映画でよく「グランド・ホテル形式」と言われるジャンルがある。一定の場所に多くの人物が入れ代わり立ち代わり登場して、それぞれ複数のドラマが同時に進行していくような映画である。映画ばかりでなく、今じゃ一種の一般用語になっているかもしれない。元々は1932年に作られたアメリカ映画で、僕も名前は知ってるけど見たことはなかった。
その「グランド・ホテル」を含む昔のアメリカ映画が国立フィルムセンターで特別に上映されている。東京国際映画祭と連動した「ジョージ・イーストマン博物館 映画コレクション」という企画で、「人生の乞食」「戦艦バウンティ号の叛乱」など大昔の名画が上映されている。一昨年はニューヨーク近代美術館(MoMA)、昨年はUCLA映画テレビアーカイブの所蔵フィルムが紹介された。今年はニューヨーク州ロチェスターにあるイーストマン・コダックの創始者邸にある博物館のコレクション。

「グランド・ホテル」は大画面で見る機会はほとんどないだろうから、見ておきたいと思って行ってきた。(廉価のDVDは出ているようだけど。)ハリウッド初期の大女優、グレタ・ガルボ(1905~1990)が主演していて、僕はほとんど見てないから新鮮だった。スウェーデン生まれの美人女優と言えば、後のイングリッド・バーグマンが有名で、「カサブランカ」から「秋のソナタ」までずいぶん見てきた。でもガルボはほとんど見てない。早く引退して「神聖ガルボ帝国」と言われた伝説的女優である。
ここはベルリンの最高級ホテル「グランド・ホテル」って言うけど、ロケなど全然なくハリウッドに作られた壮大なセットなんだろう。クレーン撮影がなんだか懐かしい感じ。ベルリンのホテルだけど、全員英語をしゃべってる。ヴィッキー・バウムという人の小説をウィリアム・ドレイクが劇にしたものがもとだという。冒頭でホテルの電話が飛び交うさまを見せて、さまざまな人生ドラマを簡単に紹介する。
落ち目のバレリーナ(グレタ・ガルボ)、会社が危機で合併工作に来た社長(ウォーレス・ビアリー)、彼にたまたま雇われた速記タイピスト(ジョーン・クロフォード)、借金で脅迫され泥棒しても金が欲しい「男爵」(ジョン・バリモア)、たまたま社長の会社に勤めていたけど、病気で退職して一生の思い出にホテルに来た男(ライオネル・バリモア)といったあたりが主要人物。
ジョーン・クロフォード(1904~1975)は、当時のMGMで人気女優だったということで、ガルボとクロフォードが同時に画面に映るシーンはないということだ。そもそも撮影期間が別だったそうで、登場人物が一堂にそろうシーンもない。後にオスカー女優となるが、生涯に4回結婚、最後のお相手はペプシコーラの社長で、夫の死後は役員になったという。ジョン・バリモア、ライオネル・バリモアはハリウッドで有名なバリモア一家で、ライオネルの方が兄。ジョン・バリモアはドリュー・バリモアの祖父にあたる。この時代の俳優になると、見てるときには判らないので、今調べて知ったことだけど、まあ知らなくても十分楽しめる。だけど、バリモア兄弟はやけに息の合ったコンビぶりを発揮していた。
皆が皆、どこか苦境に立つ人ばかりで、それは大恐慌下のアメリカ映画にはよくある設定。そこで卑劣、尊大になるタイプもあれば、逃避に向かう人もある。そこを冷徹に見つめるかというと、そこはハリウッド映画だから、おとぎ話みたいにバレリーナと男爵が恋仲になってしまい、ドラマが進展する。監督はエドマンド・グールディング。ベティ・デイヴィスが主演した「愛の勝利」などがあるが、やはり人物の出し入れなどルビッチのような巨匠ほどの腕前はない。まあ今見ると、後に作られたグランドホテル形式の先駆けになったという意味が大きく、まだこのジャンルが練られていなかった段階だろう。
第5回アカデミー賞で作品賞を受賞しているが、作品賞しかノミネートされなかったのに受賞した珍記録になっている。確かに技術部門も演技部門もとりわけ傑出していない。俳優に共同授賞するわけにもいかないからやむを得ない。社長を演じたウォーレス・ビアリーは、同年に「チャンプ」でオスカーを受賞している。日本では1933年に公開されて、ルビッチの「極楽特急」などと並んでキネマ旬報ベストテン9位に選出されている。1位が「制服の処女」、2位が「巴里祭」という年で、日本ではヨーロッパ映画の芸術の香りが愛されていた。アメリカ映画でも「犯罪都市」や「戦場よさらば」などが入ってる。
