信濃大町に到着。ここまで来ると先ほどの強い雨もいくらか弱まったようだ。とは言うものの傘は手放せない。
ここは塩の道・千国街道の要衝ではあるが、現在では立山黒部アルペンルートの長野県側の玄関口である。そのために登山の格好をした客が駅構内にあふれている。私も時刻表を見て、時間的に黒四ダムくらいまでなら往復できるなと読むが、この天候でもあるし、路線バスやトロリーバスというのは運賃も結構高い。
ここは町歩きでいくらか時間を使うとして、まずは早めの食事とする。以前に千国街道をクルマで走った時に信濃大町を通ったのだが、その時に訪れたそば屋が駅前にある。「こばやし」という、この辺りでは有名な店である。
お盆期間中ということで限定メニューという。どうやらそばの大盛と天ぷらができないようだ。確か一つのボリュームは少なかったはずなので、冷たいのと温かいのということでもりそばと山菜そばをいただく。いずれも素朴な味わいである・・・が、すぐに食べ終えてしまう。まあ、本場のそばはそういうものだろう。
まず訪れるのは駅にほど近い「塩の道博物館」である。塩問屋であった旧平林家の母屋と塩蔵を保存しており、街道や産業の歴史を学ぶことができるところで、過去にも何回か見学した。確かまず最初にビデオを見てという手順だったかな。
それが今回訪れてみると、「塩の道ちょうじや」という名前に変わっていた。「ちょうじや」とは聞きなれないが、平林家の家紋「六つ丁子」から来ているとか。後でネットを見ると、元々博物館を運営していた会社(そもそも、この会社も解体寸前だったこの建物を保存しようと立ち上がったのだったが)が入場者の減少等で運営が立ち行かなくなり解散したのを、市民の有志が引き受けて昨年4月に一般社団法人として再度開館したという。そのためか、以前のいかにも「博物館」然とした展示よりも、ソフトな交流スペースとしての、町並み文化の発信基地としての役割を出すというところである。だから入口もオープンな雰囲気に変わっていた。
囲炉裏で女性の係員から建物の説明を受け、母屋の見学である。2階が展示スペースになっているのだが、この中身は以前と変わっていないようである。改めて、展示物や写真などから当時の道行きの困難さを思う。先ほど糸魚川から大雨の姫川に沿って列車でやってきたが、意外にも塩の道は川沿いではなく山越えのルートである。道路や線路がそうであるように川に沿ったほうが交通としては便利なのだが、やはり昔は暴れ川の脇を通ることに大きなリスクを感じていたのだろうか。
武田信玄と上杉謙信の「敵に塩を送る」の伝説のイメージからか、当然塩は日本海、糸魚川や上越の辺りで取れたものだと思うが、改めて解説を読むと、江戸時代以降に商品として塩の道経由で信州にもたらされた塩というのは、日本海のものではなかったようである。瀬戸内の塩が北前船のルートに乗って運ばれたとか。伯方の塩、赤穂の塩もブランドものとして信州にやってきたのかな。ここにも、日本の流通や交易の歴史に大きな役割を果たした北前船というものが存在する。
塩蔵も見学する。蔵の中には、塩から出るにがりを集める「にがりだめ」の遺構も見る。これが現存するのは全国的にも珍しいとか。
さて塩の道、アルペンルートの玄関口としてではなく、今年は「食とアートの回廊」というのが行われており、いわゆる街角ギャラリーがあったり、「男水」「女水」などの水スポットがある。
他にも商店街では「街中図書館」というのを見る。店先にダンボールを置き、「貸出料金無料、貸出期間無期限」ということでその中に本が収められている。中にはベンチやテーブルまで設けたものもある。たまにローカル線の駅に行くと待合室に善意で集められた本がミニ図書館として整理されているが、これを商店街ぐるみでやってしまうところが面白い。こういうのは一見の客である私もお借りしてよいものだろうか。貸出期間無期限ではあるが、また次に「本を返しに来るために信濃大町を旅行する」のも味な話とは思う。ただあいにくと肝心の「借りたい本」は見つからなかったが・・・。
こうして見ると信濃大町がアートを含めた町おこしに取り組んでいるのがわかる。元々の観光資源はあるし、温泉や酒どころもあるのだが、やはりそれだけでは多くの人を引きつけるのが難しくなったのか。またこれからどうなるか、いつの日か再訪してみたいものである。
さて駅に戻る。決して広くない待合スペースは人でごった返しており、列車の電光掲示板を見ても発車時刻を過ぎているのに前の時間の列車の表示のままである。どうやら沿線の駅で信号機のトラブルがあったようで、単線のために反対方向の列車にも影響が出ている。どうなるかと見ていると、間もなく遅れていた松本行が入るとのアナウンス。予定より一本前の便が遅れてちょうど乗れるタイミングであった。今度はクロスシートとロングシートが混在する車両だったが、松本方面に向かう乗客で混んでおり、最後部に立つ。
さて次はどうしようか。列車ダイヤの乱れがいつまで影響するかわからないが、もうすでに夕方予定していた「リゾートビューふるさと」の乗車はあきらめた。松本、上諏訪にそのまま南下するか、途中もう一ヶ所くらいで途中下車するかである。そこで選んだのは、穂高。さすがに雨でわさび園などのサイクリングはできないが、徒歩圏内の穂高神社参拝や碌山美術館見学くらいならできるだろう。ということでこちらで下車し、社殿風の造りの駅舎に出る・・・。