東南アジア諸国は、日本にとっても重要だし世界的にも大きな意味を持っている地域だ。東南アジアは文化的、宗教的に一律には語れない多様性を持っているが、政治情勢も複雑。今回はいくつかの国に絞って「ネポティズム」(縁故主義)という視点で考えてみたい。この地域の10か国でASEAN(東南アジア諸国連合)を作っているが、現時点で最も重大な問題は「ミャンマー情勢」である。昨年来大きな変動があったが、今回は取り上げない。また今も一党独裁を続けるヴェトナム、ラオスも触れない。
インドネシア大統領選挙が2月14日に実施され、選挙結果がようやく3月20日に発表された。もちろん選挙前から当選確実だったプラボウォ国防相が当選した。(なお、次点候補が異議を申立てている。就任は10月ということで、何とも悠長な国である。)プラボウォ氏は実に3度目の挑戦で勝利したことになる。2014年、2019年の大統領選にも出馬したが、現職のジョコ・ウィドド大統領に敗れていた。関心がある人には周知のことだが、プラボウォ氏は独裁者として知られたスハルト元大統領の次女と結婚して、スハルト時代に軍人として権勢を振るった。しかし、独裁崩壊後に軍法会議で軍籍をはく奪されてしまった。
(プラボウォ次期大統領)
そこでプラボウォのキャリアも終わったかと思われたが、事実上のヨルダン亡命を経て実業界、政界に進出して成功した。そして全国の農民を組織して新党を樹立、大統領候補と言われるようになった。2014年、2019年の大統領選に臨むも惜敗したが、その後にジョコ政権の国防相に就任して、影響力を増した。72歳と高齢だが、今回はなんとジョコ大統領の長男ギブラン・ラカブミン・ラカ(ジャワ島中部のスラカルタ市長)を副大統領に擁立するという奇手を用いて、ジョコ大統領支持層を取り込んだとされる。プラボウォ氏は保守的で伝統的イスラム層に支持され、ジョコ氏は都市部中間層や非イスラム層の支持が厚かった。
インドネシアで注目されるのは、過去の独裁時代の記憶が薄れつつあることだ。それはフィリピンでかつての独裁者フェルディナンド・マルコスの長男、フェルディナンド・マルコス・ジュニア(通称ボンボン)が2022年に大統領に当選したことでも似たような事情が見て取れる。プラボウォはジョコ長男を通して、現職支持層にも浸透した。ジョコ氏は「庶民派」というイメージで売っていたが、このような血縁主義(ネポティズム)に抵抗できなかった。
(ボンボン・マルコス)
ネポティズムという概念は、血縁で結ばれた関係者を政治的に優先させる政治を指す。前近代では同族支配が当然だったが、近代社会では「能力主義」が原則になっている。だが特にアジア社会では、有力者の血縁にあるものが権力に近くなることがよくある。日本だって与党議員のほとんどは「二世」「三世」だし、韓国でも大統領縁故者が引退後に摘発されることが多い。中国は政治制度が違うため血縁ではないけれど、習近平政権ではかつて部下として仕えたような個人的関係者を優先する傾向が見られる。
日本の場合は国会議員に当選するためには、親の知名度がある方が有利となる。だが当選しても、国会議員一期の議員が総理大臣に選ばれることは普通はない。党の中で段々と階段を上っていき、その間にリーダーとして相応しいかどうか検証される。それに対して、東南アジア諸国では直接に最高権力者に登ることがある。最近の例ではカンボジアがそうだった。カンボジアでは1985年にフン・センが32歳で首相になり、2023年まで38年間の長期政権を保っていた。2023年7月に野党を排除したまま総選挙を実施して、与党が勝利した後でフン・セン首相は辞意を表明し、後継には長男のフン・マネットが就任した。
(フン・マネット首相)
フン・マネット(1977~)は陸軍司令官で政治経験はなかった。アメリカ、イギリスへの留学経験があるというが、どういう政治思想を持っているか知られていない。2021年に父親から後継指名を受け、そのまま後継首相となったのである。これでは「北朝鮮」と同じような「一族支配」に近くなる。カンボジアではかつて1970年代のポル・ポト政権下で、大虐殺が起こった。その復興には日本を含めて国際的な支援が行われたし、我々もずいぶん一市民としてできる応援を続けてきた。なんでこんなことになってしまったのか、僕には全く判らない。アジア社会とネポティズムは非常に重大な問題で、今後も考えて行きたい。
