直木賞作家米澤穂信は青春ミステリーのライトノベルから出発した。角川スニーカー文庫の「古典部シリーズ」である。その後創元推理文庫からもう一つの青春ミステリーシリーズが誕生した。人呼んで「小市民シリーズ」というが、題名にスイーツが付いていることが特徴である。『春季限定いちごタルト事件』(2004)、『夏季限定トロピカルパフェ事件』(2006)、『秋季限定栗きんとん事件』(2009)と来たからには、次は冬だと待ち望みながらなかなか出なかった。番外短編集『巴里マカロンの謎』(2020)が一時の渇を癒やしたものの、どんどん作者は有名になってしまった。もう冬は出ないのだろうかと思っていた2024年4月末、ついに出ました、『冬季限定ボンボンショコラ事件』(創元推理文庫)である。
このような「ジャンルもの」については、本や映画、音楽などを問わず関心がない人には何の意味も持たない。今度の小説はとても面白かったが、これだけ読んでみてもホントの面白さは伝わらないだろう。じゃあ、最初から全部読むべきかと言えば、その価値はあるとは思うけど…。ミステリーは脳トレになるし、青春ものは「あの頃」がよみがえって気分を若くしてくれる。とは言うものの、このシリーズは設定が変わっていて普通じゃない。同じ高校に通う小鳩常悟朗と小佐内ゆきは、よく一緒にいるところを目撃されるが交際しているわけではない。身近に起こった「日常の謎」を解決するために「互恵関係」を取り結んでいるだけなのである。
(米澤穂信)
そりゃ何だという感じだが、二人は謎解きはするのもの、本当はそんなお節介はやめたいのである。しかし生来の謎解き好きの虫が騒ぎ、つい口をはさんでしまう。しかし、中学時代に何か苦い体験となった思い出があり、二人は二度とこんなことはやめようと決意した。目指すのは「小市民」である。その意味は目立たず出しゃばらず、おとなしく学校生活を送る一生徒と言った感じか。しかしながら「あっしにはかかわりのないことでござんす」と言いながら、結局は関わってしまう木枯らし紋次郎のように、小鳩君と小佐内さんも謎があれば解いてしまうのである。で、その中学時代の苦い体験ってなんだろう?
このシリーズは今度アニメになって7月から放映されるそうである。登場人物の絵は画像で出てくるけど、いやあこんなにカッコよくなっちゃうのか。ちょっとイメージが違う感じで、もっと陰影というか、屈託がある感じを思い描いていた。それは今まで語られない「謎の中学時代」の影とも言える。そして15年ぶりに刊行された今回の作品で、ついに中学時代が明かされたのである。それもとりわけ衝撃的な設定として。今回の作品では、冒頭に主人公小鳩君がひき逃げされて入院してしまうのである。スマホも壊れたから誰にも連絡できない。そこでどうしても中学時代に起こった、もう一つのひき逃げ事件を思い出さずにいられない。
(アニメ化のキャラクター)
小鳩君と小佐内さんも高校3年の受験生、もう謎解きもないはずの2学期末、たまたまスイーツ好きの小佐内さんについて鯛焼きを買いに行き堤防沿いの道を歩いていた時のことだった。年内に早くも雪が積もったため道も歩きにくいが、そこに車が突っ込んできたのだった。全治数ヶ月で、なんと受験もフイになった小鳩君である。一緒にいた小佐内さんはどうなったんだろう? そして同じ道路で起こった前のひき逃げ事件は? その事件は同級生が轢かれ、二人は協力して犯人捜しをしたのだったが…。ある解けない謎を残したまま、心に傷を残して終わってしまったのだった。
てなことを字が書けるようになった小鳩君はつらつら思い出してはノートに書いていたのである。そんな小鳩君に小佐内さんが差し入れしたのが、「冬季限定ボンボンショコラ」だった。いつまで昔話に興じているんだと思うと、やはりその中に伏線が散りばめられているではないか。ラスト近くの「怒濤の展開」、それはまあミステリー小説の定番ではあるが、えっそうだったんだの連打に打ちのめされた。回顧談かと思うと、ちゃんと現在進行形のミステリーじゃないか。まあ、僕は設定にちょっと無理があるなという気もしたけど、まずは満足の傑作。そして、春夏秋冬すべて終わって完結編かと思われるが、もしかして大学編もあるの?的な終わり方に期待が高まる。ところでアニメ化連動企画で、限定スイーツをどこかで食べてみたいもんだ。
