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絵本の話を中心に、好きなもの、想うことなど。

感動の落とし穴

2006-07-25 17:25:35 | 好きな絵本
 出会ってから2週間余りがたち、やっとこの絵本を手元に置くことができました。
 題名は『ムニャムニャゆきのバス』  長新太 作

 先日の長新太展で、初めてその存在を知り、原画の力強さに魅せられ、ふらふらと本を
開きはじめたら‥すとんと、穴に落ちてしまいました。そう、感動の落とし穴にです。

 この本の何が凄いって、まず手描きのタイトル文字と、タイトルそのもの。見返しの、くねくね曲がっている
道が、よーく見るとちゃんと「ムニャムニャ」と書かれているところ。赤い大地を走リ抜けていく、生きている
(としか思えない)黄色いバス!
 ダイナミックとか、ナンセンスとかいう言葉は、この絵本のために使いたい、と思います。

 
 お話のはじまりはこんなふう。

 はるか かなたより「ムニャムニャゆき」のバス
 やってくる。「ベエーベエー」と、ブザーのおと。
 だれかおりるらしいよ。

 「ベエーベエー」は、全編を通してのキーワードになっていて、懐かしい、昔のバスのブザー音を
思い出すとともに、アッカンベーのべーにも繋がっているような気がしてきます。なぜ、そう思ったのか
といえば、ベエーの後にこのバスは、吐き出すようにいろんなものを中から「降ろして」くるからです。

 海のさかな・三角定規・トマト・ズボン・むかしの人(徳川家康)・
 竜・目玉やき・バス・透明人間

 これ全部、バスから降りて(吐き出されて)きたのです。

 
 バスの中から バスがおりてきたぞ。
 バスが子どもを うんだのかしら。 
「ベエーベエー」

 
ここらあたりもかなり凄いと思うのですが。ただの「笑い」から「感動のため息」へと、私の気持ちを
高めたのは、お話もそろそろ終盤にさしかかったときに、突然現われたバスの「まえ」とバスの「うしろ」。
 これはもう、実際に本のページを繰ってもらわないとわからないと思うのですが、目玉やき の間に
突然、バスを前から見たところと、後ろから見たところの絵が入るんです。普通に考えれば、その「絵」は、
始めにはいってしかるべきですよね。ここまで、色々出しちゃってから今さら「紹介」もないんじゃない、って
感じなんですが。その「落とし具合」というか、その力加減の絶妙さに、足元から崩れ落ちてしまいました(笑)。
 長さんは、すごい。長さんは凄い!っていろんな方が言っていますが、私が心底そう感じた瞬間でした、
このページ。

 この絵本が出版されたのは、1991年。その頃、世界は湾岸戦争で、その前年にローリングストーンズが
初来日を果たしたことは覚えています。しかし、その頃の絵本の世界は、どのようなものであったのか、
私はまったく知りません。それから15年の年月が流れ‥こうしてこの絵本に感動を覚えることができる自分を、
私は「うれしい」と思います。

 が、それにしても、なぜこの絵本はあまり「出回って」いないのでしょうか???

 ちひろ美術館のショップにも、期待していたトムズボックスにも、大型書店にもありませんでした。
図書館の棚でも一度も見かけたことがありません。私だけがそうだったのでしょうか。それならそれで
いいのですが、もしも、みなさんも見たことがないのであれば、それはとってもとってももったいないことだと
思うのです。
 
コメント (10)
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