インドネシア大統領選挙が2月14日に実施され、選挙結果がようやく3月20日に発表された。もちろん選挙前から当選確実だったプラボウォ国防相が当選した。(なお、次点候補が異議を申立てている。就任は10月ということで、何とも悠長な国である。)プラボウォ氏は実に3度目の挑戦で勝利したことになる。2014年、2019年の大統領選にも出馬したが、現職のジョコ・ウィドド大統領に敗れていた。関心がある人には周知のことだが、プラボウォ氏は独裁者として知られたスハルト元大統領の次女と結婚して、スハルト時代に軍人として権勢を振るった。しかし、独裁崩壊後に軍法会議で軍籍をはく奪されてしまった。
(プラボウォ次期大統領)
そこでプラボウォのキャリアも終わったかと思われたが、事実上のヨルダン亡命を経て実業界、政界に進出して成功した。そして全国の農民を組織して新党を樹立、大統領候補と言われるようになった。2014年、2019年の大統領選に臨むも惜敗したが、その後にジョコ政権の国防相に就任して、影響力を増した。72歳と高齢だが、今回はなんとジョコ大統領の長男ギブラン・ラカブミン・ラカ(ジャワ島中部のスラカルタ市長)を副大統領に擁立するという奇手を用いて、ジョコ大統領支持層を取り込んだとされる。プラボウォ氏は保守的で伝統的イスラム層に支持され、ジョコ氏は都市部中間層や非イスラム層の支持が厚かった。
インドネシアで注目されるのは、過去の独裁時代の記憶が薄れつつあることだ。それはフィリピンでかつての独裁者フェルディナンド・マルコスの長男、フェルディナンド・マルコス・ジュニア(通称ボンボン)が2022年に大統領に当選したことでも似たような事情が見て取れる。プラボウォはジョコ長男を通して、現職支持層にも浸透した。ジョコ氏は「庶民派」というイメージで売っていたが、このような血縁主義(ネポティズム)に抵抗できなかった。
(ボンボン・マルコス)
ネポティズムという概念は、血縁で結ばれた関係者を政治的に優先させる政治を指す。前近代では同族支配が当然だったが、近代社会では「能力主義」が原則になっている。だが特にアジア社会では、有力者の血縁にあるものが権力に近くなることがよくある。日本だって与党議員のほとんどは「二世」「三世」だし、韓国でも大統領縁故者が引退後に摘発されることが多い。中国は政治制度が違うため血縁ではないけれど、習近平政権ではかつて部下として仕えたような個人的関係者を優先する傾向が見られる。
日本の場合は国会議員に当選するためには、親の知名度がある方が有利となる。だが当選しても、国会議員一期の議員が総理大臣に選ばれることは普通はない。党の中で段々と階段を上っていき、その間にリーダーとして相応しいかどうか検証される。それに対して、東南アジア諸国では直接に最高権力者に登ることがある。最近の例ではカンボジアがそうだった。カンボジアでは1985年にフン・センが32歳で首相になり、2023年まで38年間の長期政権を保っていた。2023年7月に野党を排除したまま総選挙を実施して、与党が勝利した後でフン・セン首相は辞意を表明し、後継には長男のフン・マネットが就任した。
(フン・マネット首相)
フン・マネット(1977~)は陸軍司令官で政治経験はなかった。アメリカ、イギリスへの留学経験があるというが、どういう政治思想を持っているか知られていない。2021年に父親から後継指名を受け、そのまま後継首相となったのである。これでは「北朝鮮」と同じような「一族支配」に近くなる。カンボジアではかつて1970年代のポル・ポト政権下で、大虐殺が起こった。その復興には日本を含めて国際的な支援が行われたし、我々もずいぶん一市民としてできる応援を続けてきた。なんでこんなことになってしまったのか、僕には全く判らない。アジア社会とネポティズムは非常に重大な問題で、今後も考えて行きたい。