さて11月21日、いよいよ最終運転となった「ありがとうキハ28・58号」である。車内は多くの「その筋」の客たちが乗り込み、発車するや思い思いの行動をとる。あちこちで花咲く鉄道談義というのも、耳にして面白い人には面白いだろうし、興味ない人には全く何のことやら、気色悪い話をしているとしか聞こえないところである。これまでの「葬式鉄」歴を語るツワモノがいるかと思えば、岡山到着後は新幹線で東京に戻るんだとかいう輩もいるようだ。
・・・それらに対抗するわけではないが、ここは「飲み鉄」に徹することにしよう。津山駅の入場前に売店で購入したワンカップ大関をテーブルに並べる。急行列車、特に気動車ともなればワンカップがお似合いかと。それにスルメイカを肴にしてボックス席でちびりちびりと。ちょうど相撲の時間やなということで、携帯のワンセグでNHKの相撲中継を見る(途中で電波が途切れたが)。私にとってはマイペースであるが、周囲から見ればそういう私のほうこそ浮いた存在なんだろうな。
それにしても、鉄道ファンって酒を飲まない人が結構多いような気がする(勝手な思い込みかもしれないが)。いわゆる「その筋」は特に。まさに鉄道に関しては何らかの戒律があるのか、鉄道以外のことには何ら嗜好物をたしなまないとか??
日の短い季節、津山駅を出るとすぐに暗くなる。外を見れば小さな駅のネオンが飛び込んでくる。こうして駅をすっ飛ばすのはかつての急行を髣髴とさせるものだろう。ちょうど東の空には満月に近い円い月が出ており、夜の美作から備前へと走りぬける急行型気動車を映し出す。
津山駅では記念の入場券も売られており、こちらもいい記念となる(それにしても、巧みに立ち回って乗車証明書を何枚もせしめた輩がいるのはやはりな・・・。それも投機対象か)。
18時03分、唯一の停車駅となる金川に到着。8分停車ということで、到着するやいなや列車から飛び出し、ホームから跨線橋を駆け抜ける大勢のファンたち。対向式のホームということで、反対側ホームから列車の全体図を撮影しようということである。暗いということで三脚を持ち出す人もいる。
金川を出発するといよいよ次は終着の岡山である。「50年近い歴史に幕を閉じようとしています」という車掌のアナウンスも聞こえる。車内からも「まだ走れるのに」「残念ですね」という声が聞こえてくる。
そして車窓にベネッセ岡山本社の建物が見える頃、オルゴールが鳴って岡山到着を告げる。ゆっくりと岡山駅のホームに進入する。向かいのホームでもカメラを構える人が多い。
18時46分、岡山駅に到着。最後の姿を撮影しようとホームに群がる人たち。・・・とはいうものの昨今の新幹線やブルートレインの廃止時のようにホームに立錐の余地なく群がるというほどではなく、これは岡山だからか車両のためか、あるいは夜になったからか、当初予想していたのと比べれば落ち着いた感じである。ごく普通に津山線を利用しているであろう女の子も余裕で携帯で車両の撮影をやっていたくらいだから。
キハ28・58は10分くらい停車し、そして車両区に去っていく。中には拍手を送る人もいたが、最近この手の場面で展開される「ありがとう!!」とかの歓声や、撮影を邪魔する人に対する罵声などは聞こえず、静かな幕引きとなった。「もうちょっとみんな見送ってあげればいいのに」と話す人も。
さて、これで半日の仕事?を終えたような心持。まだ時刻は19時前である。ということで、岡山に来れば私にとって定番の居酒屋ということで、駅前高島屋横の「鳥好」へ。日曜の夜でも次から次へと客がやってくる大衆酒場。
カウンターに陣取り、乗車後の疲れを癒す一杯を注文。ただ、あれこれ注文したり、料理が来る前にトイレに行ったり、席につくとジョッキをあおったり、最初なかなかバタバタしていた様子で、隣に腰掛けていた年配のご夫婦から「結構忙しそうですね」と声をかけられる。
しばらく飲んでいると、入口すぐの長テーブルに予約の団体さん。それがまあ、西洋人の団体さんである。何の団体だろうか。日本人の幹事らしい人が注文を取りまとめ、中国人の店員にオーダーするのも正にインターナショナル。それにしても日本酒で手酌するのもやけに慣れた手つきだし、串のやきとりも普通にかぶりついているし、実は岡山在住の長い人たちなのかもしれない。それにしても、この店に来るたびに必ずといっていいほど西洋人を見る。ガイドブックにでも紹介されているのかしらん。
その団体さんのほうを見ていると、「娘がおったらなー、ああいう人たちともいろいろ話できるんじゃが」と、隣の奥さんがポツリ。ご夫婦は岡山で娘さんは倉敷に住んでいるとのことだが、カナダへの留学歴もあり英語が堪能だとか。うーん、私のほうこそ「そういう娘さんが隣におったらなー」ってなもんである。
ご夫婦も先にお開きとなり、私も時計を見るうちにそろそろ時間が近づいたのでお開きとする。時計を見ていたのは列車の都合。
岡山から乗車するのは20時44分発のこだま号。これが今やこちらも数少なくなった国鉄型・100系新幹線である。少し前までは山陽新幹線のこだま号で広く使われていたが、500系の「都落ち」に伴いその数は年々減っている。
これに隣の相生まで乗車。自由席特急券も950円で済むし、鈍行の本数も少ない区間を一気にクリアすることができる。急行型気動車の次は国鉄型新幹線。なかなかお後がよろしいようだ。
こういう「お別れ乗車」、指定券は取れないし大勢の人に囲まれて疲れる感じであるが、それでもまあ、やはり乗車するのは思い出になる。おもえらくはもう少し静かな風情の中で楽しみたいのだけど・・・・それはさすがにぜいたくか。
この日で引退したキハ28・58は津山駅横の扇形機関庫にて保存されるという。シーズンの土日に予約制で公開しているのだがまだ訪れたことがない。いずれ津山を再訪し、今度はホルモン焼きうどんとともに楽しみたいものである・・・・。