「クロード・ミレール映画祭」というのがあって、4本の映画を見た。まあ、昔のフランス映画が好きなのである。別に多くの人が見なくてもと思うけど、せっかくだから記録しておきたい。クロード・ミレール(Claude Miller、1942~2012)はフランスで多くの監督の下で働いてきた人である。ロベール・ブレッソンの『バルタザール、どこへ行く』、ゴダール『ウイークエンド』、ジャック・ドゥミ『ロシュフォールの恋人たち』などの助監督を務めた。その後はトリュフォー映画の製作主任を務めたというから、ずいぶん彼が関わった映画を見てきたことになる。
(『なまいきシャルロット』)
でも僕はこの人の名前を覚えてなかった。1976年に長編劇映画の監督になり、『なまいきシャルロット』(1985)、『小さな泥棒』(1988)でシャルロット・ゲンズブールをスターにした。この題名は記憶にあるが、当時は見なかった。シャルロットはセルジュ・ゲンズブールとジェーン・バーキンの娘で、14歳で『なまいきシャルロット』に主演してセザール賞新人女優賞を取った。だけど、題名からアイドル売り出しのスター映画かと思い込んでいた。実際は思春期の息づかいを細やかに描いた佳作だった。
(クロード・ミレール監督)
オリジナル脚本だがカーソン・マッカラーズ『結婚式のメンバー』のような作品で、マッカラーズの著作権管理者から訴訟を起こされたという。その決着は知らないけれど、ある夏の少女が町を出て行きたいと望む焦燥感を描き出すという点が似ている。ただ、この映画では同年代の天才少女ピアニストに憧れて、お付きの係になりたいと思い込むのである。場所は湖を臨む避暑地のような町で、天才少女は豪邸に住んでいる。「ひと夏の少女」という映画は多いが、中でもこの映画は見どころが多い。またトリュフォー映画でなじみのベルナデット・ラフォンがシャルロットの家の家政婦役でセザール賞助演女優賞を取っている。
(『勾留』)
製作順では『なまいきシャルロット』より前の1981年作の『勾留』は今回が初公開。連続幼女レイプ殺害の容疑者を、刑事リノ・ヴァンチュラが大みそかに署に呼んで取り調べる。被疑者は否認するけど、やがて妻(ロミー・シュナイダー)がやってきて…。僕はあんまり面白くなかった。取り調べ方法が国によって違うのは当然だが、あまりにも不自然である。証拠を突きつけるのではなく、状況面だけグダグダとやり取りする。日本の刑事ドラマで日本の警察を理解するのは無理だけど、同じようなことがフランス映画でも言えるんだろう。
(『伴奏者』)
『伴奏者』(1992)はドイツ軍占領下のパリで、ドイツ軍にも大人気の女性歌手がいて、伴奏者を求めている。20歳の若く貧しい少女が選ばれたが、歴史の流れに翻弄される。ニーナ・ベルベロワという亡命ロシア人の小説の映画化。主演の少女ソフィーは大歌手イレーヌにすっかりのぼせて憧れる。この歌手はエレナ・サヴォノヴァというロシア人女優が演じて大変な貫禄である。ニキータ・ミハルコフ『黒い瞳』で主演していた人。歌手の夫はドイツ軍やヴィシー政府と協力してきたが、風向きが変わりつつあるのを感じて、スペイン、ポルトガルを経てロンドンの自由フランス政府に参加しようとする。何回かの演奏会シーンとともに、この逃亡劇が山場になる。ところがイレーヌには秘密があった。ソフィーは何とか悲劇を防ごうとするが…。
(『ある秘密』)
一番の傑作は『ある秘密』(2007)だった。これも戦時中が舞台になっていて、フィリップ・グランベールという人の自伝的小説の映画化だという。第2次大戦後、スポーツが得意な両親のもとに、病弱な少年がいる。一人っ子のはずなのに、少年は兄がいると言い張っている。そこから時間は戦時中に戻り、戦時下フランスのユダヤ人迫害の物語になる。しかし、内容はかなり複雑で、二組の夫婦がいる。先の少年の父と母は大戦前に別の相手と結婚していた。さらに少年の父のかつての妻と、少年の母のかつての兄は兄妹だったのである。既婚でありながら、父は義弟の妻に一目惚れしてしまう。そして戦時中にそれぞれの相手が亡くなったのである。特に父のかつての妻と二人の子どもは逃亡直前にユダヤ人と見抜かれ収容所に送られた。
ちょっと複雑な感じの筋だが、「ユダヤ人」であることと「秘密の恋」が、戦後を生きる虚弱な少年に影響していく。心理サスペンス映画的な感じの作品で、とても完成度が高い。セザール賞に沢山ノミネートされたが、結局一家の友人役のジュリー・ドパルデュー(ジェラール・ドパルデューの娘)だけが助演女優賞を獲得した。ヨーロッパ映画ではやはり第二次大戦が時代背景になっていることが多いなと思った。『ある秘密』『伴奏者』の緊迫感は高く完成度も高いように思う。