(8月5日、12時半に2回目の上映あり。)
その「グランド・ホテル」を含む昔のアメリカ映画が国立フィルムセンターで特別に上映されている。東京国際映画祭と連動した「ジョージ・イーストマン博物館 映画コレクション」という企画で、「人生の乞食」「戦艦バウンティ号の叛乱」など大昔の名画が上映されている。一昨年はニューヨーク近代美術館(MoMA)、昨年はUCLA映画テレビアーカイブの所蔵フィルムが紹介された。今年はニューヨーク州ロチェスターにあるイーストマン・コダックの創始者邸にある博物館のコレクション。

「グランド・ホテル」は大画面で見る機会はほとんどないだろうから、見ておきたいと思って行ってきた。(廉価のDVDは出ているようだけど。)ハリウッド初期の大女優、グレタ・ガルボ(1905~1990)が主演していて、僕はほとんど見てないから新鮮だった。スウェーデン生まれの美人女優と言えば、後のイングリッド・バーグマンが有名で、「カサブランカ」から「秋のソナタ」までずいぶん見てきた。でもガルボはほとんど見てない。早く引退して「神聖ガルボ帝国」と言われた伝説的女優である。
ここはベルリンの最高級ホテル「グランド・ホテル」って言うけど、ロケなど全然なくハリウッドに作られた壮大なセットなんだろう。クレーン撮影がなんだか懐かしい感じ。ベルリンのホテルだけど、全員英語をしゃべってる。ヴィッキー・バウムという人の小説をウィリアム・ドレイクが劇にしたものがもとだという。冒頭でホテルの電話が飛び交うさまを見せて、さまざまな人生ドラマを簡単に紹介する。
落ち目のバレリーナ(グレタ・ガルボ)、会社が危機で合併工作に来た社長(ウォーレス・ビアリー)、彼にたまたま雇われた速記タイピスト(ジョーン・クロフォード)、借金で脅迫され泥棒しても金が欲しい「男爵」(ジョン・バリモア)、たまたま社長の会社に勤めていたけど、病気で退職して一生の思い出にホテルに来た男(ライオネル・バリモア)といったあたりが主要人物。
ジョーン・クロフォード(1904~1975)は、当時のMGMで人気女優だったということで、ガルボとクロフォードが同時に画面に映るシーンはないということだ。そもそも撮影期間が別だったそうで、登場人物が一堂にそろうシーンもない。後にオスカー女優となるが、生涯に4回結婚、最後のお相手はペプシコーラの社長で、夫の死後は役員になったという。ジョン・バリモア、ライオネル・バリモアはハリウッドで有名なバリモア一家で、ライオネルの方が兄。ジョン・バリモアはドリュー・バリモアの祖父にあたる。この時代の俳優になると、見てるときには判らないので、今調べて知ったことだけど、まあ知らなくても十分楽しめる。だけど、バリモア兄弟はやけに息の合ったコンビぶりを発揮していた。
皆が皆、どこか苦境に立つ人ばかりで、それは大恐慌下のアメリカ映画にはよくある設定。そこで卑劣、尊大になるタイプもあれば、逃避に向かう人もある。そこを冷徹に見つめるかというと、そこはハリウッド映画だから、おとぎ話みたいにバレリーナと男爵が恋仲になってしまい、ドラマが進展する。監督はエドマンド・グールディング。ベティ・デイヴィスが主演した「愛の勝利」などがあるが、やはり人物の出し入れなどルビッチのような巨匠ほどの腕前はない。まあ今見ると、後に作られたグランドホテル形式の先駆けになったという意味が大きく、まだこのジャンルが練られていなかった段階だろう。
第5回アカデミー賞で作品賞を受賞しているが、作品賞しかノミネートされなかったのに受賞した珍記録になっている。確かに技術部門も演技部門もとりわけ傑出していない。俳優に共同授賞するわけにもいかないからやむを得ない。社長を演じたウォーレス・ビアリーは、同年に「チャンプ」でオスカーを受賞している。日本では1933年に公開されて、ルビッチの「極楽特急」などと並んでキネマ旬報ベストテン9位に選出されている。1位が「制服の処女」、2位が「巴里祭」という年で、日本ではヨーロッパ映画の芸術の香りが愛されていた。アメリカ映画でも「犯罪都市」や「戦場よさらば」などが入ってる。
(8月5日、12時半に2回目の上映あり。)