
三津浜に着く。ホテルには歩いて10分ほどの距離だが、少しこの町を回りながら行くことにする。
聖徳太子の頃の歌にも出てくる熟田津はこの辺りとされているがはっきりとした痕跡があるわけではない。江戸初期に松山藩の港として整備されたのが始まりとされている。以後、松山の海の玄関口として栄えることになる。

太平洋戦争で松山の市街地は空襲に遭ったが、三津浜の辺りは免れたために昔ながらの姿を残すことになった。しかし中心部から離れていることや、松山観光港はあるものの海が玄関口ということがなくなったためか、人の流れも変わり、三津浜は寂れるようになる。ただ最近はレトロの町並みとしての人気もあるようで、古い家屋を改装して新たな店がオープンしている。ちょうど今回来る直前に見た旅番組の「遠くへ行きたい」で松山をやっていたが、その中でも三津浜に新たにできたパン屋さんやアートの店などが出ていた。まあ、それらにはあまりとらわれずに気ままに歩くことにする。

まず現れたのは、石崎汽船の本社ビル。大正時代の建物で、最近まで実際に本社ビルとして使っていたそうである。




入り江に沿って歩く。対岸の丘にあるのは中世の河野氏の拠点の一つ、湊山城である。ちょうど港を見下ろす位置にあり、正に砦に適したところである。舟が出入りするためか、その湊山地区との間には橋がなく、その代わりに渡し舟が出ている。随時運航、運賃無料である。松山で渡し舟を見るとは思わなかった。






この後は細い路地を歩く。古民家を改装した鯛めしの店や、土塀の残る家、昔の病院など。古い井戸もある。


先ほど、柳井の町を歩いたばかりなのでつい比較してしまうが、柳井は観光も意識して通りも整備していて、ある程度の知名度も得ているのに対して、三津浜はたまたま残った町家を何とか若い人に受けるように発信しようという感じである。松山の観光はどうしても道後温泉や松山城が有名で、三津浜はまだ知る人ぞ知るという感じだが、これからじわじわと人気が出てくるのかもしれない。
そんな三津浜の町が前面にPRしていると言っていいのが「三津浜焼き」。つまりは広島風のお好み焼きである。三津浜焼きは四国めぐりの中で、宇和島での四国アイランドリーグの観戦の時に球場の屋台に出ていたのを食べたことがあり、そこで初めて三津浜焼きという名前を知った。四国めぐりが松山まで進んだら食べてみようかと思っていたところ、こうして三津浜に来ることができた。
町内には三津浜焼きの店が結構あるようで、「三津浜焼き」の幟を出す店がある一方、単に看板に「お好み焼き」と書いた店も多い。はたまた、「広島風お好み焼き」の看板の上に「三津浜焼き」の幟を出す店もある。これらの微妙な感覚は何となくわかる。広島に住んだことがあるから感じたが、広島の人たちはわざわざお好み焼きに「広島風」とはつけない。あえて区別しとるんは、広島の店なのに関西風お好み焼きを売り物にしとる「徳川」くらいじゃろう・・・というのはさておき、三津浜焼きという呼び方への受け止め方はさまざまあるようだ。


そんな中で、伊予鉄道の三津駅に近い「日の出」という店に入る。こちらは「三津浜焼き」ではなく「お好み焼き」と呼ぶ店の一つである。鉄板の前に5~6人が座るだけのカウンターの店だが、鉄板の上ではまさしく出来上がりの最中である。カウンターの先客の数より三津浜焼きの数が多いのは、持ち帰り用である。待っている間にも注文の電話がかかってくる。

三津浜焼きは見た目広島風と似ているが、違いがいろいろある。そば、うどんをつけるのが一般的だが、先に生地の上に乗せてしまう。このため「そば(うどん)台付」との言い方がある。また肉も豚ではなく牛肉で、しかも牛脂がつく。肉以上に必須なのはちくわかかまぼこ。そして焼き上がった最後に魚の削り粉をかける。ルーツは同じ一銭洋食として、さまざまに派生したもの。そして、辛さに応じて3種類あるソースを使いながらいただく。見た目は少々雑だが味はしっかりしている。松山の味の一つをいただいたことで満足だ。


これで町歩きはおしまいとして、三津駅から線路沿いに少し歩いたホテルAZにチェックイン。九州を中心に展開するホテルチェーンで、松山ではまだ新しい感じのビジネスホテルである。こちらは学校の部活動の宿舎としてもニーズがあるようで、この日は広島の少年野球チームや、関西、九州の高校からの3チーム(おそらくバレーボール)の宿泊があった。

泊まって飲みに行くなら松山駅前でいいところ、店が少ない三津浜に泊まったのは、のんびりしたいということもあるが、それに加えて、ホテルにバイキング形式の夕食があり、今回はこれでいいかということもあった。
チェックイン時の案内で、先に部活動の団体が食事するので時間をずらすようお願いされていたこともあり、19時過ぎに食堂に向かう。一応団体用と個人用で席が分かれているが、ちょうど団体用の席では先生と生徒の食事の最中である。料理はバイキングだが、別に松山らしいもの、四国らしいものはない。安くて腹にたまりそうなものがほとんどだが、そこは値段相応である。むしろ、食べ盛りの生徒たちにはこうした料理のほうがいいだろう。ショートカットの女の子たちが、代わる代わる料理やドリンクバーのお替わりに来る。

それらを承知でここでの夕食を選んだのは、アルコール類が972円の追加で飲み放題になるということからである(何やねん、この飲んべえのおっさん(笑))。フロントに申し出ると食堂でジョッキを渡されて、生ビール、松竹梅、白岳しろ、二階堂、黒霧島、鏡月(サワーのベースとして)などがセルフサービスでいただける。これはすごい。
こういうホテルだからか、部活動の先生もさりげなくジョッキのお替わりを注ぎに来るし、何かの工事で長期滞在らしい職人さんたちもまずここで一杯引っかける感じだ(現場との移動はクルマなのだろう)。土曜の夜で明日は休みだし、職人さんたちはこれから道後にくりこもうかという勢いである。一方私はといえば並んでいるものはいろいろ楽しみ、その結果道後へくりこみ・・・にはならずすっかり満足して部屋に戻る。「飲む打つ買う」ではなく、「飲む飲む飲む」、ノムさんの三冠王というていで。
この記事をご覧の方の中には、「二次会として、三津浜焼きを肴にビール飲めばいいのでは?」と思われるかもしれない。ただそこは、多くの店が19時には閉店ということがある。こちらのお好み焼きは、あくまで昼の食べ物なのだろう。
こうした感じで1日目は終わりだが、肝心なのは翌日(17日)の動きである。一応、プランニングをして三津浜まで来たのだが、翌日はどういう動きになることやら・・・?