2024年 経済の潮流① AIと変化する労働
桜美林大学教授 藤田実さん
2022年11月にチャットGPTという対話型AI(人工知能)が公開され、あたかも人間と対話しているかのような対応と文章構成力の高さは、「衝撃」をもって迎えられました。
女性の雇用減少
チャットGPTは自然言語による文章の生成だけでなく、画像・音楽・動画の生成、データ分析、プログラミングなど広範な機能を果たすことができます。チャットGPTに代表される生成AI技術は、これまで人間が行ってきた知的労働の一部を「代替」できるので、人間の労働や生活に大きな影響を与えることになります。膨大に学習したデータを再構成して、容易にさまざまな文書を作成し、あたかも「オリジナル」のような画像・音楽・動画も作成できます。
こうした生成AI技術の急速な普及を受けて、労働過程をどのように変えるか、大きな議論となっています。国際労働機関(ILO)は「生成AIと職務」という報告書を23年8月に発表しました。それによると、影響が最も大きいのは、広範な職業に付随する事務作業、24%が大きな影響を受け、58%が中レベルの影響を受けるとしています。この場合の影響とは職務を完全に自動化することではなく、仕事を補強すること、つまり職務内の一部の仕事を自動化することで、他の仕事に時間を割けるようにするということです。影響がより大きくなるのは、国別では事務職の雇用比率が高い高所得国および高中所得国、男女別では女性が男性の倍以上になるとも指摘しています。
生成AI「チャットGPT」のスタート画面
二極的分業防ぐ
ILOの報告が示唆するのは、事務・管理的労働のうち補助的な業務がとくに大きな影響を受け、分業構造の下でタスク(課業)が限定されている職務では代替される可能性があるということです。他方で職務に付随するわずらわしい事務・管理作業などがAIによって自動化されることで、より高度で複雑な作業に集中できることになります。この場合は、AIを活用することで、知的労働をより高度化することになるでしょう。
アメリカの金融会社ゴールドマン・サックスは、3月に「生成AIが経済成長に大きな影響をもたらす可能性」という報告書の中で、「米国の雇用のうちAIに取って代わられるのは7%で、AIに補完される部分が63%、残りの30%は影響を受けない」とする一方で、現在の労働人口の60%が1940年に存在しなかった職業に就いているという研究結果にも触れ、AIの普及に伴い、新しい職業が生まれる可能性を指摘しています。
AIに関連する新しい職業が生まれつつあります。AIアルゴリズム(AIの動作を規定する手順)の開発や実装、出力されたデータ分析・検証など高度な知識が必要とされる労働です。他方で、機械学習のためのデータ収集や整形、ラベリングなど事前処理も必要となります。これは膨大なデータを扱うので労働集約的な作業となります。チャットGPTを開発したオープンAI社は、学習させた膨大なデータからヘイトや暴力、犯罪を誘発しかねないようなデータを排除するためにケニアの会社に委託し、時給1・32ドルから2ドルで大量の労働者に作業をさせたといいます。
AI技術は労働の高度化や代替、二極化など多様な影響をもたらす可能性がありますが、それはどのような分業構造をとるかによって決まります。その意味では少数の高度労働と単純な労働への二極的な分業をどう防ぐかが、多くの労働者にとって重要となります。
(つづく)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2024年1月12日付掲載
生成AI技術の急速な普及を受けて、労働過程をどのように変えるか、大きな議論となっています。国際労働機関(ILO)は「生成AIと職務」という報告書を23年8月に発表。
職務を完全に自動化することではなく、仕事を補強すること、つまり職務内の一部の仕事を自動化することで、他の仕事に時間を割けるようにするということ。
AI技術は労働の高度化や代替、二極化など多様な影響をもたらす可能性がありますが、それはどのような分業構造をとるかによって決まります。その意味では少数の高度労働と単純な労働への二極的な分業をどう防ぐかが、多くの労働者にとって重要に。
