか悩ませる原因として、労働問題があると思います。
僕たちが支えているという感覚ではなくて、むしろ田中先生が裁判を通じて「教員の働き方は変えられる」という希望をかなえるチャンスをくれた。感謝しかありません。
教員をめざす学生自身が思いを発信するのは、本当に難しいんです。裁判は起こせないし、署名活動といっても、教員になりたい人ほどめちゃめちゃ勉強していて忙しい。教員採用試験の倍率が低いと騒がれますが、たとえ1・1倍でも自分が落ちるかもしれないと必死です。いい教員になるための勉強もです。
前向きの判決
「不当判決」という報道で、絶望を感じた教員が多くいます。でも一番伝えたいのは、今まで認められなかった時間外労働が労働時間として認められた、本当に前向きで希望ある判決だということです。署名も4万4000筆ほど集まっています。行政府にも働きかけながら「おかしい」という声をもっと広げて、裁判官も認めざるを得ないような世論形成ができれば、大きく変わる可能性があります。
田中先生はお金がほしいわけじゃありません。労働時間を認めてもらうには裁判しかなかったし、若い世代のためにたたかっている。僕もこんな60歳になりたいです。
「しんぶん赤旗」日刊紙 2021年12月18日付掲載
教員を目指している学生や大学院生が、教員の働き方やまともな労働条件を確立していくことに関わるって素敵です。
若者の進路選択は基本的に18歳とか22歳の時。その時に知っている職業から選ぶとなると、全員が知っているのが教員。それなのに採用倍率が低くなっているのは、かなり不自然です。教員になるかどうか悩ませる原因として、労働問題がある。