松本から上諏訪に向かう列車が塩尻に停車中に電話をかける。
「はい××です!」電話の向こうの声は大きかったがその中身がよく聞き取れなかった。予期していたのとは違う名前だったので、間違い電話かなと思った。でも携帯サイトにあった電話番号のリンクを押したのだから間違いはないはずである。そこで訊いてみた。「あの、信玄屋敷さんですか?」
すると相手は「ああ」という感じで「そうでしたが、店の名前が変わりまして、今は蛍といいます」「お一人ならカウンター空いてますから、予約なしでいつでもどうぞ」と言われる。盆の時期である。ひょっとしたら早々と満席になるかなと思って電話したのだが、それならば安心である。
上諏訪に到着してルートインホテルにチェックインする。諏訪に泊まるのは4年ぶりだが、前回もこのホテルに連泊している。
さて再び駅に戻る。駅前には「まるみつ百貨店」という、温泉浴場も備えた百貨店があるのだが、どうも様子がおかしい。土曜日の夕方18時だが、いくら百貨店といっても閉店が早過ぎではないか。また看板や照明もはがれた感じである。後でわかったが、このまるみつ百貨店、2011年2月に閉店したという。それとともに温泉も閉店(看板は残っているのだが)。
この記事を書いているのは9月になってからだが、8月31日には南海和歌山市駅の高島屋が閉店。また熊本ではその名前が印象的だった県民百貨店も閉店するという。地方経済の空洞化、百貨店業界の衰退・・・という現在の諸相がここにも現れている。上諏訪には何回も来ているが、ついに百貨店の中の温泉には入らずじまいだったのが残念である。
さてやってきた駅前の「蛍」。4年前に来たときに偶然見つけ、信州の地のものをいただくことができた。その時は信玄屋敷という店名だったのだが名前が変わったわけだ。ただ店の中はそのままのようで、カウンターに通される。
今は交通も発達しているし、盆地の料理屋に魚の刺身が出るのも不思議ではないが(それでも、お通しがマグロ赤身の切り落としというのはすごい)、信州に来たのだからと山の幸、川魚メインで組み立てる。
やはり欠かせないのが馬刺。解凍ものではなく、肉屋で捌いたものがそのまま出る感じである。身も分厚い。
次は鱒の昆布締め。昆布締めというと富山のイメージが強いが、口に入れると昆布のほのかな風味が広がる。結構いい味だ。
そして、強烈なのはやはりイナゴ佃煮。前回来た時が「イナゴ初体験」だったのだが、調理がよいせいか虫を食べているという感じがしなかった。歯応えは海老に近いかな。ただ、やはり調理前の原形を見せられると・・・やはり抵抗感じるのだろうな。土産物屋でも気軽に並べられているイナゴだが、どこで集めるのだろうか。田んぼに自然発生するのを捕まえるわけではないだろうし(それほどいるとなると、稲のほうが大きなダメージだろう)、やはりどこかで養殖のように育てているのかな。
店に入りしばらくすると座敷も次々に埋まり、いつしか5席のカウンターもいっぱいになった。早く来ておいてよかった。店が少ないから観光客も来るのだろうし、盆の時期ということで久しぶりに帰省して地元の旧友たちに会うというのもあるだろう。私もまた来れてよかった。
さて諏訪湖の夏といえば花火である。ちょうど前日15日がメインの花火大会。さぞ大勢の見物客で賑わったことだろう。その次の日に泊まるというのも何かひねくれているような、間の悪いことに思える。
ただ、諏訪湖の面白いのは、8月の期間中は毎晩花火が上がることである。さすがに何千発、何万発とはいかないが、それでも一時涼むのに良いサービスである。
湖畔に行くと、20時半の開始を待つ人が結構いる。近くのホテルから浴衣姿の人もいれば、シートを敷いて宴会の最中の人もいる。私も遊歩道の脇に座り、打ち上げを待つ。
音楽と共に次々に花火が上がる。大阪でもPLや淀川(今年は台風のため中止)をはじめとした花火大会が行われるが、混雑が好きでないのと仕事が重なるのと(横で手をつないで見る人がいないのと)で、見ることはめったにない。そんな人でも、諏訪の人たちのおもてなしの花火を楽しむことができる。
15分ほどのショーであるが、それなりに起伏もある。大花火大会ほどの連発ものがない分、BGMで盛り上げる演出がある。いろいろあったが、終盤はサザンの「蛍」、そして最後は「アナと雪の女王」が来る。この並び、花火にも結構会う。
夕方からは雨も上がったし、翌17日の茅野でのBCリーグの試合は無事にできるかな。午前中に栂池高原行きを中止した影響など全くなく、旅の折り返しを味わうのであった・・・。