桜美林大学教授 藤田実さん
2022年11月にチャットGPTという対話型AI(人工知能)が公開され、あたかも人間と対話しているかのような対応と文章構成力の高さは、「衝撃」をもって迎えられました。
女性の雇用減少
チャットGPTは自然言語による文章の生成だけでなく、画像・音楽・動画の生成、データ分析、プログラミングなど広範な機能を果たすことができます。チャットGPTに代表される生成AI技術は、これまで人間が行ってきた知的労働の一部を「代替」できるので、人間の労働や生活に大きな影響を与えることになります。膨大に学習したデータを再構成して、容易にさまざまな文書を作成し、あたかも「オリジナル」のような画像・音楽・動画も作成できます。
こうした生成AI技術の急速な普及を受けて、労働過程をどのように変えるか、大きな議論となっています。国際労働機関(ILO)は「生成AIと職務」という報告書を23年8月に発表しました。それによると、影響が最も大きいのは、広範な職業に付随する事務作業、24%が大きな影響を受け、58%が中レベルの影響を受けるとしています。この場合の影響とは職務を完全に自動化することではなく、仕事を補強すること、つまり職務内の一部の仕事を自動化することで、他の仕事に時間を割けるようにするということです。影響がより大きくなるのは、国別では事務職の雇用比率が高い高所得国および高中所得国、男女別では女性が男性の倍以上になるとも指摘しています。
生成AI「チャットGPT」のスタート画面
二極的分業防ぐ
ILOの報告が示唆するのは、事務・管理的労働のうち補助的な業務がとくに大きな影響を受け、分業構造の下でタスク(課業)が限定されている職務では代替される可能性があるということです。他方で職務に付随するわずらわしい事務・管理作業などがAIによって自動化されることで、より高度で複雑な作業に集中できることになります。この場合は、AIを活用することで、知的労働をより高度化することになるでしょう。
アメリカの金融会社ゴールドマン・サックスは、3月に「生成AIが経済成長に大きな影響をもたらす可能性」という報告書の中で、「米国の雇用のうちAIに取って代わられるのは7%で、AIに補完される部分が63%、残りの30%は影響を受けない」とする一方で、現在の労働人口の60%が1940年に存在しなかった職業に就いているという研究結果にも触れ、AIの普及に伴い、新しい職業が生まれる可能性を指摘しています。
AIに関連する新しい職業が生まれつつあります。AIアルゴリズム(AIの動作を規定する手順)の開発や実装、出力されたデータ分析・検証など高度な知識が必要とされる労働です。他方で、機械学習のためのデータ収集や整形、ラベリングなど事前処理も必要となります。これは膨大なデータを扱うので労働集約的な作業となります。チャットGPTを開発したオープンAI社は、学習させた膨大なデータからヘイトや暴力、犯罪を誘発しかねないようなデータを排除するためにケニアの会社に委託し、時給1・32ドルから2ドルで大量の労働者に作業をさせたといいます。
AI技術は労働の高度化や代替、二極化など多様な影響をもたらす可能性がありますが、それはどのような分業構造をとるかによって決まります。その意味では少数の高度労働と単純な労働への二極的な分業をどう防ぐかが、多くの労働者にとって重要となります。
(つづく)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2024年1月12日付掲載
生成AI技術の急速な普及を受けて、労働過程をどのように変えるか、大きな議論となっています。国際労働機関(ILO)は「生成AIと職務」という報告書を23年8月に発表。
職務を完全に自動化することではなく、仕事を補強すること、つまり職務内の一部の仕事を自動化することで、他の仕事に時間を割けるようにするということ。
AI技術は労働の高度化や代替、二極化など多様な影響をもたらす可能性がありますが、それはどのような分業構造をとるかによって決まります。その意味では少数の高度労働と単純な労働への二極的な分業をどう防ぐかが、多くの労働者にとって重要に。