評判のドキュメンタリー映画『どうすればよかったか?』を見て来た。12月7日の公開後、上映館ポレポレ東中野は連日満員で、いつも事前予約がすぐ埋まってしまう。今週からテアトル新宿などでも上映が始まり、僕はキネカ大森まで行って見て来た。まあ半分ほどという客数だったけど、年末の平日にしては相当多かったというべきだろう。
この映画は監督の藤野知明(1966~)が20年以上にわたって自分の家族(父、母、姉)を撮影したものを編集した「家族の年代記」、もっとはっきり言えば「家族の失敗の記録」である。父も母も医学部を出て研究者をしていたという人で、姉も医学部を志し4年掛かって入学した。そして勉強に励んでいた時、精神的な失調が現れた。それは「統合失調症」、当時は「精神分裂病」と言われた症状に思えたが、当然医者である両親はすぐに病院に連れていくと思いきや、そうではなかった。しばらくして父の教え子がやっているという精神科を受診したが、問題ないと言われたとして即日連れ帰ってきたのである。
それが80年代初めのことで、以後姉は自宅の部屋に閉じこもることが多くなった。姉は1958年生まれで姉弟の年齢差が大きく、弟の知明は親の対応がおかしいと思いながら、直接介入できないまま時間が経っていった。90年代初めに「録音」した姉の音声が冒頭で流れるが、大声で意味不明のことを怒鳴っている印象である。何も出来ない弟は家を出て関東地方で就職した。(北海道の話で、監督は北大農学部を7年掛けて卒業した。)そして1995年になって前から勉強したかった日本映画学校に入学した。そして、将来家族の対応を検証しようと思いつつ、映像の練習みたいに取り繕って撮り始めたのが映画の素材なのである。
ということで成り立った映画なので、普通の観点から言えば映像的には物足りない。一般的には劇映画であれ、記録映画であれ、ニュース的なケースを除き「映像に凝る」ものだ。でもこの映画は、家族のスナップ写真を撮るように特にピントや露出にこだわらずに撮り続けている。だけど、この家族はどうなるんだろうという関心のもと、非常に強い緊迫感がみなぎっている。身もふたもない題名が付いているけど、観客が考えるのもまさにそのことなのである。そしてどうなったかは今後見る人のために書かないことにする。しかし、医学研究者である両親のもとでまるで「私宅監置」みたいなことが21世紀にも起こっていたのは衝撃である。
映画後半になって、監督は母に何故と問うと「パパの壁」と答えている。父親が病院に連れて行かないという決断をして、姉を病院に入れると「パパは死ぬ」とまで言う。一方で父に問う場面があるが、「ママが病気を恥ずかしく思った」と答えている。日本では精神病院で人権侵害的なことが起きてきた。それを心配して家に留めたというわけでもないようだ。どう考えれば良いのか、僕にはさっぱり判らない。一般論的としては、できるだけ早く精神科病院を受診するべきだったと思う。しかし、外交の「内政不干渉」のように、他の家庭の判断にも「他家庭不干渉」ということになりやすい。
もう一つ、両親はどんどん老いていく。姉も還暦を迎えた場面が出て来る。病気や障害を抱えた子どもを持つ家庭は、「親が死んだらどうなるか」という大問題を抱えている。この家庭の場合、弟がいたので結局親の介護も含めて北海道に戻ったようである。しかし、そういう条件がない家も多いだろう。やはりしっかりと受診して「障害者手帳」も取得し、地域の社会保障システムにつなげるしかないんじゃないか。自分がいつ死んでも大丈夫なように公的な対応を考えるべきだ。この家庭は経済的には問題なかったらしいが、本当に「どうすればよかったか」。普通の意味での映画鑑賞とは違うが、重い映画体験だった。
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