「誰よりも映画を知りつくし、それを手中にした監督」とチラシにあるように、確かにスラスラ見られて面白い。でも何かもう一つ足りない感じがする。フランスでも日本でも大きな賞を取るような監督ではなかった。「知りつくす」だけではダメで、かつて彼が助監督に付いた巨匠の名作のような独自の文体がない。だけど、フランス語を聞きながらドキドキ見られる佳作揃いだった。
(『なまいきシャルロット』)
でも僕はこの人の名前を覚えてなかった。1976年に長編劇映画の監督になり、『なまいきシャルロット』(1985)、『小さな泥棒』(1988)でシャルロット・ゲンズブールをスターにした。この題名は記憶にあるが、当時は見なかった。シャルロットはセルジュ・ゲンズブールとジェーン・バーキンの娘で、14歳で『なまいきシャルロット』に主演してセザール賞新人女優賞を取った。だけど、題名からアイドル売り出しのスター映画かと思い込んでいた。実際は思春期の息づかいを細やかに描いた佳作だった。
(クロード・ミレール監督)
オリジナル脚本だがカーソン・マッカラーズ『結婚式のメンバー』のような作品で、マッカラーズの著作権管理者から訴訟を起こされたという。その決着は知らないけれど、ある夏の少女が町を出て行きたいと望む焦燥感を描き出すという点が似ている。ただ、この映画では同年代の天才少女ピアニストに憧れて、お付きの係になりたいと思い込むのである。場所は湖を臨む避暑地のような町で、天才少女は豪邸に住んでいる。「ひと夏の少女」という映画は多いが、中でもこの映画は見どころが多い。またトリュフォー映画でなじみのベルナデット・ラフォンがシャルロットの家の家政婦役でセザール賞助演女優賞を取っている。
(『勾留』)
製作順では『なまいきシャルロット』より前の1981年作の『勾留』は今回が初公開。連続幼女レイプ殺害の容疑者を、刑事リノ・ヴァンチュラが大みそかに署に呼んで取り調べる。被疑者は否認するけど、やがて妻(ロミー・シュナイダー)がやってきて…。僕はあんまり面白くなかった。取り調べ方法が国によって違うのは当然だが、あまりにも不自然である。証拠を突きつけるのではなく、状況面だけグダグダとやり取りする。日本の刑事ドラマで日本の警察を理解するのは無理だけど、同じようなことがフランス映画でも言えるんだろう。
(『伴奏者』)
『伴奏者』(1992)はドイツ軍占領下のパリで、ドイツ軍にも大人気の女性歌手がいて、伴奏者を求めている。20歳の若く貧しい少女が選ばれたが、歴史の流れに翻弄される。ニーナ・ベルベロワという亡命ロシア人の小説の映画化。主演の少女ソフィーは大歌手イレーヌにすっかりのぼせて憧れる。この歌手はエレナ・サヴォノヴァというロシア人女優が演じて大変な貫禄である。ニキータ・ミハルコフ『黒い瞳』で主演していた人。歌手の夫はドイツ軍やヴィシー政府と協力してきたが、風向きが変わりつつあるのを感じて、スペイン、ポルトガルを経てロンドンの自由フランス政府に参加しようとする。何回かの演奏会シーンとともに、この逃亡劇が山場になる。ところがイレーヌには秘密があった。ソフィーは何とか悲劇を防ごうとするが…。
(『ある秘密』)
一番の傑作は『ある秘密』(2007)だった。これも戦時中が舞台になっていて、フィリップ・グランベールという人の自伝的小説の映画化だという。第2次大戦後、スポーツが得意な両親のもとに、病弱な少年がいる。一人っ子のはずなのに、少年は兄がいると言い張っている。そこから時間は戦時中に戻り、戦時下フランスのユダヤ人迫害の物語になる。しかし、内容はかなり複雑で、二組の夫婦がいる。先の少年の父と母は大戦前に別の相手と結婚していた。さらに少年の父のかつての妻と、少年の母のかつての兄は兄妹だったのである。既婚でありながら、父は義弟の妻に一目惚れしてしまう。そして戦時中にそれぞれの相手が亡くなったのである。特に父のかつての妻と二人の子どもは逃亡直前にユダヤ人と見抜かれ収容所に送られた。
ちょっと複雑な感じの筋だが、「ユダヤ人」であることと「秘密の恋」が、戦後を生きる虚弱な少年に影響していく。心理サスペンス映画的な感じの作品で、とても完成度が高い。セザール賞に沢山ノミネートされたが、結局一家の友人役のジュリー・ドパルデュー(ジェラール・ドパルデューの娘)だけが助演女優賞を獲得した。ヨーロッパ映画ではやはり第二次大戦が時代背景になっていることが多いなと思った。『ある秘密』『伴奏者』の緊迫感は高く完成度も高いように思う。
「誰よりも映画を知りつくし、それを手中にした監督」とチラシにあるように、確かにスラスラ見られて面白い。でも何かもう一つ足りない感じがする。フランスでも日本でも大きな賞を取るような監督ではなかった。「知りつくす」だけではダメで、かつて彼が助監督に付いた巨匠の名作のような独自の文体がない。だけど、フランス語を聞きながらドキドキ見られる佳作揃いだった。