中日新聞の社説に、下記の事が書かれていました。
トルストイを読み直す 戦争と平和を考える
2022年5月6日

ロシアの文豪、レフ・トルストイ(一八二八~一九一〇年)=写真(右)、左は孫娘=の小説「戦争と平和」が、じわり売れています。
文庫本の新訳が昨年完結した光文社によると、ロシアによるウクライナ侵攻後、書店からの注文がほぼ二倍になったそうです。
十九世紀初め、フランスの皇帝ナポレオンによるロシア遠征。
その経緯と、戦争に巻き込まれたロシアの人々を描いた名作です。
戦争はなぜ起きるのか。人生をどう生きるべきか。三千ページ超の長編作品には、作家がいくつもの問いに誠実に向き合った跡が刻まれています。
今、この本を手に取る読者は、ウクライナの戦場と重ねずにいられないでしょう。
戦争の愚かさと平和の尊さが、次々と目に飛び込んでくるからです。
プーチン大統領の「誤読」
この小説では、ロシアは侵略される立場です。
若い伯爵は戦場で砲弾を至近距離で浴び、フランス兵と生身でつかみ合って死線をさまよいます。
見渡せば、同僚は血だまりの中で死に、瀕死(ひんし)のまま見捨てられた兵士もいます。
「もう彼らはこんなことをやめるだろう、自分のしでかしたことにぞっとすることだろう!」
伯爵の心の叫びです。
このロシア遠征はトルストイが生まれる前の出来事ですが、トルストイは二十代でクリミア戦争(一八五三~五六年)に従軍し、戦場を肌で知っていました。
伯爵のせりふは、作家の実感に違いありません。
ウクライナの悲惨さは小説を超えているとも言えます。
殺傷力の高い戦車やミサイルなどに加え、化学兵器の使用も疑われています。
小説では軍隊同士の戦いですが、今起こっている現実の戦争では、民間人が虐殺され、強制連行されています。
後年、非暴力主義に達したトルストイです。
母国ロシアの蛮行を目の当たりにすれば、何と言うでしょう。
「あらゆる小説の中で最も偉大な作品」(作家サマセット・モーム)とも評された「戦争と平和」ですが、光文社版を翻訳した望月哲男・中央学院大学特任教授によると、作家の死後、ソ連共産党の政権下では、その平和思想は顧みられず、小説に描かれた祖国防衛の一面だけが国威発揚のため強調されたそうです。
戦争文学が反戦でなく、過激な愛国主義へとねじ曲げられることは、今のロシアでも続きます。
同国のネットメディアによると、他ならぬプーチン大統領が最も影響を受けた作品に「戦争と平和」を挙げているのです。大いなる誤読と言わざるを得ません。
プーチン大統領よ、今すぐ読み直せ、と言いたい。
息子を失った父母が、嘆き悲しむ場面を。
敵だったロシア兵とフランス兵が、友人として心通わす場面を。
そして、侵略者ナポレオンがいかに滑稽な存在として描かれているかを。
ロシアに反戦伝えねば
「また戦争。誰にも無用な、何の理由もない苦難、虚偽…」
一九〇四(明治三十七)年「悔い改めよ」と題した論文が英国の新聞に載りました。
日露戦争で戦火を交える日本とロシアを批判し、停戦を説く内容です。
著者は七十五歳のトルストイでした。
指導者は危険を冒さず、国民を戦場に送っている。
文明が危機に直面する今、局地的戦争も世界的災厄をもたらしかねない。
軍人も外交官も皇帝も、職務の論理に従う前に一個人として悔い改め、「殺すな」の教えに返れ、と。
この「説諭」は、日露戦争の終結を早めたとは言い難いものの、後のインド独立運動の指導者マハトマ・ガンジーを勇気づけ、非暴力を掲げた植民地解放につながりました。
トルストイに倣い、命の尊さをロシア国民に粘り強く説き続ける愚直さこそが今、世界平和のために求められています。
民主主義、自由、平等、人権尊重…。おびただしい犠牲の上に、人類がたどり着いた普遍的な価値観を、世界に広めていくしかないのです。
情報統制や人権弾圧が厳しいロシアでも、反戦を表明する人々は存在しますし、国外への脱出者も増えています。支援や連帯のために知恵を絞りたい。
「ロシアの皆さん、『戦争と平和』を読み直してください」
こんなメッセージも、決して無駄ではないと信じます。
以上です。
>指導者は危険を冒さず、国民を戦場に送っている。
その通りです。
プーチンも安全な場所に姿を隠しているらしいです。
自分の命は大事ですが、兵士の命は虫ケラ扱いです。
戦争をするなら、プーチンが先頭を歩け!
仮にプーチンが死んでも、代わりの指導者はいくらでもいる。
自分の安全を図り、国民を戦場に送る指導者はプーチンだけではなく、戦争を仕掛けた指導者のほとんどが当てはまります。
「戦争と平和」の本は長すぎて途中で挫折しましたが、読み直す必要がありそうです。
ママに捧げる詩 / Mother of Mine [日本語訳・英詞付き] ニール・リード