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尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

ワーカーズコープの可能性-映画「ワーカーズ」

2013年02月05日 23時49分12秒 | 映画 (新作日本映画)
 東京・東中野駅前のポレポレ東中野でワーカーズ」を見た。墨田区のワーカーズコープ(労働者協同組合)で働く人々を追った記録映画。森康行監督の新作である。森監督は墨田区にある夜間中学を舞台にした「こんばんは」という記録映画の傑作を作った人である。その後、教育学者太田尭氏を描く「かすかな光へ」という映画をつくり、このブログでも紹介したことがある。そういう経緯もあるので森監督の作品は見たいと思うのだが、それ以上にこの作品のテーマに関心があった。
 
 チラシを見ると、「みんなで働く みんなで生きる~あたらしい 働き方 のはなし~」とある。「『小さな共生社会』をつくる新しい働き方 スカイツリーの下で繰り広げられる まちの人々とワーカーズコープの物語」…このコピーですべて尽くされている。「ワーカーズコープ」というのは、COOP=協同組合の一種だけど日本語では「労働者協同組合」と言ったりする。生協や農協、漁協などみな「協同組合」だが、、同業者の組合や消費者の組合が多い。でも労働者が作った協同組合もある。というか、自分で起業し自分を雇うというようなものだから、それを「労働者」と呼ぶのもおかしいのかもしれない。つまり、働く人みんなが「経営者にして労働者」である。株式会社は利潤を株主に配当することが目的だが、「協同組合」は利潤を直接の目的としない。「日本労働者協同組合ワーカーズコープ連合会」のホームページを見ると、「協同労働の協同組合とは、働く人々・市民が、みんなで出資し、民主的に経営し、責任を分かちあって、人と地域に役立つ仕事をおこす協同組合です」と書いてある。

 そういうものがあるという知識は持っていたけど、実際にどういうことをしているのか知らなかった。今の日本には様々な問題があるが、その多くは「働き方の問題」である。僕も日本の学校は「ブラック企業」化しているとよく書いている。「ブラック企業」にはパワハラとか超過勤務などの問題もあるけど、それらは「氷山の一角」である。要するに何のために働いているのか判らない仕事をただ命令でやらざるを得ない働き方の問題である。実際の仕事そのものは、肉体的にきつすぎる時はあっても、仕事の悩みは感じない。仕事を通して社会とつながっている。でも、休日出勤したり報告書、提案書ばかり書かされる、書き直されるといった事が続くと、一体自分は何のために仕事をしてるんだろうと悩んでくる。

 「ワーカーズコープ」では、そういう悩みが原理的にはないはずである。すべての仕事が協同組合でやっていけるかどうかは判らないが、可能な限り「協同組合的な働き方」が広がるといいと思う。そう思ってこの映画も見たけど、とても参考になり考えさせられるが、同時に判らない点もいっぱいある。この映画は東京都墨田区で、児童館や高齢者施設、介護施設などを運営ししているワーカーズコープを描いている。いずれも行政が運営を委託することで成り立っているんだと思う。墨田区の人口は過密で、福祉の「需要」は大きい。財源が厳しくなると、従来なら行政が直接タッチしていたような福祉分野も、「民間委託」にせざるを得なくなる。そんなときに、福祉現場で働く人が、自分たちで起業して受託しているようなものである。自分で自分を雇うので、いろいろなことは自分たちで決められることになる。それは本人にとっては納得がいく働き方だろうが、この仕組みは福祉以外でも可能だろうか。また福祉でも、地方のような人口過疎地域では可能だろうか。東京の「下町」の「スカイツリーの下で」なら成立するだろうけど。

 中に出てきた人で一番心に残ったのは、ある「元中学の体育の先生」。バレー部に熱心で、生活指導に体を張って働いていたが、自分の家庭の問題から自らが「不登校」になってしまう。どうしても学校へ行くことができない精神状態となり、離婚して退職。派遣労働者となって働く中で、「個」を生かせる仕事として「児童館の体育指導員」にめぐり合う。そして「ワーカーズコープ」で生き返るのである。今や高齢者施設の施設長であり、高齢者の健康増進の体操、ウォーキングの指導員として生きがいのある仕事をしている。バレー部で教えた生徒たちは、今でも「ママさんバレー」で指導を続けている。それを見ると、この人が優れた体育教員だったことが判る。学校で失った「生きがい」を「ワーカーズコープ」という働き方の中で見出していくのは感動的だ。この映画は学校の中で悩んでいる多くの教員にとっても参考になることが多いのではないか

 ただ、報酬や代表者の決め方などを含め、描かれていないことも多い。福祉や教育は「全員で話し合って決めていく」ことが求められる職場だ。だから「ワーカーズコープ」でうまく行くかもしれないが、製造業、小売業、または「みんなで作った居酒屋」なんかは成功するだろうか。要するに「自営業」の中小企業と何が違うのか。中小企業の経営者は自分の時間を削って働くしかない。自分で自分を雇っている「ワーカーズコープ」でも、時間外手当のない労働を自らに課さざるを得ないのではないか。製造業なんかでは、例えば倒産した会社を労働者が出資して買い取っても、仕事のスピードを上げる必要性から、会社組織にして社長や専務などといった責任を持った役職を決めた方が早いという場合もあるのではないか。つまり「従業員が株主となる株式会社」と比べて、どっちがいいのだろうか。

 映画の冒頭に、コメディアンの松本ヒロさんが出てくる。松本ヒロは「ザ・ニュースペイパー」から独立してソロ活動をしている。そのため「仕事は不安定だが、言いたいことが言える」という状態で、その辛口ライブは「立川談志が最後に見た芸人」という伝説になっている。集会にもよく呼ばれるので、僕も何回も聞いている。その仕事のあり方は、「ワーカーズコープ」的な部分があると確かに言えるから、この映画では狂言回しの役を務めていて、それが生きている。墨田区は一時住んだこともあり、6年間勤務した場所でもあるけど、こんな試みが進んでいたとはちっとも知らなかった。映画に出てくる風景が何となく懐かしかった。
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