以前も茨木のり子さんの「わたしが一番きれいだったとき」という詩をブログに載せました。
今回 もう一度ブログに載せたいと思いました。
少し長い詩です。
わたしが一番きれいだったとき
わたしが一番きれいだったとき
街々はがらがら崩れていって
とんでもないところから
青空なんかが見えたりした
わたしが一番きれいだったとき
まわりの人達が沢山死んだ
工場で 海で 名もない島で
わたしはおしゃれのきっかけを落してしまった
わたしが一番きれいだったとき
だれもやさしい贈物を捧げてはくれなかった
男たちは挙手の礼しか知らなくて
きれいな眼差だけを残し皆発っていった
わたしが一番きれいだったとき
わたしの頭はからっぽで
わたしの心はかたくなで
手足ばかりが栗色に光った
わたしが一番きれいだったとき
わたしの国は戦争で負けた
そんな馬鹿なことってあるものか
ブラウスの腕をまくり卑屈な町をのし歩いた
わたしが一番きれいだったとき
ラジオからはジャズが溢れた
禁煙を破ったときのようにくらくらしながら
わたしは異国の甘い音楽をむさぼった
わたしが一番きれいだったとき
わたしはとてもふしあわせ
わたしはとてもとんちんかん
わたしはめっぽうさびしかった
だから決めた できれば長生きすることに
年取ってから凄く美しい絵を描いた
フランスのルオー爺さんのようにね
この詩に関して、茨木のり子さんは、次のように述べられています。
今、お友達とも良く話すんですけど、若い頃ってかろやかな楽しみが多かったですね。
ええ、かろやかな。
年を取るとおもったるくなっちゃうの、すべてがね。
今はものがあふれてるから、そんなことはあまりお感じにならないかも知れないけど、私達はもう、靴一足買ってもうれしかったわけよ。
それからレインコート買っても嬉しかったしね。
そういうささやかな楽しみっていうのはありました。
でも、おしゃれをしたいとか、そういうことはできなかったのね。
ただ、ああ、今二十歳なんだって思ったときがありました。
鏡見たら、目が真っ黒くろに光っててねえ。
うーん、そうか、今二十歳なんだ、今が一番きれいなときかもしれないっていうふうに思ったのね。
残念なのは、自分の若さが誰からもかえりみられないということ、特に男性達から。
かえりみられるっていうとおかしいんだけどなあ。
それで、私がラブレターをもらったことがないって書いたら、みんなにびっくりされるんですけどね。
ひとっつもないの(笑)。
だからやっぱり時代的なものもあるし、それからやっぱり魅力がなかったのかな?
男達はみんな戦争に負けたってことで、みんな自信を失ってたと思うのね。
だから、そういうさびしさっていうのもあったんだろうなっていうのも、今になって思うんですけどね。
「わたしが一番きれいだったとき」は、はじめはいい気な詩を書いたってみんなにいわれたんですよ。
いちばんきれいだなんて自分のこと言ってるってね。
ところが、ほんとに自分でも無意識だったんですが、私と同世代の人達は、自分たちを代弁して、自分達の世代をうたってくれたっていうふうに読んでくれる人が多くなって。
それから、アメリカのフォークソングの草分けで、ピート・シガーって人がいるんですが、その人が作曲してくれたんですね。
そのときはちょうどベトナム戦争の時だったんです。
それで私ははっきり言葉で聞いたわけではないんですが、ピート・シガーって人は、あれをもっと越えたものとしてとらえてくれたなってうれしさがありました。
つまり、ベトナムにはベトナムの、一番美しい時を持った少女たちがいたわけですからね。
そういう子達の思いっていうのもふくめてくれたなって。
だから、そういい気な詩ではなかったなって今になって思うんです。
一番美しいときは、やっぱり最高に輝いてほしいわけ、どこの国の少女たちにもね。
戦争なんかで惨憺たる思いさせたくないじゃないですか。そういう願いの詩ととってもらえればね。
あれを書いたのは30過ぎなんですけど、それまでにもずっとそういう思いっていうのがあったわけではなくて、なんとなく、書きはじめたら最初から最後までつーっといっちゃって、ほとんど推敲しないでできちゃったのね。
ちょっと珍しいんです、私にとっては。
いつでも途中まで書いて、後で読むといやだなあって思ったりするんですけど。
言葉がどんどん並んできたから、やっぱりあれはできるべくしてできた詩かなあ、と。
誰かに書かされたかなあって感じもします。
以上です。
私が思うには、女性の16歳から22歳くらいまでは特に輝いているように見えます。
その時に、男性から声がかけられないということは大変な悲劇のように思います。
恋愛御法度の戦時中、その時代に一番きれいな時を迎えたなんて悲しすぎます。
茨城さんはラブレーターを一通ももらわれなかったらしいですが、戦時中にラブレターなんて出せないですよね。
憲兵に知れたら、半殺しの目に遭うのですから。
戦争って、若者たちが一番輝いている頃を無にしてしまうんですね。😅
君をのせて 沢田研二