尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

ノミはすごい、ヒトデもすごいー「ウニはすごい バッタもすごい」を読む

2017年11月20日 22時47分50秒 | 〃 (さまざまな本)
 中公新書「ウニはすごい バッタもすごい」を読んだ。著者の本川達雄さん(東工大名誉教授)と言えば、あの忘れがたい名著「ゾウの時間 ネズミの時間」を書いた人である。著者紹介を見たら、今まで他にもずいぶん新書を書いてるみたいだけど、気が付かなかった。今回は本の名前のインパクトで気が付いて読みたくなった。でも結構手ごわそうで、2月に出た本を4月に買って、そのまま放っていた。「サラバ!」で小説に満腹したので、こっちを読み始めたがやはり手ごわい。

 でも、この本は「目からウロコ」の続出で、今まで一度も考えてもみなかった視点で書かれている。ウニやバッタの本ではない。あらゆる動物、いや植物も出てくる。そして、それを「デザインの生物学」という観点で考察している。そりゃあ、何だろうという感じだけど、僕らは「犬」と言われれば、品種はいっぱいあるけど、「犬」と認識して思い浮かべることができる。「猫」とは違うけど、「犬」も「猫」も、あるいは「馬」も「牛」も似たような格好をしている。頭と目が先端にあって、しっぽが最後にある細長い立方体をしている。それは何故かという問題。もう当たり前すぎて考えたこともない。

 どんな太った人でも、普通は身長より横幅が長い人はいないだろう。生物は基本的に細長い。魚を見れば判る。魚が横幅の方が広ければ、水圧で動けない。新幹線の先っぽがどんどん細長くなっていったように、水圧や気圧を受け流すためには細長くなければ生きていけない。動物は「動くもの」だから、目で食物を探したり、危険を察知できるように、目の方向に進めるようになるのが有利である。脳と感覚器官が近くなければ、せっかく感知した情報もうまくいかせないから、感覚器官(目、耳、鼻、口など)は脳の近くにある。(口が一番下があるけど、そうじゃないと食べ物をこぼしたときに困る。)

 なるほどうまくできているなあと思う。でも、この本では哺乳類に関してはほとんど書かれていない。50頁は昆虫の話。そして200頁ほどが海の生物たちである。昆虫は地球上で一番栄えている種類だけど、陸上生活は大変なんだという。人間はずっと陸上で暮らすのに慣れてしまったから、水の中にいる方が大変そうに思うけど、言われてみれば水中生活の方が楽なのである。

 水流があるから、それほど苦労しなくてもエサが見つかる。口を開けていれば、向こうから入ってくる。紫外線にさらされる苦労も少ない。酸素を得ることだけが陸上より大変だけど。そして、どんな生物も体の大部分は水なわけだけど、水中にいる限り水の獲得に困ることはない。陸上の生物は、みな水分の確保には非常に苦労しているのである。

 陸上に進出して大成功した昆虫類は、体をクチカラというもので覆っている。クチカラは皮膚のラテン語から来た言葉で、英語ではキューティクル。カブトムシとかクワガタとか、あるいはアリとか、あまり思い出したくないけどゴキブリとか、皆固い。このようなバリアーを張り巡らしたから、水分の蒸発を防ぎ、紫外線の害にも耐えられる。だけど、そんなよろいをまとってしまったら、動けないはずでは? 

 それなのに昆虫は素早く動けるし、ハチのように素早く飛び回る虫もいる。その体の工夫は読んでビックリ、神技としか思えない。昆虫は体に比べて、非常に大きな跳躍力がある。バッタもそうだけど、僕が一番驚いたのはノミ。体長2.5ミリのケオプスネズミノミがチャンピオンらしい。50センチも跳ねて、体長の200倍。脚の関節部のクチカラには、レジリンという特別なタンパク質がある。レジリンは弾性エネルギーの97%が位置エネルギーに変換されるという。(つまり、1mの高さから落とすと97センチ跳ねる。)これほどすごいゴムは工業界に存在せず、遺伝子操作で作る研究がされている。

 今度は海の生物の話。そもそも貝はなぜラセンなのかヒトデはなぜ星型か。そういうもんだと思って、考えたこともない問題だろう。そして、ナマコは、ホヤは? その驚くべき暮らしぶりが紹介されていく。貝がなぜラセンなのかは、非常に面白くて納得できるので、是非自分で確認を。ここではヒトデの話を。ヒトデは海のギャングと言われ、貝やサンゴの天敵だから、どうも好きになれない。貝に食らいついて何日も待って、油断したところをこじ開けて溶かして食べてしまう。

 どうもやな奴だなと思うが、それはそれとして、そういう風に生きているヒトデも面白い生物だと思った。最初に書いたように、ほ乳類には「前後」があり、前に進む。だから「前向きに頑張ろう」という表現が可能になる。でも、ヒトデは五角形で前後はないのである。どの方向ににも進める。海の中だから、エサがどっちからでも流れてくるから、その方が都合がいいのである。「滑走路仮説」や「サッカーボール仮説」が紹介されている。それは何だ? 

 それは僕の手に余る感じなので、直接読んでほしいと思う。ただ、偶数形だと、水流に載って来たエサを感知するときに、半分が役に立たないケースが出てくる。でも、五角形ならどこから来たエサも見つけやすい。それは図で解説されているが、要するに五稜郭と同じなのである。なるほど、そう見るとヒトデが星型なのも納得できる。もう他の問題は省略するが、一番最初のサンゴのところだけでも読む価値がある。大体、サンゴ礁は知ってても、サンゴがどういう動物かちゃんと知ってる人は少ないだろう。地球温暖化の影響を一番受けるらしい、このサンゴをちゃんと知ってないと。それにしても、叙述はなかなか難しく、そう簡単に読み進めない。でも、頑張って少しづつでも読んでみる価値はある。そういう見方ができるのかと知るだけでも。
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