少し前MAKIKYUは日帰りで静岡県内へ足を運ぶ機会があり、その際には小田急線~JR御殿場線直通特急「あさぎり」号にも乗車したものでした。
「あさぎり」号は私鉄車両の国鉄~JR直通運転列車としては、かなり老舗的存在の列車で、1991年に使用車両刷新が図られた際、運行区間が新宿~御殿場間から新宿~沼津間に延伸され、現在に至っています。
91年に使用車両刷新が図られた際には、今まで小田急側の片乗り入れだった運転形態を改め、JR側も専用車両を用意する事で、原則として半数をJR車両で運行する相互直通運転としたのも大きな特徴です。
この際導入された車両は、小田急側が20000形「RSE」、JR側が371系と呼ばれる車両で、後者は「あさぎり」号以外に静岡地区の東海道線ホームライナーでも運用されますので、1編成しかない車両にも関わらず、MAKIKYUはホームライナーも含めると既に4回程乗車しており、2階建て車両の2階(グリーン車)と1階、平屋の全てを利用した事があります。
しかしながらRSEは2編成あり、「あさぎり」号以外に小田急線内の一部特急にも充当され、見かける機会は時折あるにも関わらず、乗車機会は随分前に小田急線内で「あさぎり」号を利用した一度だけ…という状況でした。
(写真は小田急線内特急に充当されているRSEで、以前別記事で使用した画像の再掲です)
そのためMAKIKYUは小田急ファンながらも、余り縁のない車両と言う有様でしたが、さほど古い車両ではないとはいえども、継続使用するにはそろそろ更新時期に差し掛かり、2編成しかない特殊車両である上に、ハイデッカー構造のためバリアフリー問題も抱えるが故に早くも「引退」が発表され、終焉を迎える前にもう一度…という事で、先日久々にRSEに乗車したものでした。
ちなみにMAKIKYUが先日の乗車区間に選んだのは御殿場→沼津間で、小田急ファンらしくない選択と思う方も居られるかと思いますが、この区間は3月のダイヤ改正以降に小田急の車両が営業運転する機会が消滅(車両メーカーからの搬入ルートでは引き続き御殿場線が利用されると思いますので、乗れない甲種輸送列車であれば、今後も時折小田急車両の姿を見る事は出来るかと思います)し、小田急の車両内で上写真の様な案内表示を見る事も叶わなくなります。
おまけに御殿場~沼津間は特急料金が自由席利用で310円(乗車後に車内巡回の車掌が発券)と割安に設定され、ホームライナー感覚で手頃に利用できるのも有り難く、この特急券を乗車記念に持ち帰る事ができるのも、同区間を選んだ要因となったものでした。
(余談ながら小田急線内は全席指定制である上に、指定の特急券を持たずに乗車すると別途車内発券料金がかかりますので、同一列車でも区間によって扱いは対照的で、関東と西方の鉄道事業者における優等列車や特別車両に対する考え方の違いが、こんな所にも現れています)
「あさぎり」号自由席の案内看板も、今度の改正における運転区間短縮と共に用済みとなり、この看板自体も恐らく撤去される運命かと思います。
そして御殿場駅でやって来た「あさぎり」号のRSEは、終焉が近い事から側面に「THE LAST RUNNING」と書かれたステッカーを貼り付けていたのも特筆点と言えます。
側面の列車名・行先表示がドア上に設置されているのも独特でユニークですが、導入当時はまだ余り普及していなかったLED式(当然3色)となっており、昼間などは視認性の面でやや難ありと感じてしまう事があるのは難点です。
車内に足を踏み入れると、グレー系統の内装は個人的にはやや暗めに感じてしまい、好みが分かれる所かと思いますが、車両間やデッキと客室との間に設けられた仕切り扉のガラス配置が、三角形などを組み合わせた類を見ない独特なものになっているのは目を引きます。
平屋車両の普通車座席は、特急車両では一般的な背面テーブル付きの回転式リクライニングシートで、向かい合わせにした際にもテーブルが使える様に、背面テーブルとは別に、窓側に折り畳みテーブルを設置している点は、小田急ロマンスカーならではと言えます。
しかしながら普通車座席はさほどシートピッチが広いとは言い難い上に、座席下の足元が詰まっており、ゆっくりと足を伸ばしてくつろぐ事が出来ないのは大きな欠点と感じてしまいます。
30分程度の乗車ならともかく、全区間乗り通すと約2時間を要する新宿~沼津間通し乗車では…と感じてしまうのは頂けないもので、この点は同じ「あさぎり」号に充当され、兄弟車両として対比される事が多いJRの371系に軍配が上がります。
(小田急ロマンスカー車両も、30000形「EXE」以降は座席下に足を伸ばせる構造となっており、3月のダイヤ改正以降に足元が狭く感じてしまう特急車は7000形「LSE」のみとなります)
RSEはJRとの相互直通協定に基づいて製造された車両だけあって、小田急では唯一の2階建て車両を2両組み込み、その2階部分はこれまた小田急で唯一の特別車両・グリーン車(スーパーシート)となっているのも大きな特徴で、グリーン車座席は大柄な2+1列配置の座席が並んでいますが、MAKIKYUが乗車した際には平屋普通車はそこそこの乗客を見かけたのに対し、こちらは料金差も影響してか、2両共に空気輸送状態で設備を持て余していたのは惜しい限りでした。
また2階建て車両の1階部分は、371系電車は2両共に2+1列配置の座席が並ぶ普通車になっているのですが、RSEでは1両がボックス席配置でガラス製仕切りによって仕切られたセミコンパートメントになっているのも特徴で、MAKIKYUが乗車した際にはこちらも乗客の姿を見かけなかったものでした。
とはいえ現在箱根特急の花形として活躍する50000形「VSE」にサルーン席と称するグループ客向け座席が設置されているのも、RSEにおけるセミコンパートメントの実績が…という事も考えると、先駆的設備として特筆点と言え、「あさぎり」号だけでなく、休日に箱根特急で用いられる事もある車両ならではの設備とも言えます。
このRSEは車齢約20年と、引退するにはやや早い印象があり、現在某地方私鉄が購入交渉を行っているという情報もありますが、特徴的な2階建て車両の運行などは厳しく短編成化されるにしても、出来ることなら第2の活躍舞台を見出し、新たな地での再活躍に期待したいものです。
そして今後「あさぎり」号は60000形「MSE」による小田急車両のJR御殿場線片乗り入れになり、運行区間も新宿~御殿場間に短縮されるなど、RSE導入以前の運行形態に逆戻りする格好となりますが、小田急車両で2階建て車両やグリーン車を組み込み、沼津まで営業運転で足を伸ばしたのはRSEが唯一無二の存在で、これらの功績を末永く記憶の片隅に留めておきたいものです。