尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

「アベノミクス」は成功したのか-安倍政権総括⑤

2020年09月22日 22時57分38秒 |  〃  (安倍政権論)
 安倍政権の経済政策はどう評価するべきなんだろうか。「アベノマスク」は「失敗」だが、「アベノミクス」は「成功」だったと思っている人がかなりいるのではないか。「成功」ではないとしても「道半ば」という人もいる。(いろんなことが安倍政権では「道半ば」だった。)あるいは「成功」したかもしれないけど(成功したがゆえに)、かえって「格差」が拡大したという人もいる。

 そもそも「アベノミクス」とは何だったのか。その定義次第で「成功」「失敗」の基準も変わってくる。安倍政権の経済運営すべてを言うのだったら、安倍政権では確かに「景気回復」が続いた。2012年12月に始まった景気回復局面は、最近になって2018年10月に景気後退局面に入っていたことが最近認定された。71ヶ月続いたことになるが、戦後最長の73ヶ月は更新できなかった。米中経済摩擦などがきっかけになった可能性が高いという。この間企業は順調だったが国民生活にはあまり波及しなかったと言われるが、とにかく景気は良かったわけだ。

 それをもって「アベノミクスの成功」と思っている国民も多いと思うけど、それで正しいのか。資本主義なんだから「景気の波」があるのは当然で、リーマンショックと東日本大震災で日本経済が落ち込んだ後だから、誰が首相でも景気は回復したはずだ。この間災害が全国に相次ぎ、「復興需要」のために大幅な財政出動が続いた。さらに「五輪招致」が決定し、建設業界には景気過熱状態も起こった。学校の改装改築などは、授業のない夏休みに集中するけれど、入札しても応札業者がいないなどという話も伝わってきた。

 この間日本のGDP(国内総生産)は増加はしている。しかし案外高くはなかった。もう右肩上がりの時代じゃないのである。リーマンショック以前に一番GDPが大きかったのは、第一次安倍政権退陣の2007年だった。名目531.7兆円(実質504.8兆円)だったが、その水準に回復したのは2015年、追い越したのは2016年だった。その年のGDPは名目535.5兆円(実質519.6兆円)で、以後は名目だけ見るが、545.9、546.9、553.8と来て、2020年ほ大幅に減る予測である。コロナ禍の2020年は抜くとしても、平均では1%程度のGDP成長率だった。
(GDP成長率の推移)
 これは円建てのデータだから、円安を考えるとドル建てでは成長率は低いだろう。米中と比較すると大きく差がついている。米中も経済規模が大きいが、基本的には経済が成長を続けていて、日本の状況と大きく違っているのである。
(米中日の成長率比較)
 これは日本経済が長く続くデフレを未だ脱却出来ていないことによるものだろう。大臣にはいろんな「特命担当」がついているが、「デフレ脱却担当大臣」というのもいる。それは麻生太郎氏で、副総理、財務大臣、内閣府特命(金融)とともに、4つの大臣を兼務している。(財務相や金融相がデフレ脱却を目指すのは当然で、何で別に付いてあるのか疑問だ。ところで菅内閣では「万博担当」なんてのを作ったせいで、今まで独立した大臣がいたこともある「少子化対策」「地方創生」などを誰が担当してるか知ってる人は少ないだろう。)
  
 僕が思うに「アベノミクス」は本来日銀と政府が協定を結び、物価上昇率2%を達成するまで「異次元緩和」を続けるというものだったと思う。日銀による量的緩和策は2019年までに約380兆円にも達している。最初は2年で達成するという目標だった。黒田日銀総裁と同時に就任した岩田規久男日銀副総裁(学習院大学名誉教授)は「2年で物価目標を達成出来なかった場合は辞任する」と明言した。しかし、2年経っても2%は達成できなかった。岩田副総裁は潔く辞任したのかと思うと、確かに日銀だけの責任とは言えないものの理由を付けて辞任せず、結局5年間の副総裁任期を全うして退任した。

 この間の物価上昇率は、2015年を100とした場合、2012年は96.2、2019年は101.8だった7年間で5%程度、年平均1%も達成できなかった。岩田氏らの主張は「リフレ派」と言われる。細かい説明は面倒なので自分で調べて欲しいが、「インフレターゲット」を定めてマネタリーベースを膨張させる政策と言える。ここまで大胆に「リフレ派」経済政策を取り入れた先進国はないだろう。だから僕も注目していた。これだけジャブジャブと金融緩和を続ければ、本当はハイパーインフレになってもおかしくない。確かに株価は上昇したけれど、企業決算や緩和状況を考えれば思ったほどではないと言うべきだろう。

 ここに至って僕は悟ることになった。「アベノミクスは道半ば」なのではなく、もはや日本経済はデフレを脱却することはないのだろうと。民主党政権が続いていても同じだったろうし、他のどんな政策を採用しても無理だろう。少子化、高齢化が続き、総理大臣が「自助」という国だ。公助は期待できないんだから、基本的には節約していかなくてはいけない。人口構成の変化とともに、もう国内で需要が供給を上回ることは(一部のサービス産業を除き)ないんだと思う。

 異次元緩和によって、急速に円安が進み大企業は外国でのもうけを円に替えるだけで膨大な利益を上げた。その史上最高の利益は、賃上げや配当に多少は回ったけれど、やはり「内部留保」されたままだった。しかし、「第3の矢」などといっても、国内に投資しても回収は出来ない。再び為替水準が変わったときに備えて、企業としては内部留保せざるを得ない。そして「コロナ禍」によって、その方針は正しかったと証明された。「異次元緩和によるデフレ脱却」という「アベノミクス」の本質から、「第3の矢」は言葉だけに終わる宿命にあった。今ではそう思っている。
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