このような「ジャンルもの」については、本や映画、音楽などを問わず関心がない人には何の意味も持たない。今度の小説はとても面白かったが、これだけ読んでみてもホントの面白さは伝わらないだろう。じゃあ、最初から全部読むべきかと言えば、その価値はあるとは思うけど…。ミステリーは脳トレになるし、青春ものは「あの頃」がよみがえって気分を若くしてくれる。とは言うものの、このシリーズは設定が変わっていて普通じゃない。同じ高校に通う小鳩常悟朗と小佐内ゆきは、よく一緒にいるところを目撃されるが交際しているわけではない。身近に起こった「日常の謎」を解決するために「互恵関係」を取り結んでいるだけなのである。
(米澤穂信)
そりゃ何だという感じだが、二人は謎解きはするのもの、本当はそんなお節介はやめたいのである。しかし生来の謎解き好きの虫が騒ぎ、つい口をはさんでしまう。しかし、中学時代に何か苦い体験となった思い出があり、二人は二度とこんなことはやめようと決意した。目指すのは「小市民」である。その意味は目立たず出しゃばらず、おとなしく学校生活を送る一生徒と言った感じか。しかしながら「あっしにはかかわりのないことでござんす」と言いながら、結局は関わってしまう木枯らし紋次郎のように、小鳩君と小佐内さんも謎があれば解いてしまうのである。で、その中学時代の苦い体験ってなんだろう?
このシリーズは今度アニメになって7月から放映されるそうである。登場人物の絵は画像で出てくるけど、いやあこんなにカッコよくなっちゃうのか。ちょっとイメージが違う感じで、もっと陰影というか、屈託がある感じを思い描いていた。それは今まで語られない「謎の中学時代」の影とも言える。そして15年ぶりに刊行された今回の作品で、ついに中学時代が明かされたのである。それもとりわけ衝撃的な設定として。今回の作品では、冒頭に主人公小鳩君がひき逃げされて入院してしまうのである。スマホも壊れたから誰にも連絡できない。そこでどうしても中学時代に起こった、もう一つのひき逃げ事件を思い出さずにいられない。
(アニメ化のキャラクター)
小鳩君と小佐内さんも高校3年の受験生、もう謎解きもないはずの2学期末、たまたまスイーツ好きの小佐内さんについて鯛焼きを買いに行き堤防沿いの道を歩いていた時のことだった。年内に早くも雪が積もったため道も歩きにくいが、そこに車が突っ込んできたのだった。全治数ヶ月で、なんと受験もフイになった小鳩君である。一緒にいた小佐内さんはどうなったんだろう? そして同じ道路で起こった前のひき逃げ事件は? その事件は同級生が轢かれ、二人は協力して犯人捜しをしたのだったが…。ある解けない謎を残したまま、心に傷を残して終わってしまったのだった。
てなことを字が書けるようになった小鳩君はつらつら思い出してはノートに書いていたのである。そんな小鳩君に小佐内さんが差し入れしたのが、「冬季限定ボンボンショコラ」だった。いつまで昔話に興じているんだと思うと、やはりその中に伏線が散りばめられているではないか。ラスト近くの「怒濤の展開」、それはまあミステリー小説の定番ではあるが、えっそうだったんだの連打に打ちのめされた。回顧談かと思うと、ちゃんと現在進行形のミステリーじゃないか。まあ、僕は設定にちょっと無理があるなという気もしたけど、まずは満足の傑作。そして、春夏秋冬すべて終わって完結編かと思われるが、もしかして大学編もあるの?的な終わり方に期待が高まる。ところでアニメ化連動企画で、限定スイーツをどこかで食べてみたいもんだ。