MAKIKYUは8月に所用が立て込んだ事もあり、今年夏の青春18きっぷは9月に入ってもまだ3回分が残存する有様でしたが、北陸~関西方面へ出かける際に2回分を使っただけでなく、1回分は日帰りで北関東方面へ足を伸ばす際にも利用したものでした。
その際には久々に栃木県内を走る非電化ローカル線・烏山(Karasuyama)線にも乗車したのですが、同線線は全線非電化で、機関車牽引の客車列車による旅客列車運行もありませんので、基本的には気動車(ディーゼルカー)による運行となっています。
そのため時刻表で烏山線の項を見ると、同線を走る列車の大半は、列車番号の末尾に気動車を示す「D」が付いているのですが、今年春以降、列車番号が電車を示す「M」となっている列車が3往復設定されており、時刻表を見て違和感を感じた方も少なくないかと思います。
比較的近年でも学研都市線(札沼線)や福北ゆたか線(篠栗線・筑豊本線)などの様に、都市圏線区で輸送量が増大し、電化されて気動車列車が電車運行に代替される路線が幾つか存在していますが、烏山線はこれらの路線の如く…という状況ではなく、当然ながら電化工事も行われていません。
この様な状況の烏山線に何故電車が…と感じる方も居られるかと思いますが、JR東日本では近年、蓄電池を用いた充電式電車の試験車両・E995系の試験運行を行っており、JR九州でも既存営業用車両(817系電車)を改造し、試験運行を行った実績があります。
こんな事を記すと、E995系を営業用に…と早合点する方も居られるかもしれませんが、同系を営業用に改造した訳ではなく、同系の試験運行実績を元にした新形式車両を別途導入しており、この新形式車両がEV-E301系電車です。
「ACCUM」という名称が付けられた同系は、先行導入という事もあってか、現在では2両1編成のみの存在で、営業用車両では国内初の蓄電池駆動電車と言う事もあってか、烏山線が走る栃木県内だけに留まらず、全国的にも非常に注目される存在となっています。
そのため今年春の営業開始初日には、普段なら昼間はガラガラの烏山線が、ACCUM目当ての乗客が殺到して超満員となり、2両と言う短編成では多客を捌ききれずに積み残しも発生、JR側も多客を見越して代行バスを用意して対応した程です。
知人の中には、わざわざ大混雑が予想されるACCUM営業初列車に乗車し、余りの混雑振りで乗り心地を堪能するどころでは…とぼやいていた者もいますが、MAKIKYUは営業開始直後の混雑を見越してか、営業開始から少し時間が経過した頃にでも…と思っていました。
そのためようやく先月ACCUMに初乗車する事になったのですが、小海線で運行中のシリーズ式ハイブリッド気動車・キハE200形「こうみ」などに近い乗り心地ながら、発電用エンジンを搭載する代わりに集電機構を備え、大容量化した蓄電池へ充電した電力のみで運行していると言っても過言ではありません。
騒音・振動元となるディーゼルエンジンがないため、静粛性に関しては発電用エンジンが稼動していない状態の「こうみ」などと同レベル、気動車の中でも今日では古参の部類に属し、烏山線でも主力車となっている、煩い音と振動を発する「重たく非力な旧型気動車」キハ40系(現在ACCUM以外の定期列車では、基本的に他形式の充当なし)とは大違いと感じたものでした。
車内には行先や停車駅などの旅客案内とは別に、蓄電池への充電状態などを案内するLCDモニターが装備されているのは、やはり新機構を採用している事を大々的にPRしている「こうみ」などと同様で、非電化区間(烏山線内)での蓄電池による電力での運行時、電化区間(宇都宮線内)での架線からの電力による運行時、架線からの充電時(烏山駅設置の充電設備使用時を含む)や回生ブレーキ使用時など、状況に応じた蓄電池の状況が案内されます。
性能的にもそこそこの加減速性能を確保している様ですが、検修時代走などを考慮し、鈍足ぶりで有名なキハ40系に合わせたダイヤで運行している事が災いし、のっそりとした走りは相変わらず…と感じたものでした。
またJR東日本の新型一般車両だけあり、近年続々と登場している新型一般車の他形式と類似する点も多数見受けられ、当初の構想図では、客ドア窓がE233系タイプの四隅が角張ったものでしたが、登場した実車はE231系などと同種にガラス4隅の丸みが強いもので、車内側も化粧板仕上げではなく金属地剥き出しとなっている辺りは、少々残念に感じたものでした。
(車外のLED式行先表示も烏山線では色分け表示の必然性は低いものの3色LEDとなっており、これもE233系ではなく一世代前のE231系レベルです)
デザイン的にも非貫通方の先頭車は、E233系の如くやや丸みを帯びているのが特徴とはいえども、名古屋のあおなみ線を走る電車を連想させる、機能本位のシンプルな形状となっており、側面ドア配置なども加味すると、E233系とあおなみ線電車を足して2で割ったと言っても過言ではない雰囲気を感じたものでした。
烏山線の運行距離が比較的短い事もあってか、車内も現在主力となっているキハ40系烏山線用改造車と同様に、トイレなしオールロングシートとなっていますが、ロングシートはJR東日本ではありふれたタイプながらも、座席下の足元が空いている片持ち式ではないのも特徴です。
そのためメカ的には目新しい反面、設備的には簡素な印象が強く、車端部分の蓄電池格納区画はトイレと大差ない大きさの張り出しとなっている事から、トイレを探し出す乗客も散見する状況だったのには閉口させられたものでした。
ただ設備的には簡素な印象が強い車両ながらも、床材や天井周りのデザインなどは「某社レンズ付きフィルムによく似た名称で呼ばれる事が多い電車」の一部などに比べれば、見栄えのするものとなっており、LEDを用いた蛍光灯も、取り付け部分のデザインなどは一工夫されていると感じたものでした。
また近年各地の新型車などでは、客ドアに注意を喚起する黄色のマーキングが施される事が多くなっていますが、ACCUMではマーキングを施す代わりに、客ドアのゴム自体を注意喚起を表す黄色としているのも大きな特徴で、この試みは今後他車両で追随する動きが出ても…と感じたものでした。
この「ACCUM」は今後も増備され、烏山線から旧型気動車を全て駆逐する計画となっており、それ以外の路線でも導入が行われるのか否かも気になる所ですが、その際には現在活躍中の車両と同仕様になるのか、それとも電車の現行最新車種・E233系や、今後の登場が発表されているE235系などに合わせた変更点が出てくるのかも気になる所です。